【JA実践事例紹介】JAが発信する学び・活動の場の重要性(後編~長野県JAあづみ)小川理恵一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 主席研究員
小川理恵
一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 主席研究員
JA組合員や地域住民が仲間と共に協同組合の特性や意義を学び、さまざまな生活文化活動を体験して交流することの意義は大きい。JAを拠点にした学びの場は、どのような可能性があるのか――。先月から配信している2回シリーズの2回目では、長野県JAあづみが実施する「JAあづみ生き活き塾」から、その可能性を探る。
「学び」と「実践」の輪をつくる~長野県JAあづみ生き活き塾
「JAあづみ生き活き塾」は、同JAが長年にわたり継続して取り組んできた、歴史ある学習活動である。1980(昭和55)年に「若妻大学」として開設し、1993(平成5)年に「女性大学」と改称された女性たちの学習機会を下地として、地域づくりの担い手育成を目指し、女性や組合員だけにとどまらず、すべての地域住民を対象に広げた「JAあづみ生き活き塾」(以後、生き活き塾と表記)として、1999(平成11)年に再設立された。
「組合員をはじめとした地域住民が、この安曇野(あづみの)の地で共に“なだらかに老いていく”ためには、自らの手で豊かな地域をつくる『手法』や『理念』を学ぶことが必要です。地域の真ん中にいるJAには、そうした学習機会を設ける責任があると考えました」。生き活き塾の設立当時、JA職員の主担当であり、現在はNPО法人JAあづみくらしの助け合いネットワークあんしん(以下、NPO法人あんしんと表記)の理事長を務める池田陽子さんは、JAあづみが学習の場づくりに積極的に取り組んできた理由をそう話す。こうした設立当初の思いを、同JAが開講から24年たった今も変わらず持ち続けていることが、生き活き塾の継続性を実現させているといえる。
生き活き塾は1期2年制で、農繁期を除き毎月約1回、1期16回~20回程度の講座で構成されている。現在第12期の2年目を実施中であり、第1期から第12期までの延べ受講者数は1036人に上る。
生き活き塾では「学んだことを、家庭で実践、地域で実践」をスローガンに掲げていることが特徴である。そのため、食・農・環境・福祉など、誰もが自分ごととして捉えやすい、地域の共通課題をテーマに設定し、識者や実践者を招いた座学に加え、テーマに沿った関係機関の現地視察やワークショップ、農作業を組み合わせるなど、一過性の学びに終始しない工夫を施している。
その仕掛けの1つが、JAあづみが運営するデイサービス“JAあづみあんしんの里「楡(にれ)」”(以下、あんしんの里「楡」と表記)の畑における農作業をカリキュラムに組み込んでいる点である。塾生には、組合員でなくとも家庭菜園など農業に関心を持つ人が多い。そこで、座学で「安全・安心な野菜の育て方」や「ぼかし肥料作り」など農業にまつわる学習を行ったうえで、あんしんの里「楡」の畑を実践の場と位置付けて、塾生が毎年1回は必ず実習に参加するよう設定している。作業の日程については、1年目は事務局が事前に割り振るが、2年目は、塾生同士が話し合いで順番や作業内容を決める。畑実習だけでなく、あんしんの里「楡」における収穫祭も講座の1つにカウントしている。
生き活き塾の講座で比較的若い時期からデイサービスとのつながりを持つことで、「いずれは自分もお世話になるかもしれない」という気持ちが塾生に芽生え、自然と農作業にも力が入るようだ。また、畑実習をきっかけに、家庭菜園を始めた塾生や、農家の手伝いに定期的に出かけるようになった塾生もいる。
さらに、NPО法人あんしんが開催する「あんしんセミナー」を大学院として位置付け、継続的な学びを促している点も特徴的である。あんしんセミナーは1年に9回程度開催される自主参加の講座で、生き活き塾での学びをさらに深め、実践につなげるための具体的な道筋を得ることを目的としている。生き活き塾の補講として設定されているほか、多くの卒塾生が、生き活き塾を修了した後もあんしんセミナーに場を移しながら、生涯学習を継続している。
この他にスマホ教室などの単発の学習や、期の最後には、視察と交流を兼ねて先進事例を訪ねる修学旅行も実施している。このように、生き活き塾では一貫して「学びから実践へ」という理念を持ち、点ではなく面で学びをプロデュースしながら20年以上の歴史を刻んできたといえる。
こうした理念のもと、生き活き塾から、これまで多くの「部活動」が誕生していることも特筆すべき点である。その1つが、第3期生き活き塾生の有志により2002年にスタートした「菜の花プロジェクト安曇野」である。第3期の修学旅行で宮崎県都城市の「がまこう庵」を訪れ、家庭でどれだけのエネルギーを自給し、環境を汚さずに暮らせるかを学んだ塾生たちは、帰りのバスのなかで「自分たちにできることはないか」を話し合い「休耕田に菜の花を植えて安心安全でおいしい自然由来の油を搾ろう」という結論に達した。当時の塾生で菜の花プロジェクト発案者の小林あや子さんは「生き活き塾の学びのなかからこの活動が生まれました。プロジェクト実現のために油づくりの勉強を徹底して行ったことで、これまで使っていた油にどれだけ問題があるかが分かり、自分たちがつくる油に自信と誇りが生まれました」と当時を振り返る。菜の花プロジェクトでは、開始から20年となる今も、安曇野スイス村(直売所兼集会場)前の休耕田など約15aの圃場で、植え付け・管理を一貫して行っている。委託で搾油した油は、同じく部活動として始まったふれあい市安曇野「五づくり畑」で販売しているほか、安曇野市の給食センターへ、18年間継続して無償提供している。
この他にも「朗読ボランティアグループ」「ぬかくど隊」「心身機能活性療法指導士の会」など、生き活き塾の学びからは9つの部活動が誕生している。それらの活動が今も色あせずに継続していることは、生き活き塾における学習が、2年間だけで途絶えることなく、さらなる学びとその先の実践へと展開していることを物語っている。部活動は、NPО法人あんしんの「支え合いセンター」を活動拠点にしながら、彩り豊かな地域活動として定着しているのである。
時代の変化に即して コロナ禍での新たな出発
現在実施中の第12期は、コロナ禍でのスタートであり、受講者の減少が予想された。しかしJAあづみでは、コロナを理由に生き活き塾を中止するのではなく、むしろ学びの好時期と捉え「少数精鋭」で継続することとして30人の塾生でスタートをきった。筆者は第12期生き活き塾の塾長として運営に関わらせていただいているので、ここからは第12期の現状についてレポートしたいと思う。
コロナ禍真っただ中の2021年6月から始まった第12期では、次の3つを主眼に置いて講座を組み立てることとした。1つ目は、これまで馴染みの少ないリモート研修を活用することで、継続的な学びを実現させることである。2つ目は、コロナの影響を鑑み、1年目は座学中心で集中して学び、コロナが落ち着くことを見越して、2年目に入ってから学びを実践に結び付ける工夫を行うことである。3つ目は、座学中心のなかでも、可能な範囲でワークショップやグループ作業を組み込み、参加・仲間意識を高めることである。さらに、あんしんの里「楡」における畑実習は、コロナに最大限に配慮したうえで継続して実施することとした。以上のことを、JA事務局・塾生代表の青柳治さん、池田陽子理事長と筆者(塾長)からなる運営会議で決定し、それらに沿って実際のカリキュラムを組んでいった。
第12期生き活き塾カリキュラム(2022年6月実施分まで)[PDF]生き活き塾は午前と午後の2部構成が基本である。午前の部では全国的な状況について識者を招いてしっかり学習し、午後の部は地域の実践者から安曇野の状況を学ぶほか、ワークショップやグループ作業の時間にあてることとした。コロナの状況によりやむを得ず縮小せざるを得なかった講座もあるが、リモートを活用しながら、おおむね予定どおり実施できている。
コロナが落ち着きを見せた2022年3月に開催した第6回講座では、穂高クリーンセンターのごみ処理施設の視察を行った。自分たちが日々出しているゴミの量の多さや、それらがどのようにして処理されるのかをつぶさに見ると同時に、施設職員からゴミ処理の現状について丹念な説明を受けた。説明会では塾生から多くの質問が出て担当者も驚くほどだった。午後にはJAに戻り、講師を招いてSDGsの学習会を開催し、視察と学習会を踏まえて「自分にできるSDGs」をテーマにグループトークを実施した。視察→学習→グループトークをセットにしたことで、塾生のなかで環境に対する理解が進み、盛んな意見交換が行われた。塾生からは「ゴミ処理場を見てから学習したので、講義内容がすっと頭に入った」「これまであやふやに感じていたSDGsがやっと自分ごととして理解できた」「これから何をすべきかを考えるきっかけになった」といった前向きな意見が多く寄せられた。
2022年3月まで長く事務局を務めてきたJAあづみの塩原卓磨職員は、生き活き塾の学びを通して塾生たちが変化してきたことを肌で感じていると話す。「自分の意見をはっきりと発言できるようになった塾生が増えたと思います。それは地域づくりへの大切な一歩です」。塾生のなかには、あんしんセミナーで学びを深めながら新たに部活動に参加するようになった方や、自身が所属するJA女性部と生き活き塾とのコラボを企画する方なども現れ始めた。また、学びを実践につなぐ一環として、前述の菜の花プロジェクトに第12期塾生全員で取り組むことも決まり、塾生の希望で、秋の修学旅行では搾油場を視察する予定だ。生き活き塾における学びは、実践に向けて確実に前進している。
上から目線の「教育」ではなく、自主性を育む「学び」のまなざしを
これまで、前編後編と2回にわたり、JAみっかびとJAあづみの取り組みを紹介してきた。2つの実践に共通しているのは、どちらも学びが一時で終わることなく、新たな活動として実を結び、そこから地域の将来を担う人材が生まれていることだ。
JAみっかびでは、若い地域女性の学びの場として「フレミズカレッジ」を実施し、その学びをグループ活動へと展開させるために、JAとJA女性部はいくつもの仕掛けづくりを行っていた。その結果、2つのフレミズグループが誕生し、自主的な地域活動を行うまでに成長していた。
またJAあづみでは、生き活き塾という歴史ある学びの場において、「学びから実践へ」という理念を持ち続け、時代の流れに即したマイナーチェンジを図りながら継続性を担保していた。
こうしたことが実現した理由は、2つのJAが、上から目線の「教育」ではなく、常に、組合員や地域住民の自主性を育む「学び」のまなざしを注いできたからではないかと思う。
筆者が、生き活き塾の塾長をお引き受けした際に、JAあづみの千國茂組合長からかけられた言葉が胸に残っている。「無理に教育しようとしても自分ごとにはならない。ここに集まってくる人びとは地域の先輩たちだということを忘れないで取り組んでほしい」。――組合員や地域住民の学びを考えるとき、決しておろそかにしてはいけない重要な視点ではないだろうか。