【トップ対談26】組合員・地域とともに(下)「和衷協同」のJAづくりゲスト/村川 進(香川県 JA香川県 代表理事理事長)

第26回ゲスト

香川県 JA香川県
代表理事理事長 村川 進(下)

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学名誉教授
京都大学学術情報メディアセンター研究員

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「和衷協同」のJAづくり

JA香川県では信連を存置している。そのメリットを活かしつつ、「人財」育成のための役職員教育、ユニークな農業振興アクションプログラム(農業インターン制度、営農支援、高松盆栽学校の設置)など、県単一JAだからこそできた活動や事業も数多い。活発な女性部活動を含めて、JA香川県の強みを村川進代表理事理事長に語ってもらった。

「域内経済循環」の中核を担いたい

石田:JA香川県は信連を存置しています。このメリットは何でしょうか。

村川:最近は県単一JAでも信連を存置している県もあります。合併当初はなぜ信連を残すんだとよく言われたものですが、最近はほとんど言われなくなりました。やはり、JA香川県が有価証券運用することのリスク、これを組合員が持たなければならないからです。メリットなりプロフィットもありますが、金融情勢が見通せないなか、JAが自らリスクをとることには十分な注意が必要です。

石田:リスクをとらなければ、自己資本比率も上がりますからね。

村川:自己資本比率はおよそ17%。有価証券を持っていれば、価格変動のリスクを受けますが、信連に預けていればリスクはないので、価格変動に影響されない安定経営が可能です。

石田:JAからみればそうですが、リスクは信連がかぶることになります。

村川:そのとおりですが、信連は、金融を主たる業務とする組織です。営農経済や組合員のことを直接考える必要がありません。どうすればJA経営に貢献できるかという観点から資金運用を行っていけます。JAと比べて信連の運用規制が緩いのもメリットです。

石田:でも、信連は従来どおりの運用を行っているのでは。

村川:もう完全に変わりました。以前はおっしゃるとおり変動リスクを抑えた投資をしていたのですが、4、5年前からガラッと変わりました。ポートフォリオの中身は「え?」っというくらいに変わっています。

石田:なるほど。でも、貸出にはあまり積極的ではないですよね。

村川:貸出を増やさなければという意識は信連にもJAにもあります。しかし、お金を貸すことが目的ではありません。営農面、生活面のニーズをいち早く感知し、組合員の皆さまに利用され喜ばれることを目的としています。現状、住宅ローンの利用が伸びています。
 ですが、中小企業のところが取り込めていません。「信用事業規程」では商工業者にも利用してもらえるのですが、それができていません。
 まずは専門性の向上が必要です。ということで、12の統括店に融資課を設置して、商工業者への事業資金の貸出を始めようとしています。今年度から農林中央金庫の「貸出強化支援プログラム」を導入し、決裁権限を統括店に下ろすとか、地域の実情に応じた貸出体制の整備などを検討しています。その結果を年度内にまとめて、来年度から実際に貸出伸長につながるような体制を構築していきます。

石田:「地域に根ざしたJA」というからには、域内経済循環に貢献するようなJAにならないといけません。

村川:「地産地消」ではないけれど、地域のお金はやっぱり地域で回していく、というのがわれわれの本来の使命だと思います。
 令和4年度から始まる「第7次中期経営計画」では、そのことを強く意識して、地域の「農業」を守る、地域の「食」を守る、組合員等の「くらし」を守る、という3つの取り組みが、好循環するような地域社会を構築していく姿を描いています。これは「JA香川県の『食』と『農』を軸に地域とつながる総合事業」という標題で概念図として示しています。
 考えるに、このようなビジョンはJAでしか描けません。他の金融機関では描けません。食もなければ、農もない。生活しかないからです。われわれとしてはこの点を強い決意をもって社会にアピールしていきたいと思っています。

JA命は「人財」

石田:その観点からお聞きしたいのが「事業開発課」です。どんなことをやろうとしているのですか。

村川:それこそ商工業者の協力を得ての新規事業開発です。どの部にも属さず、代表理事副理事長(営農経済担当)の直轄です。香川県の園芸をどう発展させるかという問題意識のもと、冷凍のカット野菜やカットフルーツの分野に乗り出そうとしています。関連する機械メーカーや流通業者のお話を聞くなかで計画をまとめていますが、同時に、これまでは別々だった生産と販売の部署を一本化して議論を進めています。まずはスモールスケールでの成功をめざしています。

石田:そこにいる人は、もともとは営農畑だったのですか。

村川:課長は「担い手サポートセンター」のセンター長でしたが、課員は営農畑、販売畑を問わず集めています。部門横断的な観点から事業を戦略的に創造できる職員の育成をめざして、香川大学大学院地域マネジメント研究科の協力を得て、選抜型研修「Business Innovation Program 『I do!』」を実施していますが、その研修を受けた、あるいは受けている職員たちです。

石田:画期的ですね。

村川:今年度で3年目ですが、毎年10名程度が学んでいます。基本は自主的方式の参加ですが、上司の働きかけもあります。今年度の場合、7月23日(土)から1月14日(土)までの全11回、ここJAビルで午前・午後の終日研修を受けます。最終の3月3日(金)には、われわれ役員、幹部職員を交えて、研修生による「新規事業提案プレゼンテーション」が開かれます。香川大学大学院地域マネジメント研究科は経営修士(MBA)を授与する専門職大学院ですが、そこから6名の教員の方々に来てもらい、経営管理論、イノベーション論、マーケティング論、事業構想論、組織行動論、会計・財務などを学んでいます。

石田:ぜいたくな研修会ですね。

村川:そのほか今年度から事業開発課の1名ですが、東京の「アグベンチャーラボ」にも参加させています。私が農林中金に問い合わせて、連合会・中央会だけではなくJAからの参加もOKという返事をもらったので、派遣することにしました。全7回の研修です。
 東京で丸1日研修を受けたあと、毎回課題が与えられ、次回その解決策を発表するそうです。1チーム4人編成でイノベーションに関する解決策を作成しなければなりません。今年度、3つの賞のうち、なんと2つの賞をわが職員が入っているチームが受賞しました。

石田:それはすごいですね。

村川:そうですね。本当に大きな機会を与えれば、若い職員、それもやる気のある職員は、いろいろと自分で考えて、一生懸命に調査し、創造的な提案をしてくれます。これからが楽しみです。
 実際、やる気のある職員は「飢えている」のではないかと思っています。僕は行きたいよ、私も参加したいよ、ということで、『I do!』では自ら手をあげて参加する職員が増えています。手当はまったく出ません。今年度は女性の参加者が多くなっています。
 そういう人間、人材というのはJAにとって貴重な財産、「人財」です。その人たちの能力を目いっぱい引き出し、それを事業に結びつけていくことが、われわれ役員の任務だと思っています。事業開発課は、そういう彼らが能力を発揮できる貴重な場となるでしょう。

石田:話は飛びますが、全中のマスターコースにも職員を派遣していますか。

村川:ええ。毎年、マスターコース、監査士コースのいずれかに派遣しています。監査士試験は年々むずかしくなっているようですが、今年度監査士コースを受講した1名が見事合格しました。
 研修は、若手職員だけのものではありません。役員、幹部職員にもその機会が与えられています。港会長から、農林中金アカデミーの「経営者コース」「部長コース」へ参加するよう指示を受けています。それも信用部門の役員、部長だけではなく、企画、総務、営農経済部門の役員、部長も参加しています。日程的にはきついものがありますが、経営戦略の立て方など部門に関係なくアカデミーの先生たちから学ぶことがたくさんあります。

選抜型研修で役員らにプレゼンテーションをする若手職員

農業振興アクションプログラム

石田:農業振興アクションプログラムでは、「農業インターン制度」を活用した新規就農者の確保と、省力化、品質向上、所得増大をめざした「営農支援」に興味をもちました。

村川:農業インターン制度は、専業農家の農場で1年間就農訓練を受けるという制度ですが、JAは単なるあっ旋ではなく、インターン生を特別嘱託職員として雇用し、社会保障を含めて生活面で支えていくというものです。もちろん、農家の方にも指導料をお支払いします。

石田:JA香川県の設立以降、ずっと行っているのですか?

村川:そうです。これまでに139名を輩出しました。昨年度は13名を輩出し、全員就農しました。定員は10名程度ですが、今年度は17名が訓練中です。年齢でいうと30代が多いのですが、どうも職場や学校の先輩・後輩つながりで、「こんないい制度があるぞ」って口コミで広がっているようです。圧倒的に非農家出身の方が多いです。

石田:なるほど、人間30歳も過ぎると、人生観が変わってくるのですね。

農業インターン制度の募集チラシはこちらから

村川:営農支援については、7つの地区営農センターでその地域の農業の実情に合わせて実施されていますが、要望の高いものとして「フィールド支援」「育苗支援」「荷造り調整支援」があります。
 フィールド支援は、苗の定植、防除(農薬散布)、畝立て、マルチ張り、草刈りなど、多岐にわたっています。育苗支援は、12の育苗センターで水稲と園芸の主要品目(ブロッコリー、レタス、青ネギ、イチゴなど)を中心に良質な苗を育てています。荷造り調整支援は、地域ごとに出荷量の多い品目が異なるため、メニューも集荷場によって異なりますが、ブロッコリーはほぼ県内全域で行われています。このほか、青ネギ、アスパラガス、レタス、ミニトマトの利用が多く、果樹ではミカン、モモ、カキ、ナシなどで行われています。また、花きについては小豆地区の池田集荷場でキクの荷造り調整支援を行っており、生産者の作業軽減と品質の統一に貢献しています。このうち、ブロッコリーについては、全国で初めて「氷詰め出荷」を実現し、香川県産ブロッコリーの品質を全国的に知らせることに成功しました。

石田:もう一つ、これは面白いなと思ったのは「高松盆栽学校」です。どんな取り組みでしょうか。

村川:2020年4月、高松市国分寺町に「高松盆栽の郷」をオープンしました。高松市鬼無町(きなしちょう)は高松盆栽の発祥地として有名ですが、そこからほど近い国分寺町に情報発信拠点として、生産者、香川県、高松市、JAが一体となって設置したものです。
 クロマツ盆栽の販売(即売およびインターネット販売)のほか、盆栽学校(初級・中級・上級コース)と、入門編として「苔玉作り」「盆景」を楽しむ体験教室を開いています。講師は3名のベテラン生産者が交替で担当しています。受講生は年配の方から20代~30代の女性、さらには高校生を含めて、老若男女幅広く利用していただいています。

多くの受講生でにぎわう「高松盆栽学校」

ご存知のとおり、盆栽はヨーロッパで大変な人気でして、円安の影響もあって、高いものからどんどん売れていきます。輸出には植物防疫所での隔離栽培の期間もあって、すぐに届くわけではないのですが、品不足の状態に陥っています。40万円程度のものはすぐに売り切れとなります。盆栽の貸出し(レンタル)も行っていますが、1回何万円もするような高額商品に人気が集まっています。環境はガラッと変わりました。

石田:よくわかります。「栗林公園」「盆栽の郷」「屋島」をセットにして国際的にもっと広報したいですね。インバウンド需要の復活を見定めて「世界盆栽フェスタ」を開くのもいいと思います。

「活私開公」の女性部活動――二川豊子さんに聞く

「活私開公」とは、私を活かして公共に開く(社会の役に立つ)という意味をもっている。私を滅して公に奉じる(お国の役に立つ)という「滅私奉公」とは対極にある生き方である。協同活動の原点は「助けあい」にあるが、その助けあいの社会をつくるのも、この「活私開公」あってのことだといってよい。
 トップ対談の席上、村川理事長から次のようなお話があった。

『家の光』2018年2月号「きずなの力」企画で掲載されたJA女性部による東日本大震災支援

JA香川県高松市中央地域女性部の顧問に二川豊子(ふたがわとよこ)さんという、すごく元気のいい方がおられます。今では「支店協同活動」と呼ばれていますが、当初、JA香川県では金融部門からの提案で「1支店1アイデア運動」としてスタートしました。その背景には、来店感謝日に窓口で貯金をしていただくとプレゼントを差し上げるので来店者が多いけれど、それだけではいけない。支店ごとにひとつずつアイデアを出して来店者をお迎えしよう、ということで始めました。
 2011年ころの話ですが、ちょうどそのころ、私は高松市中央一宮支店(取りまとめ店、現在は統括店)で副支店長、支店長をしておりました。
 そのときに高松市中央地域女性部の部長をされていたのが二川さんでした。1支店1アイデア運動をどこかで聞きつけたのでしょう。「私たちがお手伝いしますよ」といってくださいました。たいへん助かりました。この月はおはぎ、この月は炊き込みご飯、というように、毎月メニューを変えて来店者にプレゼントしてくれました。高齢者の方が多いので、これをプレゼントしたらきっと喜ぶよということで始めたのです。
 その後、支店協同活動に名称が変更されましたが、今度は小学生たちに「手縫いの雑巾」をプレゼントすることになりました。というのは、今の小学生たちは雑巾を絞れません。絞り方を教えなければいけない、ということで始めました。最初は高松市中央一宮支店だけの取り組みでしたが、またたく間に女性部活動として県内各地に広がっていきました。着眼点がいいのか、この取り組みは現在も各地で続いています。二川さんのそういうところ、いうならば発想力なりリーダーシップは類まれなものがあります。
 東日本大震災(2011年3月11日)のときも、震災発生の3日後に女性部で募金活動をスタートさせました。また、その年の10月には東北3県の女性部の方々に「南天九猿(なんてんくざる)」をお届けしました。南天九猿は「難が転じて苦が去る」という意味がありますが、その思いを込めて、片道1,300㎞を小さなバスに乗って、女性部の仲間たち10名で駆け付けたのです。

以上は村川理事長の回顧談である。JA香川県女性部は会員数1万1000名を数える大組織で、6地区(大川・中央・小豆・綾坂・仲多度・三豊)で構成され、地区の下に「地域」、地域の下に「支部」をおく重層的な組織である。トップ対談の翌日、JA香川県女性部の部長を務められた二川さんから直接お話を聞くことができた。それによると、村川理事長の話にはまだまだ続きがあった。

お届けした南天九猿は全部で500体を数えますが、お届けするときは「うどん」や「すし」をふるまって、香川でいう「お接待」をさせてもらいました。皆さんにたいへん喜んでいただきました。

多くの仲間とのきずなを紡いでくれた「南天九猿」

そうすると、被災地の女性組織からお声がかかるようになり、各地で重ねた交流は全部で6回を数えました。また、風評被害で苦しむ福島県のお役に立てればと思い、交流したJA新ふくしま(当時、現JAふくしま未来)の方々が育てたリンゴをJA香川県の「ふれあいまつり」で販売し、それは現在も続いています。そうしたつながりからJA新ふくしま女性部との間では、長野県千曲市で「県外交流研修会」を開くことができました。さらにまた、2016年の熊本地震のときには熊本県にうどん500食の支援に出向きました。

熊本地震の被災地には500食の「うどん」を持って駆け付けた

二川さんのJA香川県女性部での歩みを簡単につづると、2002年にJA香川県高松市中央地域女性部一宮支部の支部長、2010年に同高松市中央地域女性部の部長、2012年に同中央地区女性部の部長、2016年に同女性部の部長と同経営管理委員を歴任し、現在は高松市中央地域女性部顧問に就任している。
 その間に彼女がアイデアを出して取り組んだ女性部活動は数知れない。たとえば、①講演会は嫌だという声が出て、思い切ってスポーツに切り替えた(ソフトバレーボール、ボウリング、ウオーキングなど)、②助けあい組織「みつばの会」を立ち上げた、③「ゴミ0(ゼロ)」清掃活動では、地域を巻き込んで、栗林トンネル付近の清掃を始めた、④「ひまわり」を咲かせて支店を盛り上げる活動を開始した、⑤「食の運動会」ではリンゴの皮むき、キュウリの輪切り競争を行って大好評を博した、⑥高松市中央地域女性部では会員270名で「さわやか会」をスタートさせ、職員と合同ビアガーデンを開いた、⑦女性部の仲間づくりの企画では、山田雅人氏による「かたりの世界」を主催し、同氏とは今も親戚以上の付き合いを続けている、⑧新型コロナウイルスの最前線で働く医療従事者へ感謝の気持ちを届けようと南天九猿を贈呈した、⑨牛乳パックで作るエチケット袋入れで家の光協会「暮らしに役立つハンドメイド大賞」の優秀賞を受賞した、⑩高松市中央統括店を盛り上げようと、折り紙で作った支店長雛(管内支店長たちの顔写真を貼った飾り雛)を製作した、⑪高松市中央統括店の全職員の昼食づくり(うどん、カレー、弁当など)を始めた、などがあげられる。注目したいのは、こうした取り組みのいくつかは、県内各地の女性部活動、支店協同活動でも採用されていることである。
 そういう「活私開公」の二川さんであるが、彼女の大きな財産はたくさんの知り合いや友人を得たことにあるという。そして、それを可能にしたのは、①自分の名前で集める会合には、誰よりも早く会場に到着した、②JA香川県女性部の役員を務めた17年間、一度も遅刻・欠席をしなかった、③目標数字は必ず達成した、④「できません・わかりません・知りません」は絶対に言わなかった、⑤下の者には怒らず、ほめてきた(さすが、すごいね、すばらしいなどのほめ言葉を使ってきた)、などがあるという。
 そのまっすぐな性格や姿勢が伝わったからこそ、JA香川県のトップたちの信頼を得たのであろう。彼女がいう友人のなかには、宮武利弘、廣瀬博三、遠城昌弘、港義弘、村川進(いずれも敬称略)など、歴代の会長、理事長が含まれている。こうした友人たちに対する変わらぬ思いは、少しでも早く「家の光文化賞」を取ってほしいことであると告げられた。

当時の様子を話してくれた二川豊子さん(右)と高松中央地区統括店総合課の柴田奈美さん

(終、取材/10月18日)

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