【提言】JAが幸せの架け橋を~大相続時代に備えて~木﨑海洋 行政書士きざき法務オフィス 代表

木﨑海洋 行政書士きざき法務オフィス 代表

木﨑海洋

きざき・かいよう/1969年東京都出身。行政書士事務所とFP・不動産会社を開設し相続と不動産の実務にあたる。また難しい相続や不動産の話を楽しく分かりやすく情報提供するため「こころ亭久茶」として「落語で学ぶ相続セミナー」を全国のJAなどで講演。笑いあり涙ありの講演は相続や終活ブームもあり年間140回を超える依頼があり、多くの会場で満席となる。『家の光』2021年12月号から「こころ亭久茶の相続&マネー高座」企画を連載中

JA組合員の相続に関するニーズが、ますます高まっています。組合員の実情に合った相続対策によって、JAは組合員にとって心強い存在となります。コロナ時代だからこそ、相続にまつわるきめ細かい情報発信が求められています。

情報空白の3年間を経て

コロナ禍が落ち着いた昨年の夏以降、イベントやセミナーが各地で再開されています。

今、私が講演をしてもっとも感じることは「みなさん情報に飢えている」ということ。講演が終わると講師の私のところへ列をつくり相談に来ます。相談内容は相続税対策、相続法の改正、終活や認知症対策などです。みなさん、ずっと悩み、不安に思い、誰かに相談をしたかったのだな、とつくづく思います。

とくにインターネットを利用できない高齢の方は情報の空白期間があります。

知ることが幸せの始まり

以前、私の講演に参加された80代の女性Aさんが「遺言を書きたいんです」と相談に来ました。私は遺言書の案文を作成するため家族構成や財産内容、どのように相続させるかなどを聞きます。

後日、できあがった案文を確認して頂くとAさんは「こちらで結構です」と。Aさんの財産なので誰にどう相続させようと自由で私が口をはさむことではありません。しかし、案文の作成中に疑問を拭えなかった私は、Aさんに尋ねました。「この遺言書では子どもたちは争うかもしれません。何か特別な理由でもあるんですか?」と。Aさんはしばらく黙ったあと「じつは、だれにも言ってないことなの……」と、亡き夫が借金でトラブルになった話を語り始めました。そしてこの問題で長男に多大な苦労をさせたこと、長男は妹や弟に心配をかけたくないと黙って協力してくれたことも。

「なるほど、そういうことがあったんですね……であれば納得しました。しかしAさん、そのことを子どもたちに伝えないと、子どもたちは理解できずに争いになるでしょう。その理由も遺言書に書きましょう」「えっ、そんなことができるの?」「できますよ。遺言書には付言事項というものがあり、そこへ財産分けの理由や感謝の言葉など何でも想いを書けます」。するとAさんは「よかった、これで今までずっと気になっていたことがスッキリしました!」と晴れやかな顔に。

安らかな余生を過ごされた3年後、Aさんは息を引き取りました。

私は遺言執行者として相続手続きのため遺言書を抱えて子どもたちのもとへ。

子どもたちは心配な顔で私を迎えました。遺産でケンカになるんじゃないか……と。しかし、Aさんの家族への想いや遺言内容の理由を知った子どもたちは涙を流し始めました。

「お母さんの遺言書が私たちを守ってくれたね」「ありがとうお母さん、そしてお兄ちゃん」

私は手続きを終えると夜空に向かって「お子さんたち、みんな円満に終わりました」と故人へ報告します。きっとAさんも天国で喜んでいることでしょう。

JAの家の光大会などでの講演の機会も多く、相続問題への関心が高まっている(写真提供/JA佐久浅間)
JAの家の光大会などでの講演の機会も多く、相続問題への関心が高まっている(写真提供/JA佐久浅間)

情報発信はJAの大切な役割

高齢でありながら講演会に足を運んだAさんの意識と行動力は立派です。そして相談をすることで情報が得られ悩みの解決や家族の幸せにつながります。

団塊の世代がこれから迎える大相続時代。相続をきっかけに金融機関や証券会社、保険会社など多くの事業者が顧客の獲得を図っています。そして、コロナ禍でのコミュニケーション不足を埋めるために相続や終活セミナーを盛んに開催しています。情報戦争のごとく、今は早い者勝ちです。

このような状況下で、JAにとって必要なことは、組合員に応じて適切な情報を届けることです。そこでポイントとなるのが「次世代とのつながり」です。親世代は組合員であっても、子ども世代とのつながりがなくては相続をきっかけに次の組合員候補は去っていきます。

地域に根差し次世代とのつながりを持ちやすいJAは一歩リード、きめ細かいサービスができるはずです。

組合員や地域の人にとって、JAは重要なコミュニティーの一員です。「JAに相談してよかった」と言ってもらえるような存在であり続けてほしい。その一歩として、情報発信はJAの大切な役割でもあるのです。

公開日:2023/01/04 記事ジャンル: 配信月: タグ: / /

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