農業・食料ほんとうの話〔第140回〕食料とエネルギーは安全保障の2本柱鈴木宣弘 東京大学大学院 教授

食料とエネルギーは安全保障の2本柱

鈴木宣弘 東京大学大学院 教授

東京大学大学院 教授 鈴木宣弘

すずき・のぶひろ/1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業後、農林水産省入省。農業総合研究所研究交流科長、九州大学教授などを経て、2006年より現職。食料安全保障推進財団理事長。専門は農業経済学、国際貿易論。『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書)、『協同組合と農業経済 共生システムの経済理論』(東京大学出版会)ほか著書多数。

食料とエネルギーは安全保障の2本柱とも言える。そのエネルギーの自給にどのような政策がとられているかは、食料政策を考えるうえでおおいに参考になるはずである。再生可能エネルギーの固定価格買取制度を、今後の食料買取制度の構築のためのヒントとしたい。

再エネ買取制度に投じられている巨額の補助

再生可能エネルギーの固定価格買取制度とは、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で買い取ることを国が約束する制度である。

先日、エネルギーの専門家に話を聞いて、正直驚いた。

我が国における再生可能エネルギーの電気買取制度は、2012年夏から施行されているが、2022年度の買取総額は4.2兆円にものぼる。このうち一般消費者など需要家の実質的負担額である「賦課金」の総額は2.7兆円になる。いずれも経済産業省試算の実績見込み額である。政府の補助は1.5兆円ということである。

つまり、合わせて、再生可能エネルギー発電事業者にとっては、2022年度では「4.2兆円」が補助金として機能している。

このような巨額の再エネ買取額・賦課金になったのは、2012〜14年度の事業用太陽光発電の買取単価の水準を、世界的にも驚愕(きょうがく)の高値に設定したのが主因といわれる。2011年3月の東日本大震災による福島第一原発事故を受けて、再エネが日本を救うという機運がもたらした結果だ。事業用太陽光発電の買取単価は、FIT (固定価格買取制度)認定を受けた年度の単価が20年間続くというものである。これにより、いわば『太陽光バブル』が起こった。

世界一の太陽光発電大国に

だから、買取総額の内訳をみると、住宅用太陽光 0.2兆円(5%)、事業用太陽光の2012年度認定 0.8兆円(21%)、2013年度認定 1.1兆円(28%)、2014年度認定 0.4兆円(10%)、2015~2021年度認定0.4兆円(10%)で、合計2.8兆円(69%)を太陽光発電が占め、その他は、風力発電 0.2兆円(5%)、地熱発電 0.02兆円(0.4%)、中小水力発電 0.1兆円(3%)、バイオマス発電 0.7兆円(17%) 総計 4.2兆円 である。

この結果、国際機関の分析によれば、日本の再エネ導入量は世界第6位、このうち太陽光発電は世界第3位、この8年間で約4倍にという日本の増加スピードは、世界トップクラスである。国土面積あたりの日本の太陽光導入容量は主要国の中で最大で、平地面積でみるとドイツの2倍で、世界で断然トップとなっている。

家庭用から大規模発電用まで導入が広がる太陽光発電。日本のエネルギー自給率の向上につながる
家庭用から大規模発電用まで導入が広がる太陽光発電。日本のエネルギー自給率の向上につながる

太陽光発電の懸念

太陽光発電の振興に関しては、農業との関係でも、問題点が指摘されている。

2050年までのカーボン・ニュートラル(排出するCO₂と吸収するCO₂の量を同じにする)目標を追い風にして、「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が、営農型太陽光発電(農地の上に発電装置、発電装置の下で営農)についても弾力的な運用を図ろうとしている。

営農型太陽光発電については、業者によっては許可時の計画どおり営農しない場合も多く、現場から苦慮している声が聞かれている状況下において、むしろ、それを追認するかのように、官邸や経済産業省の主導の下、農水省は2021年3月に対応方針を示し、同年4月から実施している。

それは、いわば、営農の形をとっているだけでよく、実質的に営農を前提にせず、むしろ、農業の衰退を促進しつつ、太陽光発電を推し進める方向性が強くなっており、「営農型太陽光発電」と呼べるのかどうか、疑問も生じるものである。地域農業振興と逆行し、農村コミュニティの崩壊や周辺環境の劣化にもつながらないか、十分な検証が必要である。

食料政策に得られる大きなヒント

太陽光発電には、そうした様々な弊害も指摘されているが、ここで注目したいのは、思い切った買取制度があれば、一気に世界一の太陽光発電大国になるほどの成果が上げられるという買取制度の政策効果の高さである。

エネルギー以上に命を守る安全保障の要と位置付けられる農業については、農林水産省全体の年間予算が総額で2.3兆円しか配分されていない。農林水産予算は、防衛費と比べてももちろんだが、再生可能エネルギー振興予算と比べても、本当に少なすぎることが明白だ。

ぜひ、この現実を踏まえ、コメを中心とした食料買取制度の再構築を検討する余地は十分にあると言える。そもそも、欧米各国も、穀物や乳製品を支持価格などで、ほぼ無制限に買い取る仕組みを維持しているのだから、柔軟な思考で日本に大転換を促したい。

公開日:2023/04/03 記事ジャンル: 配信月: タグ: / /

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