【JA実践事例紹介】組合員大学を通じて組合員リーダーをJA自ら育てる(前編)――神奈川県JAはだの 40年以上続く「協同組合講座」の成果西井 賢悟一般社団法人 日本協同組合連携機構 基礎研究部 主任研究員

西井 賢悟
一般社団法人 日本協同組合連携機構 基礎研究部 主任研究員

1_★.協同組合講座開講式

JA運動への理解を深め、組合員リーダーを育成する組合員大学。名称はさまざまだが、全国90以上のJAで取り組みが広がっている。JAの主人公である組合員の定期的な学びの場をつくることの背景、意義、成果を全2回にわたり考察する。

今、なぜ組合員大学なのか

自己改革の取り組みの一つに、「組合員との対話運動」がある。その中で、2018年から20年にかけて実施された「全組合員調査」は、まだ記憶に新しいだろう。

多くのJAでは、職員が手分けをして組合員宅を訪問し、「自己改革疲れ」と呼ばれるような状況を招きながらも、何とかこの調査をやり遂げたのが実態ではないだろうか。その一方で、あるJAでは理事や総代が自ら地元の組合員宅に出向いて実施したそうである。

全組合員調査は、JAのあるべき姿を組合員に尋ねたものである。こうした内容を持つ調査に、自ら足を運んで仲間の組合員に説明し、自らの手でその総意を明らかにしようとした理事や総代は、まさに組合員リーダーと呼ぶにふさわしい存在といえるだろう。

今、組合員大学に取り組むJAが増えている。その目的は、組合員リーダーを育成することにある。今日のJAは、1県1JAの誕生に示されるように、きわめて大型化が進んでいる。また、正・准組合員数の逆転に象徴されるように、組合員の多様化も著しい。メンバーの数が増え、関心やニーズがばらければ、それだけリーダーにかかる負荷は大きなものとなる。

現実としては、全組合員調査を先導する理事や総代が存在するようなJAは少数派であろう。それどころか、理事や総代のなり手を見つけることさえ困難なJAが増えつつあるのではないだろうか。

今、JAに求められているのは、自らの理想とする組合員リーダーを自らの手で育てていくことである。そしてその中心を担う場が組合員大学なのである。

本稿では2回にわたって、事例を通じて組合員大学の実際を見ていく。まず前編では、40年以上の組合員大学の実績がある神奈川県JAはだのの取り組みをとりあげることとする。

事業として取り組む組合員教育

JAはだのは、神奈川県秦野市を事業エリアとする1市1JAである。1963年に秦野市内の5農協の合併によって誕生し、さらに66年に同市内の2農協と合併して現在に至っている。2021年度末の正組合員数は2,816人、准組合員数は11,621人。また、同年度の事業実績は貯金残高2,372億円、長期共済保有高4,125億円、販売品取扱高18億円、購買品取扱高25億円などとなっている。

2_JAはだのHPトップ

周知の通り、同JAはかつてより協同組合の範と目されてきた。それを象徴するのが、総会方式の採用(2021年度から総代会方式)、春と秋に81会場で開催する座談会、半世紀にわたって実施している毎月26日(現在は26、27日)の組合員訪問、正・准組合員いずれも加入する生産組合(基礎組織)、そして組合員教育事業である。

本稿のテーマである組合員大学は、同JAでは協同組合講座と呼ばれており、組合員教育事業の中で実施されている。

図1は組合員教育事業の全体像を示したものである。同事業は、組合員組織の代表者等によって構成される組合員教育対策委員会の下で展開しており、協同組合講座と同講座の修了者が参加する国外・国内視察研修によって構成されている。

3_(図1)組合員教育事業概要(2023版)
図1 JAはだのの組合員教育事業の全体像

組合員教育事業のスタートは、1982年にまで遡る。その目的について、当時理事会に提出された資料には、「環境の急激な変化と、組合員の多様化によって従来の教育活動だけでは将来的な問題解決は困難であり、今後予想されるきびしいJA経営を考え合わせると、新時代に即応した充実した教育学習を行う必要がある。とりわけ将来の農協運動の中心者となる組合員後継者や、秦野市の農業振興の担い手である農業後継者に対しては広い視野にたった協同組合運動や、農業のあり方等について研鑽の機会を与えたい」と記されている。

このような目的を成し遂げるには、経営状況に左右されない継続的な取り組みとする必要がある。そこで同事業のスタート時より組合員一人当たり5万円を目途に基金を積み立て、その運用益を財源として今日に至っている。現在基金の総額は、7億2,490万円となっている。そしてこのように安定的な財源を確保していることから、同JAでは組合員教育を1つの事業として位置づけている。

協同組合講座の内容と特徴

図2は2022年度の協同組合講座のカリキュラムを示したものである。同講座は三つの講座で構成されており、それぞれの概要は以下の通りである。

4_(図2)組合員教育事業概要(2023版)
図2 2022年度の協同組合講座のカリキュラム

組合員基礎講座は、准組合員およびその家族を対象としており、協同組合についての基礎的な学習や、JAの組織・事業などを知ることを目的としている。期間は1年間で、2022年度の定員は20人。年6回の講座、開講式、共通講義合わせて8回のうち、4回以上の受講が修了の要件となっている。

組合員講座は、組合員およびその家族を対象としており、協同組合についての学習を基本としつつ、「農」「地域」「生活」などに関する学びを目的としている。期間は1年間で、2022年度の定員は20人。年7回の講座、開講式、共通講義合わせて9回のうち、5回以上の受講が修了の要件となっている。

専修講座は、組合員講座修了者を対象としており、グループ討議を毎回行い、協同組合についての理解をさらに深めることを目的としている。期間は2年間で、2022年度の定員は20人。年6回の講座、開講式、共通講義合わせて2年間トータル16回のうち、8回以上の受講が修了の要件となっている。

同JAでは、これらの講座の中で大切にしていることとして次の三点をあげている。

第一には、二宮尊徳とその弟子である安居院庄七(秦野市出身)の「報徳」の教えや、協同の精神を必ず学ぶことである。第二には、座学だけでなく、グループワークや体験学習、視察研修などの学習プログラムを取り入れ、実践性を高めるとともに受講者の交流を深めることである。そして第三には、組合員教育対策委員や受講者アンケートなど組合員の声を重視し、カリキュラムに実際に反映させることである。2022年度のカリキュラムに盛り込んだ「SDGs」「脱炭素」「デジタル化」などがそれに該当する。

同JAの協同組合講座では、組合員基礎講座、組合員講座、専修講座の順でより深く協同組合を学べるようになっている。そして、准組合員世帯の人は組合員基礎講座から、正組合員世帯の人は組合員講座からスタートし、前者は3講座合わせて4年間、後者は2講座合わせて3年間受講できるようになっている。実に充実した学びの場づくりが展開されているといえるだろう。

なお、実際に組合員基礎講座から組合員講座に進む受講者は3~4割程度、組合員講座から専修講座に進む受講者は6~7割程度となっている。

5_協同組合講座のようす
協同組合学習・組合員の声を取り入れた多様な学習プログラム

修了後の動向と受講者の募集

今から40年前にスタートした協同組合講座は、延べ修了者が2001年度に1,000人、2014年度に2,000人を突破し、現在(2022年度)は2,678人にまで達している。JAでは、修了者が地域農業や地域活動の中で活躍している姿をよく目にしている。

また、直接的な働きかけを行っているわけではないが、生産組合長(基礎組織の代表者)を務めている修了者は多く、JA役員(理事・監事)に占める修了者の割合は7割程度となるなど、組合員リーダーとして活躍している者も多い。

ところで、これだけ長く続けていれば、受講者集めの困難が容易に想定されるところである。この点について、企画部組織教育課の栗原哲平課長に話を聞いた。

6_JAはだの_栗原課長
協同組合講座の事務局を務める栗原課長

受講者集めについては、組合員基礎講座がもっとも苦労を要し、次いで組合員講座、専修講座の順となるという。

組合員基礎講座の募集方法は、「支所長推薦および一般公募とする」と定められている。そして実際には、支所長推薦が多くなっている。同JAでは、毎年各支所において新規の組合員加入者(准組合員が大半を占める)を対象とする「組合員の集い」を開催している。その中で組合員基礎講座を紹介し、その後支所で個別に働きかけ、支所長推薦として受講者を確保することが多いようである。ただし支所長推薦はノルマではなく、定員が中々埋まらない年もある。その場合は、本所が支所に協力を仰ぎ、追加の推薦を求めるようにしている。こうした年がしばしばあることから、前述したとおりもっとも苦労を要すると認識している。

組合員講座の募集方法は、「生産組合・女性部組織推薦および支所長推薦とする。また、若干名を公募とする」と定められている。支所長推薦はもとより、組合員組織推薦枠についても、各支所の働きかけを通じて受講者を確保している状況にある。その一方で、受講者が仲間の組合員を次の受講者として紹介してくれることが少なくなく、組合員基礎講座からスライドしてくる受講者も一定数存在しているため、組合員基礎講座に比べれば負担感は小さいと認識している。専修講座については、組合員講座からのスライドで受講を希望する人が十分おり、定員は自然に埋まる状況にある。

実際の受講者は、いずれも60歳代が中心で、女性の方がやや多くなっている。もちろんJAでは若い受講者を増やしたいと考えているが、農業に従事する若い層はすでに大半が受講を終えており、非農家の若い層は勤めを持つ中で受講は難しい。とはいえ、今日のシニア世代のバイタリティーは旺盛である。協同組合講座はそのバイタリティーを農業や地域、さらにはJAに向かわせる役割を果たしている。

学びを通じた「わがJA」意識の醸成

JAはだのでは40年にわたって協同組合講座を展開し、修了者は延べ2,678人を数えるに至っている。このことは、同講座が単なる楽しい場としてではなく、組合員にとって参加するのが当然の活動として認識されていることを示唆しているのではないだろうか。

このような状況は、協同組合講座だけでつくられてきたものではない。同JAでは、総会・座談会・組合員訪問などを組合員と職員が「学び合う」場と位置づけ、協同組合講座と同様に長きにわたって継続してきている。その積み重ねの中で組合員の「わがJA」意識が高められ、「JAから声がかかったら協力してやるか」という関係が築き上げられていると考えられる。40年経過しても協同組合講座を継続できている現状は、詰まるところ組合員の「わがJA」意識が高いことに行き着くだろう。

事務局の栗原課長は、コロナ禍で講座の中での対話、学び合いが十分でなかったことを踏まえ、「まずは以前の状況を取り戻す」、そして「同じことをやるのではなく、時代に合った学びを追求する」と今後の展望を語ってくれた。

学びを通じた「わがJA」意識の醸成、それはJAはだのの組織文化といえる。そしてその組織文化は、今後も揺らぐことはない。

7_第1回組合員訪問日
第1回「組合員訪問日」(1968年度)の様子(機関紙「JAはだの」より)

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