【トップ対談25】組合員・地域とともに「はちべえ」ブランドで勝負する!ゲスト/山住昭二(熊本県 JAやつしろ 代表理事組合長)

第25回ゲスト

山住昭二
熊本県 JAやつしろ 代表理事組合長

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学 名誉教授
京都大学 学術情報メディアセンター研究員

JAやつしろ(八代地域農業協同組合)

JA概況 地図入る

平成7年7月1日に八代市、金剛、千丁町、竜北町、熊本氷川、坂本村農協が合併して誕生した。その後、平成11年4月に太田郷農協が合併、平成17年4月には鏡、北新地農協が合併し、八代郡市全てのJAが広域合併した。経営理念に基づき、組合員に最大の奉仕をすることを目的とし、あわせて地域の活性化と潤いのある古里づくりを目指している。

「トメットちゃん」

美味しい農産物で幸せを届ける魔法のスティックを持つ「トメットちゃん」。生産量日本一を誇るトマトを魔法のスティックに、い草を洋服に、晩白柚を帽子に取り入れてイメージしました。

○組織の概況

組合員数 10119
(正組合員 6300、准組合員3819)
役員数 36(常勤・非常勤含む)
職員数 461(有期職員含む)

○地域と農業の概況

九州の中心部に位置し、球磨川や氷川といった清流が潤す、肥沃な大地を誇る、全国有数の農業が盛んな地域である。管内で生産されているブランド「はちべえトマト」、畳の原料「い草」、世界最大の柑橘類としてギネス登録されている「晩白柚(ばんぺいゆ)」は生産量日本一を誇る。その他にもイチゴやメロンなどの施設園芸、干拓地のミネラルを多く含んだ露地野菜類、全国有数の産地にも数えられる「生姜」、県内でも最も古い歴史を持つ「吉野梨」などバラエティー豊かな農産物を、生産者が情熱を持ち愛情をかけて全国各地へ出荷している。

○JAデータ

設立 平成7年7月1日
本所所在地 八代市古城町2690番地
出資金 41億円
貯金 1036億円
貸出金 270億円
長期共済保有高 3676億円
購買品取扱高 113億円
販売品取扱高 254億円
(令和4年3月31日現在)

「はちべえ」ブランドで勝負する!(上)

八代平野の3分の2は干拓地。広大で平坦な農地、球磨川の豊富な水、トマト選果場の設置、それに入植者たちのフロンティア・スピリットが加わって日本一のトマト産地が生まれた。東京、大阪など冬場の消費地市場を席巻する「はちべえトマト」。その道を切り開いてきた山住昭二組合長に産地の盛り上がりを語ってもらった。

いしだ・まさあき

石田正昭

いしだ・まさあき/昭和23年生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程満期退学。農学博士。専門は地域農業論、協同組合論。元日本協同組合学会会長。三重大学、龍谷大学の教授を経て、現職。近刊書に『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』『いのち・地域を未来につなぐ これからの協同組合間連携』(ともに編著、家の光協会刊)

山住昭二

山住昭二

やまずみ・しょうじ/昭和30年生まれ。昭和49年3月熊本県立八代農業高校卒業と同時に就農。平成5年八代市農協青壮年部長。平成21年八代地域農業協同組合トマト選果場利用組合組合長。平成26年八代地域農業協同組合理事、令和2年代表理事組合長、熊本県農業協同組合中央会理事に就任し、現在に至る。

「日本一のトマト産地」はこうして生まれた

石田:八代平野の3分の2は干拓地ですね。

山住:江戸期の始まりから昭和期の終わりまで順次沖合へ干拓が進められ、全国屈指の干拓地となりました。八代港も工業港として発展し、最近では「くまモンポート八代」も完成し、国際クルーズ船の寄港拠点となっています。
 このように八代地域(八代市・氷川町)は農・工・商のバランスのとれた地域として発展してきましたが、なかでも一大園芸産地として発展したことは特筆に値すると思います。

石田:さしずめ日本のなかの「オランダ」という趣(おもむき)ですね。

山住:わが家も、祖父が昭和元年か2年ころに山鹿の持松(現・山鹿市鹿央町持松)から入植しました。入植地も「昭和地区」と呼ばれています。この地区には山鹿郡からの入植者が5、6名いますが、多くは八代郡からです。祖父は分家ということもあって、一旗揚げようとやってきたのではないかと思います。
 戦前と戦中の2回、堤防が切れるという苦渋を味わいました。2回目のことは父からよく聞かされました。戦中だったこともあり、すぐには直してくれず、すぐそばの堤防にバラック小屋を建て、そこで生活して、県が行う修復工事に出かけていったそうです。修復には1年くらいかかりました。

 若干の土盛りはしてありましたが、満潮のときは1階部分が海水に浸かってしまうので、船で出入りしていたようです。それでも家の状態はそこそこよかったので、そのまま住み続け、平成3年になって私の代で建て替えました。
 この建て替えも一苦労でした。父がまた切れるといかんといって、さらに1メートルくらいの土盛りを求めました。土留めをしたあとトラックで何百台分もの泥を入れ、さらにそれを固まらせるために1年近く放置しました。父が強くいうので大変だったんですよ。

石田:よくわかります。でも、堤防が切れるという大変な経験があったからこそ、この地区の人びとの結束力も高まったのではないですか。

山住:300戸くらいの地区ですが、それでぐんとまとまりがよくなったと思います。最初の営農形態は米とい草です。わが家も、私が高校を卒業して2年くらい(昭和50年ころ)まではい草を作っていましたが、私自身はい草をいっさい作らず、雨よけハウスを建ててスイカを作り始めました。

石田:何坪ぐらいですか?

山住:6反くらいですね。

石田:雨よけで6反も作ったんですか。それは大変です。

山住:このあたりではハウス面積に「坪」という単位は使いません。桁数が多くなってしまいますから。スイカだけでなく、メロンやトマトも作りました。そういう園芸農業を可能にしたのは、広い干拓地であることと、球磨川の豊富な水が使えたことにあります。
 ただ、八代全体では依然として米とい草が基本でした。い草のあとに稲の苗を植えるので、ピーク時は、米もい草も6000町以上ありましたが、今はい草が350町まで減っています。い草は、刈り取って、それを天日で干すんです。これを「生乾燥」というのですが、次にそれを乾燥機に入れて「本乾燥」させる。天候に左右されるし、手間がかかる。それに乾燥機にお金がかかります。私がやらなかったので、わが家は乾燥機を入れないうちに辞めました。

八代平野に広がるい草のほ場
八代平野に広がるい草のほ場

トップに欠かせないのは「元気印」

石田:代替わりを機に営農形態をトマト主体に切り替えたというわけですね。経営移譲の形としては理想的です。

山住:同じように、私から息子への代替わりのときにも営農形態の変化がありました。私の代は「トマト・メロン」の体系です。2月までにトマトを採り終えて、メロンに植え替えるという体系です。この形態が長く続きましたが、息子の代になって「トマト・トマト」の体系になりました。2月までの収穫が6月までとなりました。いわゆる「長期採り」という体系です。

石田:何がどう違うのですか。

山住:そうですね。私たちのときは、どんどん肥料をやって、一気にたくさん採るというやり方でしたが、長期採りは、株の生長に合わせて肥料をちびちびやりながら、ゆっくり、ゆっくり育てる。土耕養液栽培という技術なので、連作障害もあまり出ません。いわゆる「精密農業」(日本ではスマート農業)というやり方です。屋根の開閉も二酸化炭素濃度の調節も自動制御によります。もともとがグローバル(国際水準)GAPの仕様なんですよ。
 トマト1反に、昔はおおよそ13トン採りでしたが、いまでは23トンまで伸びています。最高で30トン採りの人も出ています。ですから、単純にハウス面積を広げるのではなく、自動制御の高軒高ハウスを建て、反収を上げるというのが現在のやり方です。息子も古いハウスはなるべく使わずに、高軒高ハウスで反収を上げるように努めています。そのほうが単位収量当たりの生産費を低く抑えられるからです。
 私が息子に経営移譲したのは、平成24年、初孫が中学生になったときです。わが夫婦がそうされたように、息子夫婦にもそうしたのです。経営は帳尻合わせがとても大切です。それには「お金」と「仕事」をいっしょの人間が管理しなければなりません。親子のあいだでも別々の人間がやると、どちらかに不平不満が出てきます。
 私がいうのも変ですが、わが家はそのタイミングがよかった。ちょうど私がトマト選果場利用組合の組合長をしていて、外に出ていくことが増え、忙しくしていたからです。

石田:いいタイミングでしたね。

山住:言うのを忘れましたが、選果場はこの地域のトマト生産を発展させたもう一つの要因です。選果場の利用は、ロスが出るかもしれないし、出荷経費もかかりますが、その代わり栽培面積を広げることができますので、メリットのほうが大きい。JA管内のトマト栽培面積は600町近くありますが、そのうちの350町がJAの選果場に集まってきます。

石田:トマト選果場の利用組合長は手を挙げてなったのですか?

山住:順番で昭和地区の代表になったのですが、なってすぐに副組合長に推挙されました。手を挙げたわけではないけれど、目立ったということでしょうね。声も大きいし、体も大きい。

石田:それに行動力もある。そのあたりが皆さんから認められた大きな理由ではないでしょうか。のちにJA理事にも選ばれています。

山住:自分ではよくわかりません。でも、おそらくそうなのでしょう。県全体を見渡しても、JA組合長は皆さん元気がいい。選果場の利用組合長にしても、JA組合長にしても、「元気印」は欠かせません。

選果場利用組合長として活躍された山住組合長と妻の久美子さん
選果場利用組合長として活躍された山住組合長と妻の久美子さん

「はちべえ」ブランドを広げたい

山住:トマト選果場利用組合の副組合長を4年、組合長を6年経験したあと、平成26年に、2か月ダブるのですが、JA理事になりました。理事を2期やって、令和2年に代表理事組合長に就任しました。非常勤の理事から一気に組合長、ふつうでは考えられないことです。
 トマト選果場利用組合にも女性部があって、家内はその女性部長をやっていました。JAトマトのブランド名は、八代平野の「八」と「平」をとって「はちべえトマト」と呼んでいますが、はちべえトマトの「加工」「レシピ開発」「食育」を熱心にやってくれました。家内は私以上に「元気印」です。

石田:「はちべえトマト」というのは、丸トマトのことをいうのですか。

山住:いいえ。丸トマトのほか、ミニトマト、塩トマトを含みます。塩トマトは、土壌の塩分濃度が高いために水分の吸収が進まず、トマトが肥大しないのです。その分、糖度が乗って、甘いトマトになります。人気が急上昇中です。土壌の塩分濃度を下げるように努めてきた私どもにとって、技術の方向性は異なるのですが、消費者の要望に応えられるようにしています。

石田:残念ながら「はちべえトマト」は消費者段階まで浸透しているとはいえません。市場段階で止まっているように感じます。

山住:11月、12月、1月くらいまでは、おおよそ、大阪で2個に1個、東京で3個に1個が八代産ではないかと思いますが、ご指摘はそのとおりだと認めざるをえません。私どももその問題意識は強くもっていて、トマトだけではなく、ブロッコリー、レタス、アスパラ、キャベツ、ジャガイモ、スナップエンドウ、生姜、イチゴ、メロン、ナシ、晩白柚など、ボリュームのある園芸産品がたくさん揃っていますので、それらすべてに「はちべえ」という冠名を載せたいと考えています。ただ、それぞれの生産部会なり選果場利用組合との関係もあって、簡単に取り組めるというわけではありません。当面、私どもへの大きな課題とさせてください。
 とはいうものの、その意義はとても大きいと思います。例えば、「氷詰め」で出荷されるブロッコリーなどは人気が急上昇していて、1年で栽培面積が30町も伸びて、合計で350町にもなっています。30町というと1産地分に当たります。とにかく桁が違うんです。そんなことも消費者へのアピール材料になると思っています。

石田:皆さんの強い生産意欲が伝わってきます。東京や大阪の市場では、競合産地から恐れられているのではないですか。

山住:おそらくそうだと思います。私どもを避けるように出荷市場を選んでいるようにみえます。

石田:県内全JAを対象とする部門別損益に関する私のディスクロージャー誌分析では、営農指導事業分配賦後税引前当期利益で、JAやつしろは「農業関連事業」でトップの成績を残しています。これについてはどうお考えですか。

山住:園芸部門の販売高はおよそ250億円前後。販売高は大きいのですが、手数料率が低いので、JA収入としてはあまり伸びません。手数料率は、販売、購買ともに、県内でいちばん低いのです。それでも税引前当期利益が県内でトップになるのは取扱高が大きいからです。
 現在、県域JAの協議が進んでいますが、合併でいま以上のメリットを出せるかどうか、組合員の関心はそこに集まっています。手数料だけではなく出荷経費の動向も気にかけています。JAとしては、どんな合併メリットがあるのか、なぜいまなのか、をしっかり説明できるようにしなければなりません。

10月~6月まで収穫する長期採りに取り組む「はちべえトマト」
10月~6月まで収穫する長期採りに取り組む「はちべえトマト」

I 💛 JA

インタビューの翌日、山住昭二組合長のお宅にお邪魔し、奥さまの久美子さんと久美子さんの友人でJA理事の鶴山悦子さんに作っていただいたトマト料理「トマトのカルパッチョ」「トマトのだご汁」「トマトの炊き込みご飯」を賞味した。「はちべえトマト」の収穫時期ではなかったので、残念ながら「はちべえトマトの~」とはならなかったが、レシピ話に花が咲いて、楽しいひとときを過ごすことができた。

お2人は、話し出したら誰も止められないほどの話好きで、かつ行動派。あたかも「はちべえトマト」の広報ウーマンの雰囲気を漂わせている。つね日頃から「I 💛 JA」を公言してはばからないという。

お2人はまた、熊本の郷土料理の達人に与えられる「くまもとふるさと食の名人」でもあり、平成20年開催の「第6回 ザ・地産地消 家の光料理コンテスト」の「ちびっこ向けレシピ部門」で、「満天!!はちべえ」の料理名で奨励賞を受賞している。

トマトケチャップの加工に取り組む女性部の皆さん

「はちべえ」ブランドで勝負する!(下)

JAやつしろは、生産部会に相当する作物別の選果場利用組合が組合員組織の基礎をなしている。地区の女性部のほか、生産部会ないし選果場利用組合の女性部もある。水田(米やい草)を基礎にした農家組合もあるが、全体として「園芸農協」の様相を呈するJAやつしろで、いま何が起こっているか、山住組合長に語ってもらった。

トマトケチャップの加工に取り組む女性部の皆さん
トマトケチャップの加工に取り組む女性部

充実した理事会運営を求めて

石田:総代会資料によれば、各理事(非常勤)は2つの専門委員会に属しています。ふつうは1つだけなので新鮮に感じました。いい制度だと思いますが、その背景なり意図を教えてください。

山住:かなり以前から、おそらく5~6期くらい前からそうしています。専門委員会は「指導・販売」「購買」「共済」「信用」「総務」の5つで構成されていますが、そのうちの2つに入っていてもらえば、理事会の議題はだいたい理解してもらえますので、円滑な協議運営が期待できます。専門委員会でしっかり協議していただき、理事会ではそれ以外の方々に質問していただきたいという配慮もあります。

石田:各理事はひと月に専門委員会2回、理事会1回の計3回会議に出席するわけですね。

山住:そうです。組み合わせとしては、原則として、営農・経済系と信用・共済・総務系から1つずつ選んでもらいます。理事になったら、自分の専門分野だけではなく、JAを幅広く理解していただきたいと思うからです。

石田:そのとおりですね。で、女性理事も3人おられます。

山住:2人は全域から、1人は地区からの選出です。地区選出の1人がたまたま女性だったということです。一方、全域選出の2人は、女性部の代表1人、生産部会(=施設利用組合)の代表1人という構成です。生産部会にも女性部があって、そこから1人選ばれます。現在は、トマト部会から鶴山悦子さん(本対談の「上」コラム参照)が選ばれています。

石田:理事や総代の選出にあたって農家組合が大きな役割を果たしていると思いますが、行政との連絡や米関係以外でどんな役割を担っていますか。

山住:果樹の資材購買、とくに農薬についてはトレーサビリティの関係で農家組合が予約購買のとりまとめをやっています。完全予約注文制で、JAから手数料として1%を農家組合に還元しています。果樹の輸出にあたっては、検疫上の理由から輸出先が許可した農薬しか使えないからです。例えば、新高梨は台湾、晩白柚は香港の規制に従っています。今年、新高梨の台湾輸出は19年目に入っていて、4000ケースを出荷しました。

石田:農家組合も場所によっては重要な役割を担っているわけですね。何で農家組合の話を出したかというと、総代会資料によれば、令和5年度以降、理事や総代の選出が地区割から、地区よりも大きい総合支所割に変更するとしているからです。これはどういう理由からでしょうか。

山住:例えば、私の在所の「昭和地区」では、これまで総代17人、理事1人を推薦していましたが、これからは「西部総合支所の区域」として総代101人、理事5人を推薦することになります。手を挙げる人がいないというか、適任者がみつからないという地区が出ているからです。
 本来であれば、生産部会、青壮年部、女性部などでバリバリ活躍している人たちに出てきてもらいたいのですが、「経営ファースト」という事情もあってか、なかなか適任者がみつかりません。昔だったら何人も手を上げて、選挙しなければならなかったのに、いまは手を下げるような状況になっています。そんなことから、これからは広域で調整し、適任者なり意欲のある人に出てきてもらいたいと思っています。

石田:革命的なことを申し上げれば、従来の、農家組合を基礎とした地区推薦型から、生産部会や女性部、青壮年部などを基礎とした部会推薦型へ転換していく必要があるのではないでしょうか。そうしないと組合員の活力がストレートにJAへ伝わりません。とくにこちらのように、各生産部会が盛り上がりをみせているようなところでは、そういえるのではないでしょうか。

山住:おっしゃるとおりで、私どもも重々承知しております。さらにいえば、農家だけではなくて、先生のような学識経験者なり、商業的な分野の人も3人くらいは入れたいねとか、総合支所からの選出では必ず女性を入れてくださいね、とお願いしようと常勤役員のあいだで話し合っているところです。

JA理事の皆さん。理事会では女性理事3名から活発な意見が出される
JA理事の皆さん。理事会では女性理事3名から活発な意見が出される

園芸産地を支える職員パワー

石田:話は変わりますが、外国人労働力も園芸産地を支える重要な存在ではないでしょうか。

山住:そのとおりです。八代地域で2500人くらい入っていますが、そのうちの2200~2300人くらいが農家で働いています。大きな存在です。わが家も4人のベトナム人を入れていますが、皆さん若いので作業はすぐに覚えてくれます。作業といっても芽かきと誘引だけなので。
 トマト選果場では16人が働いていますが、全員がカンボジアからの特定技能生です。そのうちの12人は、夏はJA阿蘇、冬はJAやつしろのトマト選果場で働いています。両JA間で協定を結んでいて、季節によって移動します。特定技能生になると職場を選べるようになるので、時給の高いほうへ流れがちになります。九州であれば、最低賃金の高い福岡へ行きたがります。

石田:なるほど。

山住:園芸産地を支えるもう1つの主役はJA職員です。その第1は融資担当者です。干拓地では貯金よりも融資のほうが優先されます。農業投資額が大きいので、ほぼほぼ「投資スタート」になるからです。

石田:言われてみればそのとおりですね。

山住:貯金ではありません。投資してお金が貯まったら物を買う。ですから融資相談が営農相談の基本になります。干拓地の皆さんは、農家(家計)というよりも経営者という感覚が備わっています。
 第2の主役は営農指導員、販売担当者です。営農指導員は「マイプラン」、販売担当者は「Myチャレンジ」で研さんに励んでいます。

石田:事前にいただいた資料をみていて、これはすばらしい、どんな研究発表会なんだろうと思っていました。

山住:光栄です。マイプランにしてもMyチャレンジにしても研究のレベルがものすごく高いのが特徴です。「マイ」とか「My」と銘打っていることからもわかるように、発表者自身が自らの改善目標にどう立ち向かい、どう達成したのかを皆さんの前で発表します。
 もう20年以上続けていますが、マイプランでは、例えば「トマトでこういう技術指導をして、こういう装置をつけたら、こういう結果が出た」というような発表をします。県の大会でもたびたび優勝しています。また、Myチャレンジでは、例えば「秀品率を上げて販売高を増やすために、こういう工夫を加えたら、こういう結果が出た」というような発表をします。

石田:それは純粋に個人研究ですか。

山住:まずは、係長以下、営農指導員、販売担当者の全員が自らの研究成果を論文形式で提出しますので、基本は個人研究です。提出されたすべての論文は冊子に掲載されます。同時に、そのなかから優れた7本くらいの論文を選んで研究発表会を行いますので、選ばれた人は効果的な発表をするために所属チームの応援を必要とします。このためグループ研究という性格もないとはいえません。

石田:どういう人たちに集まってもらうのですか。

山住:関係する役職員のほか、部会の代表者など生産者にも来てもらいます。青壮年部や女性部の代表者にも来てもらいます。これが励みになるのでしょうか、「よう頑張ったね」といえるような発表が結構あります。コロナ禍のため、ここ2年間はウェブでの開催でしたが、本来はリアルでやりたい。

石田:そのあと一杯飲む機会があれば、大いに盛り上がります。

山住:そのとおりです。今回は今月14日の開催をめざして結婚式場を予約していますが、できるかどうか微妙なところです。優勝者には賞金が与えられますが、たいていは晩の飲み会で使ってしまうようです。

オンラインで各事業所へつなぎ開催した販売担当者「Myチャレンジ」発表会
オンラインで各事業所へつなぎ開催した販売担当者「Myチャレンジ」発表会
「施設利用による販売力強化」をテーマとした沖田誠悟さん(中央)の発表が最優秀賞に選ばれた
「施設利用による販売力強化」をテーマとした沖田誠悟さん(中央)の発表が最優秀賞に選ばれた

組合員組織活動による園芸産地の発展

石田:JAやつしろは、令和2年度「家の光文化賞促進賞」を受賞されました。教育文化活動も熱心に取り組んでおられます。

山住:組合員組織活動の原点は「トマトの全利用」にあると思っています。共選共販には「規格外品」がつきものです。トマト選果場には規格外品の専用コーナーがあって、自由な個人出荷が可能ですが、運賃もしっかりかかるので手元に残るのはわずかです。出荷対策の一環として、JAがトマト加工場を設置し、規格外品や廃棄トマトを買い上げて、トマトピューレ、トマトケチャップ、ドライトマトなどを製造販売しています。
 量的にはトマトピューレの製造がいちばん多く、さまざまな業者に販売しています。BtoBの形態です。これに対し、トマトケチャップ、ドライトマトは消費者に向けて「はちべえ」ブランドでのネット通販やJA直売所「ドレミ館」、県内・東京の物産館での店頭販売をしています。トマトケチャップの瓶やドライトマトの包装パックには「YATSUSHIRO HATIBEE TOMATO」のロゴを入れています。ドライトマトは平成21年の「第6回日本農業新聞一村逸品大賞」で金賞を受賞しています。トマトの旨味がギュッと凝縮されていて、どんな料理にもあう“すぐれもの”です。

ネット販売もされているはちべえブランド「YATSUSHIRO HATIBEE TOMATO」
ネット販売もされているはちべえブランド「YATSUSHIRO HATIBEE TOMATO」

「はちべえトマト」の消費拡大のため、加工やレシピ開発、食育の先頭に立っているのがトマト部会の女性部です。「はちべえトマト」の祭典「トマトフェスタ」を毎年2会場(八代会場・氷川会場)で開催していますが、およそ1000人の来場者たちにトマト鍋を振る舞っています。
 もう20年以上も前になりますが、「食育」という考え方が十分に広がっていない時代から、少しずつ関係者のご理解をいただきながら、保育園・幼稚園や小学校に出向いてトマト料理を紹介する「はちべえトマトの紙芝居」を行ってきました。その中心メンバーが鶴山さんや家内でした。
 この2人は、家の光協会とJA全国女性組織協議会共催の「ザ・地産地消 家の光料理コンテスト」で知り合ったことをキッカケに、北海道士幌町の酪農家との交流も始めました。こちらから士幌に出かけて行ったり、あちらから八代に50人のツアーで来ていただき、天草にも一緒に旅行したりしています。私が言うのもはばかれますが、家内は「面白い人」なんです。どんなトマト料理が出てくるかは、 YouTubeの「ひこいちテレビ『教えて先生~はちべえトマト料理~』」をみてもらえばわかります。

石田:ぜひそうさせていただきます。ところで、こちらのトマトケチャップづくりはトマト部会の女性部ではなく、地区の女性部がなさっていますね。

山住:その理由は簡単です。トマト部会の女性部のメンバーはその多くが地区の女性部にも入っているからです。本所の横に組合員が利用できる加工施設があって、地区の女性部のメンバーが支部ごとに取り組んでいます。トマトケチャップづくりのほかに味噌づくりのグループもあります。この加工施設は営業許可を取っていますので、イベントなどで販売することができます。それぞれのグループで、毎年200人くらいの参加があります。
 話は生姜に飛びますが、生姜部会にも女性部があって、そこでも商品開発に取り組んでいます。生姜の消費拡大を図りたいとの一心から「生姜入り甘酒」を開発しました。生姜の搾り汁を少し入れただけで、冬にはもってこいの逸品になっています。このほか「生姜の方程式(ジンジャーエールの素)」「ジンジャーエール缶」「生姜ポン酢」「味噌漬け生姜」なども開発しました。

石田:農産物の「寄贈」も行われていますね。広報誌『JA-プレス やつしろ』によれば、青壮年部の皆さんが児童養護施設「八代ナザレ園」へ新鮮な野菜や果物を届けています。山住組合長も青壮年部長をされていましたので、この間の事情にお詳しいのではないでしょうか。

山住:八代ナザレ園は保護者から適切な養育を受けられない子供たちを保護、養育するための社会福祉施設です。明治33年にフランスの修道女によって開設されました。函館ナザレ園と並んで長い歴史があります。私が青壮年部長になったのは平成5年ですが、それ以前から農産物の寄贈を行ってきました。今年も各支部が用意した新鮮なトマト、ブロッコリー、レタス、キャベツ、イチゴ、デコポンなどを本部役員の皆さんがお届けしました。
 地域貢献・食育活動の一環として、和鹿島いちご部会(構成員82人)からも八代市内の熊本総合病院と熊本労災病院に、合計1605パック(およそ400kg)のいちごを昨年から贈っています。これはコロナ禍で過酷な現場にいる医療従事者の方々へ日頃の感謝を込めて企画したものです。
 このほか、北部野菜果実選果場利用組合が保育園へ「はちべえトマト」を寄贈していますし、トマト選果場利用組合が同じく保育園へミニトマト「はちべえトマト」の鉢植えを寄贈しています。JA本体も熊本労災病院へ「はちべえトマト」のほか、らくのうマザーズ(熊本県酪農業協同組合連合会)の「カフェオレ」「大阿蘇牛乳」を寄贈しています。

第20回を記念する「ザ・地産地消 家の光料理コンテスト」の参加者に動画でエールを送った山住久美子さんとJA理事の鶴山悦子さん
第20回を記念する「ザ・地産地消 家の光料理コンテスト」の参加者に動画でエールを送った山住久美子さんとJA理事の鶴山悦子さん

「マイプラン」「Myチャレンジ」

本対談で話題となった営農指導員の「マイプラン」成果発表会は毎年3月、販売担当者の「Myチャレンジ」発表会は毎年9月に開催される。発表会用に製本された冊子は分厚く、あたかも大学の卒論発表会資料という趣きがある。A4版2~4頁に、文章、図表、写真などが論文形式で簡潔に記載されている。

研究レベルの高さは発表課題名からもよくわかる。例えば、マイプランでは「オクラで発生しているアブラムシ類の主要薬剤に対する感受性検定について」、Myチャレンジでは「青果物出荷運賃支払事務作業改善へのチャレンジ」等々。このような研究レベルでおよそ25人の営農指導員、およそ50人の販売担当者が競っている。「恐るべし JAやつしろ」だ。

マイプランの冊子には「目指す指導員像」「営農指導員の心得十ヶ条」、Myチャレンジのそれには「JAやつしろ営農部の目指す職員像」も掲載されている。そこで描かれている指導員像や職員像は、JAの担当者だけではなく、誰の心にも染み渡るような傑作である。

「マイプラン」「Myチャレンジ」

(取材/令和4年9月1日)

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