【トップ対談27】組合員・地域とともに届けたい「大地からの贈り物 にしみの育ちの宝物」(下)ゲスト/小林 徹(岐阜県 JAにしみの 代表理事組合長)

ゲスト

小林 徹(下)
岐阜県 JAにしみの 代表理事組合長

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学名誉教授
京都大学学術情報メディアセンター研究員

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JAにしみの(西美濃農業協同組合)<下>

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届けたい「大地からの贈り物 にしみの育ちの宝物」(下)

自主・自立は女性部活動の基本。しかし「放っておいても育つ」と考えるのも誤り。かつては全国でただ一つ、女性課を設置していたJAにしみの。女性部と伴走する職員はいまも健在だ。JA全国女性組織協議会の「仲間づくり運動表彰」「組合員加入運動表彰」を何回も受けている。センスが光るJA運営のあり方を小林徹組合長に語ってもらった。

三面六臂の活躍 地域ふれあい課

石田:JA運営への女性参画についてですが、どのような状況でしょうか。

小林:2021(令和3)年度末現在で、正組合員は24%、准組合員は32%、総代は11%、役員は理事2人です。女性部で毎年100人を目標に女性組合員を増やす運動をやっていますが、正組合員30%目標にはまだ届いていません。もう一段、努力しなければなりませんが、総代と役員の15%目標については、すでに2022年10月の理事会で決議しましたので、総代は2023年の総代改選時に、役員は2024年の役員改選時にクリアされます。

石田:女性役員はどのように選んでいますか。

小林:現在は、各区域(大垣、神戸、安八、海津、養老、不破の6区域で構成)ではなく、全区域から2人を推薦いただいています。定款では「女性代表」という表現をしていますので、区域ベースの女性部、作目ベースの女性部の区別なく推薦いただいています。トマト、小松菜、キュウリなど構成員の多い作目別部会では、部会自体が女性部を抱えているためです。ただ、区域ベースの女性部と作目ベースの女性部の構成員は重なっていることも多く、現在は区域ベースの女性部から2人の理事が選ばれています。次期の改選期からはそういう形ではなく、区域から推薦される役員候補者のなかに女性何人という形で推薦いただくことになります。

小林組合長写真

石田:女性部の事務局体制はどうなっていますか。

小林:作目ベースの女性部は営農経済センター(6区域に設置)の作目担当者が対応しています。一方、区域ベースの女性部は本店では「地域ふれあい課」が担当しています。地域ふれあい課は課長を含めて5人体制ですが、それと統括支店(6区域に設置)に1人ずつ専任の生活担当者を配置しています。

石田:区域といっても、大垣のように大きな区域もあれば、神戸や不破などの小さな区域もありますが。

小林:大垣など大きな区域には複数の支店がありますので、その支店に専任ではありませんが担当者を配置しています。たとえば、大垣には14支店ありますが、その支店担当者がよく動いてくれています。その場合、統括支店の生活担当者は支店担当者のとりまとめ役という位置づけになります。
 本店の地域ふれあい課は、『JAN!』をはじめとする広報関係の仕事と女性部活動や地域貢献活動などの生活関係の仕事を担っています。コロナ禍以前は女性部活動を専門にサポートする全国唯一の「女性課」がありましたが、コロナ禍で女性部活動が停滞したこともあり、現在は広報を担当する「ふれあい課」と統合して「地域ふれあい課」としています。食と農に関する活動を通して、組合員・地域住民との仲間づくりをすすめるとともに、その成果を広く地域にPRしてもらっています。

石田:広報もすごくレベルの高い仕事をされていますが、それだけではなく女性部活動や地域貢献活動にもウイングを広げ、三面六臂の活躍ですね。

石田先生写真

小林:女性部活動に関するこれまでの経緯を簡単に説明すれば、2014(平成26)年に「女性部活性化研究会」を立ち上げて以降、女性部の会員数の増大と女性組合員の拡大に取り組んできました。その結果、女性部の会員は2012年度末現在で合併当時の約3割にあたる4,000人まで減少していましたが、2021年度末現在では6,200人まで回復しています。女性組合員も正准合わせて1万2,000人を数えるに至っています。
 この運動が功を奏したのでしょう。JA全国女性組織協議会の「仲間づくり運動表彰」では、2014年度から2018年度までの5年間と2021年度に全国表彰(1位)を受けました。また「組合員加入運動表彰」では、2014年度、2018年度、2021年度の3回、全国表彰(1位)を受けました。いずれも女性部の会長がJA全女協総会で表彰を受けるという栄誉に浴しました。

「あぐりん活動」で地域とつながる

小林:JAにしみの女性部の愛称は「JAにしみのレディース」です。女性部大会も「JAにしみのレディース大会」と呼んでいて、2022年5月に3年ぶりに開催しました。

2022年開催の「JAにしみのレディース大会2022」
2022年開催の「JAにしみのレディース大会2022」

石田:JAにしみのレディースですか。しゃれた名前ですね。

小林:先ほど説明した女性部活性化研究会で提唱されたことは、活動のマンネリ化を防ぐ手立てとして、6区域31支部(支店)で行われる「支部オリジナル活動」を広めることと、45歳以下の会員を対象とする「世代別活動」、具体的には“きらきらclub”を設立することの2つでした。
 もちろん、全区域の統一行動(レディース大会、家庭ででた不要品を再利用し、植木鉢を作る「木づかい鉢」、ジョギングをしながらごみ拾いをする「プロギング」など)もありますし、区域別の統一行動(地産地消セミナー、ふれあいの旅、ごきぶり団子作り、木目込み人形作り、押し絵などは人気が高く、多くの区域で開講されているが、このほかに各区域で独自に開講される講座も数多い)もありますが、各支部で好きな仲間と好きなことをやるサークル活動(好き寄り活動)が全部で100くらい誕生しています。

石田:いわゆる目的別グループですね。100もあるというのはすごいです。

小林:そうですか。たとえば、私の妻が友だち20人くらいを集めてサークルをつくり、『家の光』を読んだり、草もちやおはぎを作ったりしていますが、そういう好き寄り活動があちこちで展開されています。ダンスをやる人、寄せ植えをやる人、刺繡をやる人、木目込みをやる人など、さまざまです。

石田:『家の光』の読書会は必須ですか。

小林:好き寄り活動の開催回数は自由ですが、その集まりの始まりか終わりには必ず読書会を開いてもらっています。読書会をして、何かしらヒントを得てもらいたいという思いからです。なかには『家の光』の連載記事「美輪明宏の人生相談」ばかり読むところもあるようですが……。

石田:『家の光』記事活用グループとしても活発に活動されていることがよくわかります。もう一つ、フレミズ対象のきらきらclubはどういう活動を行っていますか。

小林:きらきらclubには毎年200人くらいの会員が参加されますが、全区域一本で募集をかけています。2022年度の場合、年間12講座、「ドライフラワーのアロマワックスサシェ(※)」「毎年やりたい梅しごと(※)」「野菜を使った染め物体験(※)」「テラニウム作り」「オリジナル写真立て作り」「親子でピザパンとデザート作り」「親子で工作作り」「Xmasリース作り」「Xmasケーキ作り(※)」「かわいい簡単! ミニしめ縄リース作り」「雪だるまを作ろう!」「フラワー講座」を実施あるいは実施を予定しています。応募者はこのなかから好きな講座を選んで参加します。もちろん材料費は自己負担です。

きらきらclubで実施したXmasケーキ作り
きらきらclubで実施したXmasケーキ作り
「にしみのレディース」(女性部)大垣区域の会員募集案内

このうち、※印の4つの講座は託児サービス付きなので、子育て中のお母さんも気軽に参加できますし、夏休みや冬休みには親子で参加できる講座も開かれています。なかでもXmasケーキ作りは毎年人気の講座です。

石田:フレミズ世代のニーズにぴったりですね。これを地域ふれあい課のスタッフが企画し実施するのですか。

小林:いいえ。各区域の生活担当者が企画し実施しています。6区域あるので、6人が2講座ずつアイデアを出してくれます。

石田:なるほど。ところで、にしみのレディース本部役員のお写真を拝見すると、皆さんとても若々しく、やる気まんまんに見えます。出身母体をみると、6区域の部長さんのほか、「ふるさと隊」「助けあい組織」「加工グループ」の代表も役員になっていますね。

小林:本部役員は75歳まで、という年齢制限があります。皆さん活発に活動されています。
 にしみのレディースでは、区域のレディース活動とは別枠で、ふるさと隊、助けあい組織、加工グループの3つを「地域貢献活動」として位置づけています。助けあい組織はボランティアやミニデイサービスを、加工グループはにしみの産の農産物の加工・販売と地産地消のPRをしています。

ファーマーズマーケット入口付近にある加工グループの販売スペース
ファーマーズマーケット入口付近にある加工グループの販売スペース

一方、ふるさと隊は、いわゆる「食農教育活動」を展開しています。6区域合わせて160人くらいの登録がありますが、全員、JA岐阜中央会が主催するJA食農リーダー養成研修会を受講し、「JA食農リーダー」の資格を取得しています。小学校や幼稚園・保育園に出向いたり、野菜の栽培・収穫・調理実習を行う“ふれあいキッズクラブ”を通じて、地域の次世代親子へ「食」と「農」の大切さを伝えています。
 これまでは“まめなかな運動”と称して、20年以上にわたって大豆の栽培・収穫・豆腐作りを各地の小学校で行ってきましたが、現在はその活動を含めて食農教育活動全体を「あぐりん活動」と呼んでいます。
 これまでと大きく異なる点は、これまでは主として小学校高学年、とくに5年生を対象に食農教育活動を展開してきましたが、これからは低学年の1~3年生も対象に加えて、あぐりん活動として衣替えしたことです。『あぐりんBOOK』(岐阜県JAグループ版)を配布するとともに、地域の食と農にかかる出前授業等を行っていく予定です。対象者は岐阜県で5万人を超えますが、ちょうどその本を配布し終わったところです。

アグリんぶっく

JAにしみの管内には2市6町ありますが、その首長さん、教育長さんに直接お会いして、「地域の食と農をつなぐ地産地消に関する協定」を結び、あぐりん活動へのご理解とご協力をお願いしてきました。締結式には当該区域の女性部会長も同席し、『ちゃぐりん』をお渡ししてきました。

センスが光る JA運営

石田:ホームページを開くと、最初の画面に“Give richer grace and moisture”という英文が表示されます。「西美濃の大地に豊かな恵みとうるおいを」を英訳したものですが、格好いいオープニングです。とくにgraceいう単語はキリスト教が教える(万物の創造主たる)「神の恵み」を指していて、人類の生存のために神から授けられたものを意味します。その神に私たちは深く感謝しなければなりません。

JAにしみのWebサイトのトップページ
JAにしみのWebサイトのトップページ

小林:そんな深い意味があるんですね。これは私どもの経営理念「未来を見つめ 西美濃の大地に根ざして さまざまな人々に 豊かな恵みとうるおいを与えるJA」からエッセンスとなる部分を引き出したものです。

石田:もう少し説明しますと、農業者が組織する農業協同組合は、神から授けられた土地、大気、河川、森林などの自然資源を粗末に扱ってはならない。これらの自然資源を、職業的専門家として、専門的知見に基づき、職業的倫理に従って管理・運営していかなければならない。耕作放棄などはもってのほかですし、食べ物の廃棄も許されません。いうならばSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に対応したものです。

小林:ありがとうございます。私たちが行っている「あぐりん活動」の本質を教えていただいた思いがします。

石田:その意味では生産者と消費者の距離は短くなければなりません。その関連でお聞きしたいのですが、去る2022年6月の総代会で、「ファーマーズマーケットを7店舗から5店舗へ集約する」という従来の決議「総合事業再編戦略(事業所再編計画)」を見直し、7店舗を維持することにしましたね。この理由は何でしょうか。

小林:まずお話しなければならないことは、管内人口が急速に減っているということです。最近では毎年1500~1600人も減っています。

石田:本当ですか。信じられません。

小林:残念ながら本当です。中心都市の大垣市も例外ではありません。それと、ファーマーズマーケットは全店舗で収支償わない状況が続いています。出荷手数料を10%から15%に改定しましたが、厳しい状況は続いたままです。このような理由から店舗の集約を決議しましたが、支店の統廃合も実行段階に入っており、店舗と支店を同時に集約するのはいかがなものかという判断がありました。「地産地消」とか「国消国産」を推進しているときに、適切ではないという声もありました。

ファーマーズマーケット1 ファーマーズマーケット2 ファーマーズマーケット3

石田:同じように、先の総代会では「育苗センターを5施設から4施設へ集約する」という従来の決議を見直し、5施設を維持することにしましたね。この理由は何でしょうか。

小林:育苗センターも収支償わない状況が続いています。この状況はわがJAだけではなく、近隣JAも同じです。全国どこのJAも同じではないでしょうか。そんなことから集約の決議をしたわけですが、最近になってJAの枠をこえて営農関連施設を共同利用しようという機運が盛り上がってきました。その動きをとらえての変更でした。

石田:ということは、近隣JAの育苗を引き受けるということですね、とてもいいお話だと思います。本当をいうと、合併、合併と叫ぶ以前に、もっと早く気づいてほしかった。大いに賛成します。育苗センターだけではなく、米・麦・大豆の乾燥調製施設や野菜・果樹・花きの集出荷施設についても、JAの枠をこえて共同利用を検討するべきです。ただ、それって補助金をもらった施設では難しいかもしれません。

小林:JA間の事業連携はこれからの重要課題です。

石田:同じような問題ですが、店舗再編の対象となった支店をJA組合員・利用者の交流の場とするような「よりそいプラザ」へ転換するというのも大きな課題です。どのような状況でしょうか。

小林:よりそいプラザでは、近隣にお住まいの方々の利便性を考えて管理者を1人ずつ配置しています。近在の職員OBに輪番制でお願いしています。ただ、ATMが1台あれば済んでしまうとか、車で5分も走れば隣の支店まで行けるような地域環境のなかで、取次店としての機能を果たしきれていないというのが実情です。
 ですが、高齢者や地域の方々の「よりどころ」として活用していただきたいという思いは変わりません。活用事例としては『家の光』の記事活用グループ(好き寄り活動)に利用していただいているケースがありますが、女性部、年金友の会など組合員組織の方々に利用していただければ幸いです。

石田:助けあい組織のミニデイサービスにも利用できますしね。

小林:そのとおりです。助けあい組織は、大垣の「れんげの会」、不破の「マザーの会」、養老の「なかよし会」、海津の「希望の会」の4つがありますが、これらの会では「100円カフェ」(2022年12月22日 取材時点)の開設準備を進めています。すでに保健所の許可は取っていますが、コロナの感染予防の観点からオープンをためらっている状況です。何しろたくさんの方がお見えになることが予想されますので。

「にしみのカフェ~ひだまり~」
「100円カフェ」は、取材後の2023年2月に「にしみのカフェ~ひだまり~」という名前でオープンした。2月時点では2区域でオープンしたが、今後は6区域で毎月15日の開催を予定している。

コロナ禍なので、当分の間100円カフェの利用者を、会員カードをもっていて顔のわかる女性部と年金友の会のメンバーに限定したいと考えています。加えて、4区域だけでなく、残りの神戸、安八についても、その区域の女性部役員にご協力いただいて開設したいと思っています。そのときに、よりそいプラザを活用するのもよいアイデアだと思います。

【コラム】

JAオリジナルカレンダー「西美濃の四季」

JAオリジナルカレンダー「西美濃の四季」

JAにしみのは、2023年のオリジナルカレンダーを「西美濃の四季」というテーマで、管内の自然や農業など、地域の魅力が伝わる写真を愛好家たちから募集した。総勢23人、計101枚の応募があったという。

じつは風景・景観をテーマとするカレンダーは、県内のJAひがしみの(東美濃農業協同組合、本店=中津川市)での導入が先行している。これまで、JAにしみのは「にしみのブランド」を代表する農産物をテーマにカレンダーを製作してきたが、2023年版から衣替えしたそうである。

カレンダーの表紙を飾っているのは、最優秀賞、優秀賞2点、特別賞に輝いた計4点。それらの部分カットの写真をみて、小林組合長から最優秀賞を当てるように迫られた。小生、見事それを的中させて、何とか面目を保つことができた。

審査員評には「『ひまわりの道』というテーマの最優秀賞は、真っ青な空と黄金色に輝くひまわりの大輪のなかを、幼子が歩む後ろ姿を写している。その姿がいかにも愛くるしく、思わず微笑んでしまう一作である」とある。

フルサイズの写真は8月のカレンダーに掲載されているが、表彰式には写真を撮った若い女性とその幼子が一緒に来てくれたそうである。あたたかいお話であり、来年も乞うご期待である。

(終、取材/12月22日)

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