【トップ対談26】組合員・地域とともに「和衷協同」のJAづくりゲスト/村川 進(香川県 JA香川県 代表理事理事長)
第26回ゲスト
香川県 JA香川県
代表理事理事長 村川 進(上)
インタビューとまとめ
石田正昭
三重大学名誉教授
京都大学学術情報メディアセンター研究員
2000年4月に43JAが合併し、全国最大規模の総合JAとして発足した。さらに、2003年にJA高松市と合併、2013年にJA香川豊南と合併し県単一JAとしてスタートした。「農業と地域に全力投球」をスローガンに協同組合としての使命を果たし続けるため、「第7次中期経営計画」(令和4年度~令和6年度)を策定し、組合員との徹底的な対話のもと3つの基本目標「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」「地域の活性化」の実現と、自己改革の実践を支える持続可能な組織・経営基盤の確立・強化に向け、総合事業を基本として「不断の自己改革」に取り組んでいる。
○組織の概況
組合員数 140,735
(正組合員 58,457 、准組合員82,278)
役員数 経営管理委員18、理事10、監事5(常勤・非常勤含む)
職員数 3,352 (有期職員含む)
○地域と農業の概況
香川県の県土面積は、国土面積の0.5%と全国で最も狭いものの、平野部が多く耕地面積は29,300ha(令和3年)で全国の0.7%を占めている。香川県の農家1戸当たりの耕地面積は1.0haと全国平均(2.5ha)の半分以下で農業経営規模は零細であるが、ため池や香川用水などにより農業用水を確保し、農地の効率的な利用や経営の複合化を図り、生産性の高い農業が営まれてきた。また、恵まれた気候や立地条件の下、収益性の高い作物を中心にブロッコリー、レタス、金時ニンジン、マーガレットなど全国に誇れる特色ある農産物が栽培され、県内はもとより京浜や京阪神地域等に対し、新鮮で良質な農産物を供給している。
○JAデータ
設立 2000年4月1日
本店所在地 高松市寿町一丁目3番6号 香川県JAビル
出資金 244億円
貯金 1兆9,104億円
貸出金 2,243億円
長期共済保有高 2兆8,648億円
購買品取扱高 185億円
販売品取扱高 379億円
(2022年3月31日現在)
「和衷協同(わちゅうきょうどう)」のJAづくり(上)
農水省「総合農協統計表」によれば、現在経営管理委員会制度を導入するのは全国で35JA。JA香川県はその先導役を務めてきた。組合員組織と事業組織の役割を峻別し、効率的で効果的なJA運営を可能にする仕組み。職員たちに「和衷協同」を説き、この制度の彫琢を図ろうとする姿を村川進代表理事理事長に語ってもらった。
石田正昭
いしだ・まさあき/1948年生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程満期退学。農学博士。専門は地域農業論、協同組合論。元・日本協同組合学会会長。三重大学、龍谷大学の教授を経て、現職。近刊書に『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』『いのち・地域を未来につなぐ これからの協同組合間連携』(ともに編著、家の光協会刊)
村川 進
むらかわ・すすむ/1957年生まれ。1980年4月香川県信用農業協同組合連合会入会、2000年JA香川県に転籍、2011年高松市中央一宮(取りまとめ店)支店長(後に統括支店長に名称変更)、2014年金融部長、2016年信用担当常務理事、2019年代表理事副理事長(管理・信用共済担当)、2022年代表理事理事長に就任、現在に至る。
「香川はひとつ」を合言葉に
石田:2000年4月にJA香川県が誕生しましたが、これまでを振り返って「県域JAだからこそよかったこと、できたこと」をお聞かせください。
村川:2000年に45JAのうちの43JAが合併してJA香川県ができました。その後、2003年にJA高松市、2013年にJA香川豊南と合併し、県単一JAとなりました。これらの合併によって、当初の目的である「組合員・利用者の営農とくらしの向上」「地域社会における役割発揮」「経営基盤の確保」が図れたと考えています。とくに経営収支面での安定を図れたことが大きいです。
2000年の合併当時、43JAのうち、いわゆる未合併農協が19JAありました。非常に小さな、貯金額でいうと40億円とか50億円とかのJAもありましたが、組合長以下、役員の皆さまの英断によって合併することができました。
当時は「段階的合併論」、いわゆる地区別の合併を優先したほうがよいのではないかという声もありましたが、そういう声を押しのけて、県域で合併できたということは、何段階かの合併によるコスト負担増を回避できたという点で大きなメリットがありました。
石田:元全中会長の宮脇朝男さんは、香川県の面積や地理的条件を考えて、早くから「香川県単一農協構想」を提唱していましたが、その趣旨に沿うことができましたね。
村川:段階的な合併を繰り返せばコストもかかりますし、その都度組合員の合意も得なければなりません。時間もかかります。そういう事情をご理解いただき、「香川はひとつ」を合言葉に皆が同じ方向に進んだことに対して本当に感謝しかありません。JA高松市とJA香川豊南は遅れての参加となりましたが、それぞれの事情を考えるとやむを得なかったと思います。
石田:合併前の、1998年度末の状況を「総合農協統計表」で調べたら、正組合員は92,225人、76,137戸でした。これに対し、最新の2021年度末のデータでは、58,457人、50,581戸に減っています。人数、戸数ともに20年間でおよそ3分の2に減少しています。こうした組織基盤の変化のなかで、「香川はひとつ」を合言葉に活動や事業の持続性を高め、地域貢献も行ってきました。このことを高く評価したいと思います。
村川:おっしゃるとおりで、それを1日、1年、5年先延ばししても、もっと苦しい、生みの苦しみを味わったのではないかと思います。
当事者である組合員にとっては、本当に苦渋の選択であったと思います。しかし苦しくなってから合併すれば、その苦渋は間違いなく増えます。そうであれば少しでもよい状態のときに合併したほうが望ましい。信連の運用もしっかりしていましたし、共済もよい事業成果をあげていました。ですから「このタイミングを逸したら、この先どうなるかわからない」といったところで決断していただけたものと思っています。
合併当初は支部間の財務調整を図るという観点から「支部独立採算制」を取り入れました。支部単位の決算を税務調整までして行っていました。ただし、支部ごとに配当を変えるとか、還元率を変えるとかの方法は認められなかったので、違った方法で還元しました。決算終了後ではなく、1月とか2月とかの段階で「見込み決算」を行って、支部ごとに特色のある還元を行いました。合併後の1年間は役員支部長を置き、それ以降は職員支部長に切り替えたのですが、そうしたなかで支部単位の還元は2007年まで続けました。
「経営管理委員会」制度を導入
石田:合併1年後に経営管理委員会制度を導入しましたね。この制度の是非については議論のあるところですが、JA香川県ではどのような議論がなされ、どのような整理がなされたのでしょうか。
村川:支部役員制の廃止とともに経営管理委員会制度を導入しました。大小さまざまなJAと連合会が一緒になって県域JAを組成したので、役員数が多いだけではなく、出自や背景の異なる役員が一堂に会することによる審議の不徹底が懸念されました。他県の県域JAも同じような状況かと思いますが、内部統制という点でしっかりとした議論ができるような状況になっているかどうか、これがポイントだと思います。
石田:おそらく難しいでしょうね。
村川:ということで、52人の理事会から29人の経営管理委員会に切り替えました。その後、内部統制をより強化する必要から定数を減らし、現在では18人になっています。香川県を東西に分けて、東地区4人、西地区4人、それに全域から10人を選出しています。農協法施行規則に従って、定数の6割以上に当たる12人を「認定農業者」「認定農業者に準ずる者」としています。女性部、青年部からも各1人を全域から選出しています。
石田:東西4人ずつの選出ですか。この選出は難しいでしょうね。
村川:そうですが、この点をご理解いただくためにはJA香川県の組織機構から説明しなければなりません。第一に地区ですが、これは現在6地区(「大川地区」「中央地区」「小豆地区」「綾坂地区」「仲多度地区」「三豊地区・豊南地区」)ありますが、そのうちの「三豊地区・豊南地区」にはそれぞれの「地区営農センター」を配置しているため、合計7つの地区営農センターがあります。次に支店ですが、現在92支店・3出張所があって、その中にはこれらをいくつか束ねる「統括店」が12あります。当初は18でしたが、現在は12まで減らしています。旧統括店ごとに「地域運営委員会」を設置したことから、統括店は減りましたが、18の地域運営委員会はそのまま存続しています。
地区選出の役員候補者推薦委員会は東地区、西地区に分かれています。東地区は「大川地区」「中央地区」「小豆地区」を、西地区は「綾坂地区」「仲多度地区」「三豊地区・豊南地区」をカバーしていますので、東地区と西地区に属する地域運営委員会の委員長等に集まっていただき、候補者を決定していただいています。
石田:地域運営委員会を構成するのは「支店運営委員会」ですね。ですから、候補者の絞り込みにあたっては、支店運営委員会での絞り込みを振り出しに地域運営委員会での絞り込み、さらには役員候補者推薦委員会での絞り込み、という3段階の絞り込みが必要となります。この間の調整は大変ではないでしょうか。
村川:おっしゃるとおりですが、候補者に選ばれるような地域リーダーは自ずと限られているようです。誰もがなりたいという時代でもありません。バリバリ頑張っておられる部会の代表者や職員OBが選ばれていますが、部会の代表者が経営管理委員になると、あちこちの会合や行事に出席しなければならず、忙しくしておられます。
石田:でも、現場の実態はよく知っていますよね。
村川:理事は私を含めて10人ですが、いずれも実務精通理事ですから、経営管理委員の皆さまから「現場はこういう考えを持っているよ」と言っていただけることは大変ありがたいです。目線の違いはすごく重要です。
「和衷協同」を呼びかけて
石田:経営管理委員会は1年に何回開いていますか?
村川:月1回です。それとは別に理事との「意見交換会」を年2回開いています。月1回の経営管理委員会では理事会からの報告を受けるだけではなく、営農センターの再編や大型施設の設置・利用計画といった大きな組織協議案の審議をしていただいています。経営管理委員会の決定事項となっているからです。
意見交換会を開くのは、そうした大きな組織協議案の審議にあたって、事前に理事会と経営管理委員会とのすり合わせが必要となるからです。経営管理委員の皆さまはいずれも責任あるお立場の方々ですから、委員会という場で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしていただくことは適当ではありません。ですが、突っ込んだ議論をすることはつねに必要であり、意見交換会はその場を提供するためのものです。
石田:経営管理委員会会長は常勤ですか?
村川:そうです。理事長と経営管理委員会会長の部屋は隣り合っていて、日常的に対話できる環境が整えられています。
石田:そこでは密接な関係が…。
村川:というよりも「お目付け役」という関係ですね。現在の港義弘会長は理事を2期6年にわたって勤められてから経営管理委員会会長になられました。ですから、ありとあらゆることに精通しておられます。
実務上重要な会議は「常勤役員会」です。構成員は常勤役員、すなわち経営管理委員会会長、代表理事理事長以下全理事、代表監事・常勤監事の計13人です。毎週月曜日に開かれており、理事会と経営管理委員会への付議議案を審議しています。
理事会は月1回開いていますが、出席者は理事、監事の全員と部長、それに弁護士、公認会計士も顧問として加わります。弁護士は独禁法などの法律上の問題、公認会計士は税務上の問題について、専門的な立場からのご意見を頂戴しています。理事会での提案説明は担当部長が行っています。
石田:県単一JAにかぎる話ではありませんが、大きな組織になればなるほど上に立つ者の責任は大きくなります。
村川:JA香川県を設置して以降、港会長は5人目の会長、私は6人目の理事長です。この間に理事長から会長になられた方はおりません。その意味では、理事長と会長の役割の違いというか、求められる人柄やキャリアは違うといってよいかと思います。
私自身は信連に入会後、JA香川県の設置時にJAへ転籍しました。その後は主として信用事業部門を歩み、副支店長、支店長、金融部長を経て、常務理事(信用担当)、代表理事副理事長(管理・信用共済担当)となり、2022年6月に代表理事理事長に就任しました。
就任にあたって、職員たちに贈ったメッセージは「和衷協同」という言葉です。出典は『書経』「皐陶謨(こうようぼ)」篇の「寅(いん)を同じうし恭を協(かな)え、衷を和せよ」にあります。その意味は「心を同じくして共に力を合わせ、仕事や作業にあたること」(三省堂『新明解四字熟語辞典』)となります。「和衷」は心の底からなごみ和らぐことを表し、「協同」は力を合わせて物事を行うことを表します。
大きな組織ですから、常日頃から内部統制を利かさなければなりません。しかし、それを力ずくで進めると、必ずやどこかで軋(きし)みが生じます。とりわけ「相互信頼」を信条とする協同組合にあっては、絶対にやってはいけないことです。
JA事業では「事業推進」という言葉をよく使いますが、私としてはこの言葉は使いたくない。何かいい言葉はないかと探し求めた結果、見つけたのがこの言葉です。何事も心をひとつにして事に当たらなければ、いい結果は生まれない。ですから、共済の契約をとるのも、ローンを組むのもノルマ・目標ではなく、心豊かな「協同組合運動」を進める一環としてJAサービスを提供しているんだと捉えてほしい。そういう思いを込めて職員たちに語りかけています。
(取材日10月18日。以下、2月配信に続く)
農業と地域に全力投球――JA香川県
「農業と地域に全力投球」はJA香川県のキャッチコピー。ホームページや広報誌『きらり』などJA広報のあらゆるシーンで登場してくる。その媒体の一つにYouTube「JA香川県チャンネル」がある。
現在、このチャンネルで配信されている【JA香川県CM】は全部で6編。そのなかでも、2021年8月配信の「家族の記念日」編は、わずか30秒の動画であるが、大変な人気を呼んでいる。
さわやかな歌声とともに、主人公の親子が、農産物直売所から出てくるところからこの動画は始まる。買い物かごの中には野菜や果物、花がいっぱい詰まっていて、自宅で料理を作って家族の記念日を祝うというストーリーである。しかし、動画の大半は生産や収穫の様子を映し出していて、生産者たちの真剣な顔つきを視聴者に伝えている。