【トップ対談23】組合員・地域とともに(上)総合力を発揮して地域共生社会をつくるゲスト/池村 正(滋賀県 JAこうか 代表理事組合長)

ゲスト

池村 正
滋賀県 JAこうか 代表理事組合長

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学 特任教授
京都大学 学術情報メディアセンター研究員

JAこうか(甲賀農業協同組合)

JAこうか地図

1994年4月に甲賀郡農業協同組合、甲西町農業協同組合、石部町農業協同組合が合併して誕生した。2009年4月に名称を甲賀農業協同組合(JAこうか)に変更し、JA運営の基本理念に基づき、組合員・利用者から信頼されるJAを目指している。

○組織の概況

組合員数17,107
(正組合員5,922、准組合員11,185)
役員数33(常勤・非常勤含む)
職員数347(有期職員含む)

○地域と農業の概況

管内には鈴鹿山系に源を発する野洲川と、その支流である杣川が西流し、その沿岸には肥沃な沖積平野がひらけている。管内南西部の甲賀市信楽町は唯一の野洲川流域外にあり、標高300メートルの高原盆地を形成している。このような豊かな水と自然の中で、稲作を軸に茶や野菜などの生産、畜産業が展開されている。

○JAデータ

 JAこうか ゆめ丸

設立 1994年4月1日
本所所在地 甲賀市水口町水口6111番1
出資金 25億円
貯金 1,805億円
貸出金 222億円
長期共済保有高 4,711億円
購買品取扱高 13億円
販売品取扱高 33億円
(2022年3月末時点)

総合力を発揮して地域共生社会をつくる

大型合併農協の甲賀郡農協が設立されてから44年。合併効果をいち早く発現させてきたが、その基本は、組合員との徹底した「対話」による地域の農業とくらしの活性化に置かれている。教育人事、総務、総合企画などの管理部門を歩み、“人づくり”を重視したJA運営に注力してきた池村正組合長にわがJAを語ってもらった。

プロフィール

いしだ・まさあき

石田正昭

いしだ・まさあき/1948年生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程満期退学。農学博士。専門は地域農業論、協同組合論。元・日本協同組合学会会長。三重大学、龍谷大学の教授を経て、現職。近刊書に『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』『いのち・地域を未来につなぐ これからの協同組合間連携』(ともに編著、家の光協会刊)。

池村 正氏

池村 正

いけむら ただし/1961年滋賀県甲賀市生まれ。81年甲賀郡農業協同組合入組。2015年甲賀農業協同組合総務部長、17年総合企画部長を経て18年に総務担当常務、21年に代表理事組合長に就任し、現在に至る。

先見性あふれるJAづくり

石田:お隣の三重県から見ていて、集落型営農組織をはじめとする組合員組織が活発に活動し、団結力のあるJAだと感じています。「家の光文化賞」も何回もおとりになりました。

池村:JAこうか(甲賀農業協同組合)は甲賀市と湖南市を区域としていますが、前身の甲賀郡農協は甲賀市内の旧5町(水口町、土山町、甲賀町、甲南町、信楽町)の農協が合併して、1978年に設立されました。その時点ですでに竜池農協(甲南町内)、甲南町農協、水口町農協の3農協が「家の光文化賞」を受賞していました。94年、甲賀郡農協に湖南市内の旧2町(甲西町、石部町)の農協が加わって現在のJAこうかが誕生しましたが、「家の光文化賞」を2001年に受賞しています。それから20年以上も経過しています。

石田:なるほど。

池村:組合員組織の活動が活発な理由には2つあると思います。1つは、地域の方々がもつ団結力の強さです。ご存じのように、ここは“甲賀忍者”の里でして、俗に「甲賀五十三家」と呼ばれる在地領主層が地域の防衛と在地の支配のために「甲賀郡中惣」(こうかぐんちゅうそう)という自治組織を形成していました。それぞれの家で掟を定め、惣領家と庶子家(分家)等からなる構成員による合議制でものごとを決めていました。合議制で決めていく地域なので、団結力がものすごく強いんです。加えて「五十三家」に飛びぬけた家はなく、だいたいが横一列で並んでいました。この点は、服部家など有力家系「三家」の意向が強く働いていた“伊賀忍者”とは大きく異なる点です。
 もう1つは、忍者の里と呼ばれるだけあって、情報収集には長けていたようです。そんなDNAが働いたのでしょうか、78年には、当時、全国でも10本の指に入るような大型合併を行い、注目を集めるようになりました。それ以降、私で10代目の組合長になりますが、歴代の組合長たちが次々と新機軸を打ち出してきました。そんな組合長たちと比べると、今の、私の動きのほうが遅いかなと感じることがしばしばです。

石田:先見性あふれる先輩組合長たちの薫陶を受けてきたというわけですね。

池村:私ども職員の提案も積極的に受け入れていただきました。私が甲賀郡農協に入ったのは、合併間もない81年です。99~09年に教育人事課に配属されましたが、そのときに“かふか塾”(かふか=鹿深は地名で、22年6月に“鹿深夢の森”で全国植樹祭が開催された)という名の職員教育をスタートさせました。
 JAでは総合力の発揮が何よりもたいせつですが、日常業務では金融共済と営農経済の区分がはっきりしていて、組合員の幸せづくり、心豊かな地域社会づくりといった、JA運動の理念が希薄になっています。これではいけないと思い、オールマイティーな職員を育てる場として“かふか塾”を開講したのです。これは現在も続いています。入組5年目までの職員を対象に、JA職員に必須のスキルを5年間で習得できるプログラムを用意しています。農作業実習や業務研修、電話応対、地区だよりの作成などを行って、JA職員としての基本的な行動を身に付けたり、組合員・利用者の方々に商品・仕組みのよさを伝えられるようにしています。“かふか塾”の講師は先輩職員たちが務めており、講師役の職員たちにとってもスキルアップと人間性の高揚に役立っています。

かふか塾で学ぶ入組1年目の職員
かふか塾で学ぶ入組1年目の職員

何よりもたいせつなのは“人づくり”

池村:教育人事課では「人を育てる」ことに全力を傾注しましたが、09年に金融部に異動になり、次いで12年に支所長として現場へ出ていったときに、窓口の会話なり、渉外と同行して組合員・利用者との会話なりを聞くなかで、会話の引き出しがあまりにも少ないことに愕然としました。これでは組合員・利用者との対話が成立する環境にはなっていないことを痛感しました。私が教育人事課で取り組んできたことは業務、スキルであって、数多くの引き出しをつくり、人間としてのキャパを広げることに結びついていないという反省が生まれました。
 いろんな組合員・利用者がおられますので、どうすれば引き出しを増やせるのかなと考えたときに、「日本農業新聞」であれば職員たちは皆読していますので、これを使おうと思い立ちました。どんな記事であってもいい、人によって注目する記事は異なります。その注目する記事の感想文を書かせることにしたのです。

石田:支所長の独自の判断でそれを始めたのですか。

池村:まずはそうしました。そして、3年間支所長をして、15年に総務部長として本所に戻ったときにJA全体に広げました。「日本農業新聞を読んで」という名の、1週間を単位とした報告書です(発行週の翌週月曜に所属長に提出)。
 月曜から金曜までの毎日、注目記事の「見出し」を書き出し、その切り抜きを添付して感想文を書くことにしています。提出された報告書に対して所属長がコメントを書いて本人に返却しますが、その後は各自がファイリングして情報源として活用することにしています。
 これを続けていると自然と引き出しが増えるんですね。対話を重視するといっても、そもそもの基盤がなければ成果は上がりません。「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」「お待たせしました」はいえるけれど、二の矢、三の矢が出てこない。「今日の天気」を話題にするのもいいですが、お近づきになろうとするときに、それでは弱い。弱すぎます。

石田:営農といっても、それに関係するさまざまな話題をもっていなくては話は弾みません。もろ営農じゃなくても、それに関係する知識が必要です。金融も同じで、まずは暮らしの話から始めるのがスムーズです。

池村:そうなんですね。この記事をメインにしなさいとか一切言っていませんので、職員によって観点はまったく異なります。組合員・利用者の方々と接するというなかで、バラエティに富んだ引き出しをもっているということで、「この子と出会ってしゃべるのが面白いね」といってくださるファンを1人でも多くつくってほしいと思っています。
 私ども、毎月1回、組合員訪問を行っていて、広報誌『こうか』と『家の光』をお渡ししています。1人あたり平均60軒を回ります。当然、お留守の家もありますので、そのときはポスティングになります。しかし、これではあまりにも味気ないので、A4サイズ半分くらいの大きさで、担当者からのメッセージカードを添えています。手書きで時候のあいさつやお得情報、それに女性職員によっては絵も書き加えて、親しみをもってもらえるように工夫しています。
 ちょうど3年前ですか、全組合員アンケート調査を行ったときに、初めて担当者と出会ったという准組合員さんに「あなたが〇〇さんでしたか」といってもらえたそうで、回答依頼のハードルが格段に下がったという報告を受けました。

組合員・利用者との対話の重要性を語る池村組合長
組合員・利用者との対話の重要性を語る池村組合長
組合員訪問に持参するメッセージカード

組合員訪問に持参するメッセージカード

“箱”ではない、“中身”が重要だ

池村:『家の光』も“読みどころ”を添えて配本しています。“読みどころ”は全体が絵画面で構成されていますが、これは本所の「くらしの活動課」が作成し、それに配本担当者のコメントを宛名付きで書き加えることにしています。お留守の家も、在宅の家も、みんな同じようにしてお渡ししています。

石田:どのJAもやっているとは思いますが、ここまで作り込まれた“読みどころ”は見たことがありません。広報誌『こうか』にしても、JAによる「くらしの活動」の提案にしても、アイデアが豊富だなという印象をもっていましたが、そういう職員を育ててきたのは立派です。

読みどころといっしょに『家の光』を配本
『家の光』といっしょに配られる読みどころ
『家の光』といっしょに配られる読みどころ[PDF]

池村:ありがとうございます。励みになります。“人づくり”という点では、職員だけではなく、組合員の“人づくり”もたいせつだと考えています。
 実は、管内には38の集落型営農組織がありますが、共通する大きな課題は後継者、とりわけ役員となるようなリーダー的な人材が乏しいということです。ということで、3年前から「忍(しのび)★あすてる」という名の協同組合塾を開講しています。1期1年ですが、これまでの修了生は59人に上ります。
 カリキュラムの構成は全7回で、農業・農政をめぐる情勢、法人組織が活性化する経営戦略・マーケティング、担い手・事業承継、協同組合論からひもとくJAの役割、人間力向上のヒント、現地研修など、開講趣旨に沿ったレベルの高いものとしています。
 大きくいうと、集落型営農法人の後継者には見識・スキルの高い人が何人かいらっしゃいます。ですから、各組織には、次の担い手と目される人を出してくださいとお願いしています。そうしないと受講生にデコボコができてしまい、カリキュラムが組みにくいという判断があったからです。
 自慢することではないのですが、私どもには「青壮年部」がありません。ということで、8月20日には、これまでの修了生に呼びかけて「青壮年部」を立ち上げることにしています。

石田:私はね、「女性部」にも同じことがいえるのですが、「青壮年部」のような活動目的がみえにくい名称は使うなといっているんです。例えば「あすてる」というような、明日を担う経営者グループであることをアピールする名称を使うほうがスマートだと思いますよ。

池村:私どももそう思っておりまして、とりあえず「地域営農組織次世代部会」という呼び方をしています。この部会には女性にも入っていただきます。2期生にちょうど女性がおられましたので。

石田:それが現実ですよ。いまや女性のオペレーターがふつうに活躍する時代になっています。そんな時代に男女の区別というのは必要ない。次世代部会という名称、これには夢がありますね。

池村:組合員組織をつくるにしても、“やらされ感”満載の組織づくりでは長続きしません。自分たちが求めているものは何かということを明確にするなかで、JAが求めていることも理解していただいて、お互い“ウィンウィン”の関係をつくらなければならないのです。「忍★あすてる」のカリキュラムも、そういう方針で貫かれています。“箱”をつくることは簡単です。しかし“箱”をつくること自体が目的ではありません。“中身”が重要なのです。

「忍★あすてる」修了式
「忍★あすてる」の修了式
集落法人の次世代部会
新しく設立された「地域営農組織次世代部会」

(取材日7月14日。以下、10月配信に続く)

コラム

属性で人を分けるな

同僚の女性研究者から「JA女性部というのは何をする組織なの、その目的は何なの」と尋ねられたことがある。それも1人だけではない。複数の研究者から尋ねられた。

JAの女性部にしても、青年部にしても、立派な組織綱領をもっている。しかし、その綱領を取り出して、ていねいに説明しても、納得が得られるものではなかった。おそらく当事者である女性部員、青年部員であっても、的確に説明できる人はいないのではないか。

なぜ的確に説明できないのか。いうまでもないが、その組織自体が、女性とか後継ぎなど、人の属性で区分されており、何を目的に連帯するのかが明確ではないからである。協同組合原則では「性・年齢の差別」は行わないとうたわれており、女性部、青年部などの属性別組織が推奨されているわけではない。

公開日:2022/09/01 記事ジャンル: 配信月: タグ: / / / /

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