【提言】高齢者の社会参加のための居場所と出番を樋口恵子 NPO法人 高齢社会をよくする女性の会 理事長

樋口恵子 NPO法人 高齢社会をよくする女性の会 理事長

樋口恵子

ひぐち・けいこ/1932年東京都生まれ。東京大学卒業後、時事通信社、学習研究社などの勤務を経て、評論活動に入る。政府の社会保障、男女共同参画などに関する審議会の委員を歴任。東京家政大学名誉教授、同大学女性未来研究所名誉所長。著書は『老いの福袋』(中央公論新社、2021年)、『老~い、どん!2 どっこい生きてる90歳』(婦人之友社、2022年)など多数

長年にわたり、女性の地位向上や介護保険制度創設に力を尽くしてきた樋口恵子さん。日本が世界に先駆けて超高齢社会を迎えるにあたって、高齢者の社会参加がなにより重要だと語ります。心豊かに安心して暮らせる地域社会を、未来に引き継ぐためのヒントを聞きました。

人生100年時代を迎える初代としての責任

私は昨年、卒寿を迎えました。1932年生まれの女性は2人に1人が90歳を迎えています。それに対して男性は5人に1人。ある講演会でその話をすると、終了後に高齢男性がこう話してくれました。「多くの男性は女性に看取られて一生を終わっているのですね。ありがたいことです」と。長年、男女平等と女性の人権を訴えてきた私も、感謝の言葉をかけられては返す言葉もない。「恐れ入ります、お互い仲良く協力し合いましょうよ」と言うくらいでした。

私たちの世代は、人生100年時代を迎える「初代」といってよい。豊かさを享受して長寿になったことに感謝を持って受け止めて、高齢社会にふさわしい生き方をしなくてはいけないと思っています。

その意味で、高齢者の社会参加が重要になってきます。高齢者は「地域社会で楽しく交流しながら、願わくはささやかなボランティア活動をしたい」と思っている人が多い。“微助っ人(びすけっと)”として生きたいという人たちです。同時に「参加したい活動をどこへ行って探せばいいかわからない」といった声もあります。しかし、そういうときに物おじせず、威張らず、まわりの人に「地域の助け合いに手をお貸ししたいのですが」と働きかければ、みんな喜んで仲間に入れてくれますよ。

高齢者も女性も、だれもが安心して暮らせる人生100年社会。地域が活動の場として重要になってくるでしょう。若い世代が幸せに生きるためにどんな未来が望ましいか、人生100年の初代として、社会に問題提起をしたり、おおいに夢を語ったりしていきたいと思います。

人生100年社会は、地域のなかで日ごろから助け合う関係づくりが大切と語る
人生100年社会は、地域のなかで日ごろから助け合う関係づくりが大切と語る

「じじばば食堂」で3つの「しょく」を満たす

高齢者に必要なのは、3つの「しょく」が担保されたコミュニティです。1つめの「しょく」は「食」。高齢になると「料理がめんどう」「買い物に困る」「栄養バランスが悪い」といった問題が生じます。食べることは基本ですから、まずは自分自身のために食をおざなりにしないことです。

次の「しょく」が「職」で、仕事や役割があること。金額の多寡にかかわらず、ある程度の収入が得られることは生きがいにも励みにもなります。

最後の「しょく」は「触」。他者との接触、コミュニケーションがあることです。コロナ禍によって、人との交流やコミュニケーションができないとさまざまな能力が低下してしまうことがわかってきましたので、地域のなかで人間関係が築ける場があるとよいでしょう。

これらの3つの「しょく」を満たし、3つの喜びを得られるのが、私が町ごとにつくろうと提唱している「じじばば食堂」です。

いま、全国の子ども食堂の数は7000を超えるそうですが、高齢者も独りになりやすい人には、いっしょに食事ができる場所があるといい。歩いていける距離に「じじばば食堂」があって、そこでわずかながらの役割を背負って、食事を提供する。調理や提供の仕方でも上手下手があるわけです。いろいろと工夫して自分のスキルを磨く。自分の成長にもなるし、グループの仲間全体の成長にもつながる。ときには怒られたりすることもあるけど、「なにくそ」と思いながらやるのもよいでしょう。仲間に囲まれて食べるという喜びを、いつまでも味わいたいものです。

古い慣習を打ち破って男女共同参画の実現を

都道府県別の平均寿命の調査で毎年、上位にくるのが長野県です。その要因は農業県で野菜の摂取量が多いなどいろいろと考えられるのですが、目立たないけど関係している日本一のいくつかの要素があるのではと思っています。その一つが人口当たりの公民館の数がトップであることです。

公民館は比較的、規則が緩やかで、だれが行ってもよい施設。だから、引っ越してきたばかりの人が使用してもよいし、ご近所同士でたまり場にしてもよい。さらに、住民に食生活改善推進員などのさまざまな役割を担ってもらい、公民館を拠点に熱心に活動しているケースも多いそうです。

現代は、家族や血縁が少ない人が多い社会です。私はそれを、家族をあてにできない“ファミレス社会”と言っています。親の介護を支える家族がいないケースも増えてくる。家族でない人にも関心を持って手助けする必要があります。ふだんから家族でなくても助け合う関係をつくっておくことが大事です。

だからこそ、地域のつながりを持っている農村の強み、そしてJAの役割は重要だと思います。JAには、高齢者の居場所や出番がある集いの場をたくさんつくってほしいですね。

ただし、今も家父長制度などの古い慣習が残っている農村地域もあります。農村女性は十分に力をつけています。認定農業者や農業委員、JA役員に占める女性の割合も増えています。JAは、家庭や組織、地域での男女共同参画にもっと貢献できるはず。古い慣習を打ち破って男女平等を実現し、農村の大改革を成し遂げてほしいと思います。

公開日:2023/04/03 記事ジャンル: 配信月: タグ: / / /

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