【トップ対談27】組合員・地域とともに届けたい「大地からの贈り物 にしみの育ちの宝物」(上)ゲスト/小林 徹(岐阜県 JAにしみの 代表理事組合長)

ゲスト

小林 徹(上)
岐阜県 JAにしみの 代表理事組合長

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学名誉教授
京都大学学術情報メディアセンター研究員

JAにしみの(西美濃農業協同組合)

JA概況 地図入る

1999年7月1日に大垣市、神戸町(ごうどちょう)、安八郡、海津郡、養老郡、不破農業協同組合の6農協が合併し、西美濃農業協同組合が誕生。地域にとって「なくてはならない組織」を目指し、経営理念に基づいた、事業展開をすすめている。

○組織の概況

組合員数 40,765
(正組合員 20,507 、准組合員 20,258)
役員数 理事34、監事6(各非常勤含む)
職員数 801(常用的臨時雇用職員を含む)

○地域と農業の概況

県内有数の農業地帯として知られ、米・小麦・大豆の穀類やハウスを利用した園芸も盛んな地域で、特に、冬春トマト・キュウリ、小松菜、グリーンねぎ、切りバラなどは県内最大の産地である。岐阜県南西部に位置する大垣市・海津市・安八郡(神戸町・輪之内町・安八町)・養老郡(養老町)・不破郡(垂井町・関ケ原町)で栽培された農産物を『にしみのブランド』と名付け、地元飲食店を中心に地産地消をすすめている。

○JAデータ

設立 1999年7月1日
本店所在地 岐阜県大垣市東前町 955 番地の 1
出資金 44億円
貯金 5,922億円
貸出金 823億円
長期共済保有高 1 兆 789億円
購買品取扱高 60億円
販売品取扱高 91億円
(2022年3月31日現在)

届けたい「大地からの贈り物 にしみの育ちの宝物」(上)

JAにしみのは岐阜県の西濃地方に位置している。管内には県を代表する上場企業が数多くあり、JAにしみのもこれらの企業とパートナーシップを組むことで西濃地方のよき一員として行動している。バラエティー豊かな農畜産物を背景に、にしみのブランドの浸透によって「食と農」をつなげようとする姿を小林徹組合長に語ってもらった。

いしだ・まさあき

石田正昭

いしだ・まさあき/1948年生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程満期退学。農学博士。専門は地域農業論、協同組合論。元・日本協同組合学会会長。三重大学、龍谷大学の教授を経て、現職。近刊書に『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』『いのち・地域を未来につなぐ これからの協同組合間連携』(ともに編著、家の光協会刊)

小林 徹

小林 徹

こばやし・とおる/1948年生まれ。1978年大垣市農業協同組合(現在のJAにしみの)へ入組。2003年常務理事(経済・営農生活担当)、2006年に同じく常務理事(金融担当)を経て、2009年代表理事専務、2012年理事、2015年 代表理事組合長に就任、現在に至る。

「対話」をひろげて地域とつながる

石田:2011(平成23)年度「第25回JA広報大賞」で大賞をとられました。JA広報誌『JAN!』をみても、その理由がわかるような気がします。誌面全体があか抜けていますし、面白い企画が満載です。

小林:そうですか。自分たちで見ているとあまりピンときませんが……。

石田:シンプルでありながら、ていねいなつくりになっています。高く評価したいと思います。

小林:ありがとうございます。私どもは広報誌も重要な対話手段(コミュニケーションツール)としてとらえています。コロナ禍で取材をちょっと控えめにしているため、現在はページ数を減らしています。その減っているのを見ていただいたことになります。

石田:何といっても企画が素晴らしい。たとえば、「あなたはどっち派?」では読者から二択(たとえば「甘党」か「辛党」か)の回答を寄せてもらうとか、「じゃん写真館」では読者の自慢の写真(こども、ペット、風景、農産物など)、イラストを募集し掲載しています。
 裏表紙には表紙の写真(たとえば「水菜」)に対応する「にしみの地産地消レシピ」(たとえば「水菜の卵とじ」)が掲載されていますが、お皿に盛られた料理とその調理方法のほか、レシピを提供した「にしみのブランド」応援店(合計221の飲食業者で構成)の店名と所在地、代表者(店主、店長、調理長など)の姿が掲載されています。
 もうひとつ、編集後記の扱いになるかと思いますが、担当者(たとえば「あおぞら」と「けん玉くん」)が<かけあい>のようにつぶやく「ふたりの寝言」も面白い。広報誌全体がプロっぽいつくりになっています。

組合員向けに毎月4万部を発行している広報誌『JAN!』

小林:プロだなんて、そんなことはありませんよ。総合企画部地域ふれあい課のスタッフがつくっています。彼らにはごく普通に異動があります。一応4人体制で臨んでいますが、そのうちの1人は女子ソフトボールチーム(JDリーグ:日本ダイヤモンドリーグ)「大垣ミナモ」の選手でした。
 ミナモとは“清流・揖斐川の水面に棲む妖精”を指しています。JDリーグでは唯一のクラブチームで、選手たちは大垣市を代表する11の企業・団体に所属しています。西濃運輸、太平洋工業、イビデン、大垣共立銀行などですが、そのなかにわがJAも入っていて、2人を雇用しています。

石田:それはすばらしい。大垣ミナモは、あの上野由岐子投手がいる「ビックカメラ女子ソフトボール高崎」と戦うのですか?

小林:そうです。オリンピック出場選手を数多く揃える強豪チームと戦うわけですから勝つのは容易ではありませんが、よく善戦しています。
 大垣ミナモの支援企業のひとつに「サンメッセ」という印刷会社があります。大垣市に本社をおく上場企業ですが、今や全国規模で「出版、デジタルメディア、動画、イベントまで、あらゆるコミュニケーションにワンストップで応える」制作会社として発展しています。わがJAもそのサンメッセに広報誌『JAN!』をはじめ広報関係の仕事を発注しています。JAにしみのの設立は1999(平成11)年7月ですが、そのころからのお付き合いです。

石田:『JAN!』の裏表紙には「FSCミックス」(責任ある木質資源を使用した紙)、「VEGETABLE OIL INK」(環境に配慮した植物油インク)使用と記載されています。

小林:サンメッセは「カーボンオフセット」(温室効果ガスの削減を図るとともに削減困難な排出量は排出権取引などの方法で相殺すること)に積極的に取り組んでいます。SDGsにも関係することですが、わがJAもコストだけでものごとを考えるのではなく、環境問題に取り組む同じ仲間としてお付き合いさせてもらっています。
 思うに、「対話」(コミュニケーション)はマンツーマンで会話することだけを意味しません。何人もの人間やいくつもの企業・団体がつながろうとする場合にも成立するものです。対話というのは何かをやろうとするときにお互いが気持ちを合わせることを基本としています。その場面は、今回のように先生との対談の場合もありますし、大垣ミナモのようなスポーツクラブを運営する場合もあります。また、広報誌を通して組合員や地域の方々とつながろうとする場合もあるでしょう。こうした場面がいくつもあって地域社会(コミュニティ)が動いているのだと思います。

「にしみのブランド」の認知度を高めたい

小林:『JAN!』の誌面づくりはサンメッセと話し合いながら進めています。プロのデザイナーがいますので、必要に応じてご意見を頂戴しています。

石田:それがプロっぽいつくりになっている理由でしょうね。大垣市を中心とする西濃地方の一体性を感じます。
 地域のつながりという点では「ぎふ清流GAP」という取り組みもあります。これも先進的な取り組みのように感じました。

小林:岐阜県の認証制度で、県が力を入れています。岐阜県では「清流」という言葉をよく使います。木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)の<清らかな流れ>をイメージさせるものです。JAにしみの管内からも、米、小松菜、水菜、リーフレタス、キャベツ、イチゴなどで6事業者が取得しています。JAがこうした事業者に申請段階からアドバイスし、取引履歴もきちんと管理しています。JAが関わらないという事例はありません。

ぎふ清流GAPの認証を取得した小松菜

GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)は「食の安全」を守るうえでなくてはならない制度ですが、GAPを取ったからといってそれに見合うような価格が得られるとはかぎりません。
 それではいけないということで、県は「ぎふ清流GAP」パートナーという名称を使って、GAP産地と消費者の架け橋となるような流通業者を募集し、組織化しています。ホテル・旅館・飲食店、スーパー・量販店、消費者団体、卸売・小売業者、道の駅・直売所、農協など56の企業・団体が登録しています(2022年10月12日現在)。

石田:それとよく似た取り組みとして「にしみのブランド」応援店という制度もありますね。

「にしみのブランド」を使っている応援店舗に飾られているプレート

小林:そうです。ただし、「ぎふ清流GAP」パートナーの登録は2021(令和3)年9月からのスタートですが、わがJAの「にしみのブランド」応援店は2019(令和元)年度から募集をかけています。ですから、時間軸でいえばわがJAが先行しています。1年に100店ずつ、2021年度までの3年間で合計300店の登録を目指しましたが、コロナ禍ということもあって呼びかけが思うように進まず、221店でストップしています。

石田:それでもすごい数字ですよ。

小林:生産者にも消費者にも「地産地消」を見える形にしたいと思い、登録された飲食店には「にしみのブランド」応援プレートを進呈しています。このプレートをお店に飾っていただくことで、どこへ行けばにしみの産の農産物が買えるか、食べられるかをひと目でわかるようにしたかったからです。実際に300枚のプレートを用意しました。

石田:すばらしいアイデアです。

ファーマーズマーケットの衣斐店長(左)から運営のポイントなどを聞く石田氏

小林:これをどこから発想したかというと、にしみのには素晴らしい農畜産物がたくさんあります。たとえば「にしみのブランド・旬採カレンダー」という食べごろ一覧表をつくり、ミニディスクロージャー誌『JAにしみのがわかる本』(※)に掲載していますが、それによれば、にしみのブランドには穀類3品目、野菜22品目、果実6品目、花き2品目、合計33品目がありますが、そのうちの19品目が県内生産量ナンバーワンになっています(JA全農岐阜・JAにしみの調べ、2022年3月31日現在)。
 ですが「じゃあ、それって何? イチゴ? トマト?」というように、地元の認知度がとても低いんです。ファーマーズマーケットでも認知度を高める努力をしていますが、それ以外に何かいい方法はないだろうかと考えたあげく、小売・飲食店を対象に「にしみのブランド」応援店を募集し、「にしみのブランドで売り出す」「にしみのブランドで飲食店と連携する」という考えにたどり着いたというわけです。「大地からの贈り物 にしみの育ちの宝物」というのは、にしみのブランドのキャッチコピーです。

※JAにしみの ミニディスクロージャー2022

石田:なるほど。お隣の三重県(※筆者は三重県在住)からみていると、米やイチゴ、トマトの主力産地ですから、地元でも十分認知されていると思っていました。
 とくに米では「ハツシモ」が有名です。お寿司屋さんになくてはならない米です。大粒で歯ごたえがあります。このハツシモを武器に、季節の野菜と果実を組み合わせて「にしみのブランド」応援店で使ってもらいたいですね。それに次世代対策としては学校給食でも使ってもらいたいですね。

小林:学校給食はすでに全市町でハツシモを使ってもらっています。JAの精米工場から小中学校に直接お届けしています。

岐阜県を代表する『ハツシモ』

何でもあります、にしみのの農産物

小林:正直に言って、何でもあるんですよ。米はもちろんのこと、トマトであれば海津市、養老町、小松菜・水菜であれば神戸町というように、産地がバラけているわけでもありません。これらの品目では大規模な生産者が着実に育っています。JAの販売品取扱高でみても、米、麦、大豆で33億円、野菜、果実、花きで33億円、畜産物で20億円、ファーマーズマーケットで5億円、合計で91億円にのぼっています。しかし決め手に欠ける。
 たとえば、ハツシモについていえば、農地の集積が進んで、3分の2の農地が担い手のところへ寄っていますので、ハツシモ一本で行くことはできません。作業をこなせないし、JAもカントリーエレベーターの受け付けができません。品種分散を進めなければならない状況です。
 それと、最近は米の消費が鈍化していますので、ボリューム的には値ごろ感のあるお米を流通業者や外食産業が求めています。このため、現在では彼らの要望に沿うような品種、たとえば「ほしじるし」や「あさひの夢」をつくるようにしています。

2022年に完成したJAにしみの北部カントリーエレベーター

ご承知のように、揖斐川下流域に位置する海津市では、1枚が2haとか3haとかの大区画水田になっています。作業的にはラジコンヘリや大型機械を使いながら、スマート農業的なやり方でコストを下げる方向に向かっています。転作作物のキャベツや新タマネギも含めて、いかに効率よく作業するか、これが水田農業の主要な眼目となっています。

石田:米は実需者との契約栽培ですか。

小林:そうです。飲食店でいえば、カレー専門店や和食麺処などの全国チェーンと契約しており、県内チェーン店に向けて出荷しています。実際、そういうお店にも「にしみのブランド」応援店舗(※)になってもらっています。

※「にしみのブランド」応援店舗一覧

石田:すばらしい。管内には名神高速道路や東海環状自動車道が通っていて、工場や事業所もたくさんありますから、そこの給食事業者と契約するのも一つの方法ではないでしょうか。それぞれの職場で「このお米、おいしいね」と評判になれば、JAのファーマーズマーケットに行って買いたいと思うような消費者が増えるのではないでしょうか。

小林:そうだと思いますが、問題は価格面で折り合えるかどうかです。契約栽培は米だけではありません。キャベツ、タマネギもカット野菜工場と契約しており、大型量販店に向けて出荷されています。

石田:カット野菜の袋に「にしみのブランド」のロゴが入っているとなおいいですね。

小林:残念ながら、そこまではいってません。というのは、大半がストアブランドで出ていくからです。カット用野菜の需要は確かに安定していますが、価格的にはメリットがありません。それでもつくっているのは、ひとえに大規模法人の冬場の雇用対策としての意味があるからです。

石田:それと養老町には「飛騨牛」を扱うお肉屋さんがありますね。県内で最大規模と聞いています。

小林:岐阜県内で14か月以上肥育され、肉質等級3等級以上の黒毛和種が「飛騨牛」と認定されます。飛騨牛の多くが養老町の肉屋さんを通っていきます。ですが、にしみの管内の生産は飛騨牛全体の1割ほどしかありません。飛騨牛は年間1万頭くらい流通していますが、そのうちの1000頭くらいです。

石田:それでも1000頭もあるんですね。

小林:そうです。ですから養老町は「肉の町」といってよいでしょう。

石田(追記)
 この原稿の執筆中に、県立大垣養老高校が「和牛甲子園」で最優秀賞を受賞というビッグニュースが飛び込んできた。その新聞記事を以下に紹介する。
 JA全農が主催する、全国の農業系高校の生徒が和牛の肉質や日頃の活動成果を競う「第6回和牛甲子園」で、岐阜県立大垣養老高校が総合評価部門で最優秀賞に輝いた。同校は5回目の出場。今大会を見据え、5年間かけて改良してきた成果の集大成で、狙って手にした栄冠だった。(日本農業新聞2023年1月22日、東海版)

【コラム】

「地産地消」を起点に総合事業性の発揮を!

「にしみのブランド」応援店の取り組みは、管内の商工業者との連携によって「地産地消」を「地産地商」へ拡大する運動としてとらえることができる。本「トップ対談」(『JA教育文化Web』2022年9月・10月配信)でも取り上げたが、JAこうか(滋賀県)の「地産地消」協力店とよく似た取り組みである。

ただし、この取り組みを「食と農」の領域で完結させるのはもったいない。総合JAの役割を「食と農を軸に域内経済循環を促進する」こと、JA信用事業の課題を「金融仲介機能を発揮する」ことに置いたとき、住宅ローン、賃貸住宅ローンに加えて、「食と農」つながりの商工業者への融資拡大のきっかけにする必要があるのではないか。

いうまでもないが、商工業者への融資はフロンティアの領域であるために課題も多い。①地産地消の更なる機運醸成、②商品開発・直販機能の強化、③対話能力の高い人材の育成、④商工業融資経験者の採用、⑤商工団体とのトップ外交などが指摘できるが、総合事業性の発揮により「地域のお金は地域で回す」ことはJAにとって待ったなしの課題である。

公開日:2023/03/01 記事ジャンル: 配信月: タグ: / / / / /

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