【トップ対談24】組合員・地域とともに “原点回帰”でもっと身近なJAにゲスト/柳下健一(神奈川県 JA横浜 代表理事組合長)

第24回ゲスト

柳下健一
神奈川県 JA横浜 代表理事組合長

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学 名誉教授
京都大学 学術情報メディアセンター研究員

JA横浜(横浜農業協同組合)2022年3月31日現在

JA概況 地図入る

2003年に横浜市内の5JAが合併して発足、市の全域を事業区域とする。理念に「JA横浜は人と自然を大切にし、社会の発展と豊かな暮らしの実現に貢献してまいります」と掲げている。

○組織の概況

組合員数70,407
(正組合員11,469、准組合員58,938)
役員数61
職員数1,368

○地域と農業の概況

地産地消の先駆けといえる農家直売が古くから行われており、大都市でありながら、野菜や果樹、花卉、植木、畜産、米など多彩な農畜産物が生産されている。「安全・安心な横浜産農畜産物の提供」など、SDGsの達成に向けた取り組みにも力を入れている。

○JAデータ

写真 本店.JPG入る

設立 2003年4月1日
本店所在地 横浜市旭区二俣川1-6-21
出資額 117億2100万円
貯金額 1兆8317億6100万円
貸出金 6617億9800万円
長期共済保有高 3兆590億1000万円
受託販売品取扱高 29億2700万円
購買品供給高 149億8400万円

“原点回帰”でもっと身近なJAに(上)

農協と信用金庫・信用組合(信金・信組)はともに協同組織金融機関である。しかし、農協は農業者、信金・信組は商工業者という組織構成員の違いから、その事業モデルは根本的に異なる。今回はその違いを、長い間金融部門を中心に歩んでこられたJA横浜の柳下組合長に「融資」という切り口から語ってもらった。

いしだ・まさあき

石田正昭

いしだ・まさあき/1948年生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程満期退学。農学博士。専門は地域農業論、協同組合論。元・日本協同組合学会会長。三重大学、龍谷大学の教授を経て、現職。近刊書に『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』『いのち・地域を未来につなぐ これからの協同組合間連携』(ともに編著、家の光協会刊)

柳下健一

柳下健一

やなぎした・けんいち/1962年横浜生まれ。1985年に入職。2001年金融推進課長、2003年融資課長、2005年融資推進課長を経て2009年本郷支店長を務める。2011年金融部長、2013年融資部長を歴任。2016年常務理事を務め、2019年代表理事副組合長、2020年6月代表理事組合長に就任し、現在に至る。

「JA横浜 創立20周年」を迎えて

石田:JA横浜は今年度、創立20周年を迎えました。抱負をお聞かせ下さい。

柳下:いろいろなことがありましたが、やっとひとつになれたかなという印象です。これを機に心を引き締めて、もう一段大きな改革を進めています。農業や地域をめぐる情勢、金融をめぐる情勢はいずれも厳しさを増していますので、組合員・利用者との関係、職員との関係を見直すなかで、10年先を見据えた「JA横浜10年ビジョン」を打ち出しています。
 このビジョンの肝は、経営の成長が伸び悩むなかで、ボリュームよりも収支を重視した経営を目指すことにあります。今のままでいけば経営は早晩立ち行かなくなる。そうであってはならないという思いから、未来志向的なプロジェクトチームを立ち上げ、業務態勢の見直しを図るとともに、見直しによって生まれた新たな業務に最適な人材を配置するという“適所適材”の人事管理を行っていきます。命令された業務の適切な遂行に対して、それ相応の給与を支払うという“ジョブ型雇用”を導入します。

石田:画期的なビジョンですが、全JAの先陣を切る横浜だからこそできる経営改革だと思います。これを「了」とする理事会も進んでいますね。

柳下:経営の問題は非常勤理事らからも強く言われていて、それに後押しされた感があります。非常勤理事の数を減らそうという話も出たくらいです。とはいうものの、正直、各論に入るとそこは難しく、結局、常勤理事を6人から5人に変更することで決着しました。

石田:JA横浜は昔から組合員の参加・参画意識が高かったと記憶しています。

柳下:私は1985年4月に旧横浜北農協に入りました。最初は経済、次に外務(得意先)、それから金融に回りました。当時のジョブローテーションとはそういうものでした。合併後は本店の融資課長を拝命し、2009年に支店長として初めて現場に出て、旧横浜南農協の本郷支店を任されました。
 本郷支店の理事をはじめ支店運営委員会の皆さんは本当に厳しかったです。資料が間違っていたり、読み方を間違えたりすると、職員たちはお叱りを頂戴していました。「職員を叱るのではなく、私を叱ってください」とお願いしましたが、それほどに高い見識をお持ちの方々でした。
 支店運営委員会の皆さんも「俺たちの農協だ」という意識が強く、「いいんだ、俺たちがやるから」という考え方が定着していました。どちらがよいという問題ではありませんが、JA横浜の「きた地区」と「みなみ地区」では参加・参画の仕方が違っていました。それぞれの特徴を生かした参加・参画の仕方が定着していたと思います。
 違いがとくにはっきりしていたのが女性部です。「きた地区」では女性職員が担当し、「みなみ地区」では男性職員が担当してきました。一度、みなみ地区の女性部の方々に「女性職員が担当するのはどうですか」と尋ねたところ、皆さん声を揃えて「ダメだ」と言うんですね。異性の方がやりやすいと。 

石田:おそらくものが言いやすいということでしょうね。

柳下:そう思います。現在では本部は女性職員が担当し、支部は全支部男性職員が担当しています。

(写真 女性部(役員とJA役員との意見交換会)入る
女性部役員とJA役員が意見交換会を行う

“適所適材”の発想はどこから生まれたか

柳下:組織を動かすのは私どもではなく組合員です。私たちはお手伝いはしますが、基本は組合員が自分たちで考えたり、アイデアを出し合ったりすることに置かれています。もちろん「ほかではこうやっていますよ」という情報はお伝えしますが、組合員が盛り上がってくれないことには押し付けになってしまいます。

石田:そのとおりです。

柳下:地域開発という面で「きた地区」は遅れていたのですが、港北ニュータウン(都筑区)の開発で一気に様相が変わりました。今まで隣同士であった家々が区画整理でてんでばらばらになり、家と家のつながりが弱まっています。高齢化が進んでいることもあって、支部員の数も減っています。
 数が減るだけではなく、それぞれの境遇が異なるというなかで、組合員の多様化が進んでいます。それに伴い、組合との関係も多様化しています。だから私はよく言うのですが、「皆さんからJA横浜は大きい。貸出も大きい、貯金もあると言われるが、過信するな。うちみたいな都市型JAはなくても別に誰も困らないんだよ」と。大事なことは、そういう方々から「どうせ預けるなら農協だよ、どうせ相談するなら農協だよ」と言ってもらえるようにすることです。そうでなければわれわれの組織は成り立ちません。

石田:JA横浜の事業規模は信金・信組に負けないものがあります。信金・信組と何がどう違うか教えて下さい。

柳下:信金・信組から学ぶべき点は、彼らの方が相手の懐のなかに入り込んでいるということです。確かに事業規模は信金・信組に負けないものがありますが、それは組合の力というよりは個々の組合員の資産力によるものであって、その圧倒的な大きさに守られているというのが実態です。
 土地を活用した不動産賃貸を積極的に進めてきましたが、融資については建築あるいは購入する物件の構造とか内容、収益性、担保価値を審査するというパッケージ的なものがほとんどです。信金・信組のように、財務諸表(PL・BSなど)を四半期ごとに提出させ、その都度チェックを行うという徹底した管理が不十分だったと思います。
 最近では、入居状況の確認、家賃のチェック等も行うようにしています。そうではあっても融資物件以外の状況まで把握しているわけではありません。組合員もそこまで立ち入ることを望まない方が多いのですが、そこに踏み込めるだけの能力を持った人材をもっと送り込めれば、さまざまな相談対応が可能となります。この点にこそ“適所適材”を発想した原点があります。
 信金・信組との決定的な違いは、商工業者はすべてをさらけ出さなければ、融資が受けられないということを組合員自身がよく知っていますが、JAの組合員はそうではないという点に求められます。

石田:なるほど、説得力があります。

柳下:今、私どもが最も力を入れるべき領域は農業ですが、横浜農業を維持するためには「相続」という大きなハードルを乗り越えなければなりません。相続でもめるような家では農業の継続は望めません。かくいうわが家も、父親の代に相続でもめましたが、その時に受けた農協理事の助言によって何とか農業を続けることができています。農協にはこのうえない恩義を感じています。

写真 直売所1 入る
管内では多彩な農業が展開されている

地域農業を守るとりでは「遺言信託」

柳下:とくに相続相談業務に力を入れています。この問題に真剣に取り組む姿勢がなければ「明日の農協」はないとまで考えています。
 入居状況や収支状況など資産管理の状況を確認しながら、相続相談に乗るようにしています。とはいうものの、組合員が、すべての物件についてJAを使ってくれているわけではありません。この物件はJA、この物件は銀行と使い分けている事例が多いからです。
 理由として“担保主義”を厳格に行ってきたことがあげられます。駅前の土地であっても、担保価値を厳しく見ていたので「それだけでは足りない、もっと入れてくれ」と要求していました。そう言われた組合員が、銀行に駆け込んで借り入れたというわけです。銀行は“収益主義”ですから、収益力が期待される駅前の物件であれば多少担保が足りなくても貸してくれました。結果として駅前の優良な物件は銀行に取られてしまった。そうなると、相続の時にJAが融資した物件が処分されてしまうことになります。

石田:それはまずい。“担保主義”は現在も続いているのですか。

柳下:もちろん見直しています。もっと攻めようということで、取り組んでいる最中です。とくに力を入れているのは「遺言信託」を使った相談業務です。JAの財務コンサルタントが相談に乗りながら、すべての資産と負債を洗い出し、遺言書(公正証書)の作成をお手伝いしています。

石田:総代会資料(2020年度)では、預かり資産で3539億円と記載されています。全国一の扱いではないでしょうか。

柳下:そうだと思います。ただし、3539億円といっても件数にして919件、1件当たりではおよそ4億円です。そんなに大きな額ではありません。もちろん大きな人も小さな人もいます。組合員のなかには何十億円という資産をお持ちの方もいますので、そういう方にも使っていただきたいと思っています。
 私は“お守り”でいいと思っています。相続人の間でもめなければ、そのまま執行手続きに入ります。もめた場合も、遺言書があるということでいたずらに問題を長引かせることなく、相続税の申告期限内に分割協議を済ませることができます。
 もめないことが一番ですが、そうなるとはかぎりません。親が生きている間はもめることはありませんが、いざ亡くなってしまうと言い争いが始まることがあります。そういうことが起きないように、生前からJAがご相談に乗ることができるようになりたいと考えています。

石田:遺言書の作成と遺言の執行は別ですよね。

柳下:遺言書の作成と保管までを「管理コース」、それに遺言の執行を加えたものを「執行コース」と呼んでいます。手数料というか信託報酬はそれぞれ別です。その信託報酬ですが、預かり資産の規模によって定率で定められています。何十億円という預かり資産だと管理コースで1000万円を超えてしまいますが、JA横浜では最高でも500万円(税込み550万円)までとしています。

石田:それはすばらしい。

柳下:組合員の資産を守るというJAの姿勢を知っていただきたいからです。「農協で遺言信託やってたの知らないよ」とか「なんだ、やってたんだ。そんなこと誰も教えてくれなかったよ」と言われないようにしていきます。

適材適所と適所適材

三省堂辞書ウェブ編集部の「ことばの壺」は、適材適所と適所適材の違いを次のように説明している。

適材適所は「人の能力・特性などを正しく評価して、ふさわしい地位・仕事につけること」(大辞林)。これに対して、適所適材は「もともといる人を適した職場に置くのではなく、役割にふさわしい人を配置するという考え方」としている。対比すれば、適材適所は「その人にとって最適な職務を与えること」、適所適材は「その職務にとって最適な人を配置すること」と解釈できる。

この場合、適所適材の「その職務にとって最適な人」とは、仮に最適な人が外部にいれば、その人を招くことも辞さないということを表している。“ジョブ型雇用”と呼ばれるゆえんであるが、実際には適材適所を育んだ“メンバーシップ型雇用”とどう折り合いをつけるのかが重要な課題となるのではないか。

写真 二人写真 入る

“原点回帰”でもっと身近なJAに(下)

横浜市の人口はおよそ380万人。この人口規模を上回る県はそう多くない。農地面積も農業産出額も、さらには農業経営体数も県内ナンバー・ワン。この恵まれた条件を生かしたJA運営が期待されるが、これまでは長年の慣習に従ってきた面も強かったと評価する柳下組合長。組合員とともに歩むJA横浜をどうつくるかを語ってもらった。

写真 食農教育(産学連携)入る
食農教育で横浜農業を発信している

組合員・利用者との対話活動の促進

石田:創立20周年を迎えて“原点回帰”を打ち出されています。この考え方をお聞かせ下さい。

柳下:JAはフェイス・トゥ・フェイスが基本です。デジタル化の進展や新型コロナウイルスのまん延でそれが難しくなっている現状がありますが、JA横浜としては活動や事業のあらゆるシーンで対面での接触機会を増やし、組合員・利用者のお役に立ちたいというのが“原点回帰”の基本的な考え方です。
 そのひとつが「遺言信託」を通じての相続相談の深化だったわけですが、実際にはその一歩手前のところで、組合員の土地活用の相談に乗ることが大切です。例えば、A案とB案があって、A案は更地に上物を建てる、B案は更地のまま残しておく、とします。融資担当者からすれば、上物を建ててもらってお金を貸す方がよいのですが、これが本当にその家のためになるのかどうか、組合員の立場から考えるような人間をつくりたいのです。
 空いている土地に上物を建てれば収入は増えますが、そうなると相続の時に処分する土地がなくなってしまうことがあります。上物が建っている土地はいざ売ろうとすると安くしか売れないことが多いので、借金だけが残ってしまう可能性があります。このような事態を避けるには更地のまま残しておくことも有力な選択肢となるのです。
 その家の状況なり、物件の状況、さらには不動産市場の状況などを見極めながら最善の提案をしなければなりません。その時に私たちがしっかり説明しないとJAは断ったんだと思われてしまい、違うところがお金を貸して上物を建ててしまうことがあります。そのようなことがないように、組合員の財産を守ることがJAの使命であるということをしっかり伝える必要があります。それには税理士などを交えて相続のシミュレーションを提案することも重要です。
 そのため、事業とは少しばかり離れて、組合員のあらゆる相談に乗ることのできる担当者として「組合員コンシェルジュ」という職種をつくりました。外務(得意先)とも違いますし、「遺言信託」を扱う相続サポート課とも違います。コンシェルジュは、本来、支店長・副支店長のクラスがやるべき仕事だと思っていますが、今まで関係が希薄だった正組合員のところをくまなく回り、JAがお役に立てることは何かを確認してもらっています。
 いわば各支店でフォローしきれない正組合員を対象に、正組合員のメンバーシップの呼び戻しをするというのが「組合員コンシェルジュ」の仕事です。「組織強化・相談エキスパート職」の位置づけのもと、土地活用の相談だけではなく、農業や農地の相談もできるようにしていきます。2021年4月に3名を先行導入し、2022年4月に10名まで増員しました。

石田:例えば、うちの農地、誰かに預かってもらえないかという要望を出したらコンシェルジュが受け手を探してくれるのですか?

柳下:その場では決まりません。営農インストラクターや営農技術顧問に話をつなぎながら、営農経済部門と連携して受け手を見つけるようにしていきます。経済事業や農業はJAにとって一丁目一番地の仕事ですから、生産者の確保、販路の拡大に今以上に積極的に取り組んでいきます。

写真 組合員コンシェルジュ 入る
組合員コンシェルジュが組合員のさまざまな相談に乗る

みんながHAPPY!やるJA横浜!

石田:JA横浜は農産物直売所「ハマッ子」を各地に設置してきましたが、何をどこにどれだけ売るかは個々の生産者に任せてきました。380万人もの人口があるので売るのに困らなかったし、共販も成り立たなかったと理解しています。

柳下:そのとおりですが、やや惰性に流れてきた面もありました。今はもっとJAの姿勢を明確にしなければならないと思っています。
 新たな販路はあるのです。例えば、トップ外交の一環ですが、横浜市やUR(都市再生機構)から移動販売の要望がきています。URは入居者の高齢化によって買い物難民の状況が生まれていて、理事長から直接お話がありました。

石田:URは「『住む』から『暮らす』へ」という観点からの“街づくり”を進めています。数年前ですが、私もこの件で勉強会に呼ばれたことがあります。

柳下:それなのに「売るものがない」ではお話になりません。JAがきちんとした販路をつくれば、生産者の間に信頼感が広がり、黙っていても荷はJAに集まってきます。

石田:何でもよいというわけではないでしょう。何を基幹品目とし、何を周辺品目とするかの区分を明確にし、それに基づいた生産・販売計画を策定・実行していかなければなりません。

柳下:もちろんです。同時に、野菜・果実などの生鮮品だけではなく、「ハマッ子」ブランドの加工品も開発したいと考えています。例えば「やるJAカレー」「やるJAみそ汁」、それにカレーとマッチした「やるJAラッキョウ」なども…。それらをセットにしたお中元・お歳暮商品も開発したいです。
 実は、横浜市は農地面積も農業産出額も神奈川県内ナンバー・ワンです。花卉や盆栽・植木などを含めて何でも揃っています。とくに小松菜は全国市区町村別の産出額で上位に位置しています。ですが、横浜農業がそんなに盛んであることを知らない人がほとんどです。そのあたりの理解を深めてもらうためにも、JAが商品開発や販路開拓に乗り出すことが必要なのです。
 その手始めとして、令和3年度は、地元の神奈川新聞に「ハマの名産品めぐり」という企画広告を年6回掲載しました。不肖私と副組合長が交互に生産者の農園に出かけていき、農園主と対談するという企画です。「柳下健一組合長のレポート」と称して小さなコラムも設け、トップ広報に取り組んできました。

石田:私も拝見しました。JAとか横浜農業が身近に感じられるいい企画です。

柳下:ところが移動販売車を出すとなると、必ず皆が言うのは「人件費はどうするんだ」という話です。その時、私は「人件費は関係ないよ」「今いる人間でやるんだから」と返しています。人件費うんぬんよりも、担当者の笑顔や愛想のよさ、確かな商品知識を市民に知ってもらうことが重要で、それによって「みんながHAPPY!やるJA横浜!」になるんだと言っています。
 話はそれますが、『家の光』の配本も昨年度の後半から、業者配送から職員の手渡しに変えています。外部に配送料を払うくらいなら、内部で頑張ろう。手渡す時に「読みどころ」を伝えて、対話を豊かにしようと呼びかけています。外務(得意先)が配る支店が多いのですが、なかには支店長・副支店長や管理職が配る支店もあって、重要な対話機会となっています。支店全体の情報共有のために対話記録も残しています。

写真 ハマッ子直売所四季菜館 入る
地産地消の拠点となる「ハマッ子直売所四季菜館」

「共生社会の実現」を目指して

石田:「JA横浜10年ビジョン」の趣旨はよく分かりました。それをどのような態勢で進めていくのかお聞かせ下さい。

柳下:JA内部では、事業戦略、人事戦略、店舗戦略をセットにした「JA横浜の経営戦略」として役職員の周知徹底を図っています。人事戦略では“適所適材”のジョブ型雇用を目指しますが、事業戦略は人事と結び付けて考える必要があることから「経営企画部門」と「人事部門」がより密接に連携した事業運営を進めていきます。また、「経営企画本部」を新設し事業計画を統括する部署として機能を強化していきます。
 さらに金融部、融資部、共済部、資金部を統合し、事業推進部署と業務部署に再編しました。これに伴い、支店においても業務係(金融)、業務係(共済)、融資相談係、総務係の職制を廃して「総合窓口係」に一本化しています。50支店体制(30総合支店・20子店)は維持しますが、融資相談担当者を集約するとともに子店の副支店長職を廃します。同時に、組織強化・相談エキスパート職として「組合員コンシェルジュ」を地区単位に配置し、正組合員との関係強化に努めます。
 一方、事業戦略は単年度の事業計画を策定していくなかで、各部門で詳細設計を行うこととしています。とくに営農経済部門ではすでに述べたような「横浜農業の振興」を図るとともに、「共生社会の実現」を目指して農福連携などのSDGs関連施策に取り組んでいきます。

石田:「共生社会の実現」に当たって青壮年部、女性部の果たす役割は大きいと思います。どんな状況でしょうか。

柳下:JA横浜の青壮年部、女性部のメンバー数はともに県内一の規模を誇り、活発に活動しています。
 青壮年部の特徴は、勤め人の私も青壮年部員だったのですが、「農業後継者」の組織というわけではありません。「農家後継者」の組織に近いのですが、一部の地域を除いて農家以外の子弟でも入れます。極端に言うと、組合員の子弟でなくても農協の事業や青壮年部の活動に賛同する人ならば、誰でも入れます。

石田:それは素晴らしい。

柳下:そういう組織なので、例えば、台風とかで園芸ハウスが壊れた場合は災害ボランティアとして手伝いに駆けつけます。私もそうでしたが、皆、スコップやヘルメットを持っています。特徴的な活動としては、新型コロナの関連で厚生連病院の医療従事者へ農産物を提供しましたし、横浜農業の理解促進のために新市庁舎での農産物直売や市会議員との意見交換を定期的に行っています。地元選出の菅内閣の時には、農政学習部会のメンバーが国会・首相官邸・内閣府を訪問しました。メンバーの情報共有にはNTTのコミュニケーションツール「エルガナ」や「フェイスブック」を使うほかに、年数回ですがカラー刷り機関紙「Face」を発行しています。
 女性部でも同様に「エルガナ」を使っていますし、カラー刷り機関紙「かがやき」を年数回発行しています。発行部数は1万5000部を数え、女性部員だけではなく、支店運営委員会を通じて傘下の組合員組織の方々にも配布しています。SDGs関連では、2009年度から横浜市の「ハマロード・サポーター制度」に登録し、女性部が寄贈したJR桜木町駅前広場のケヤキ周辺の清掃を各支部年1回(全30支部)行っています。このほかに、ペットボトル等のキャップを回収し発展途上国向けのワクチンに換えるエコキャップ運動や、フードバンクかながわへの募金活動なども実施しています。現在はコロナ禍で中止していますが、例年、パシフィコ横浜大ホールで「女性部大会・家の光大会」を盛大に開催しています。

写真 女性部(フードドライブ)入る
コロナ禍、女性部はフードバンクの支援活動に協力

JA横浜の食農教育

JA横浜は、2009年度から、食農教育の推進・拡大のために「食農教育マイスター制度」を設けて活動している。通常の食農教育と違うところは、マイスター活動の担い手が組合員の有志であるということ。地域の組合員が、地域の子供たちのために行う活動なので、JAらしい教育機会の提供といってよいだろう。

このマイスター制度の活動では、登録されたマイスターに対して、JA横浜が活動経費(謝金・資材費)を助成している。総額は年間およそ400万円という。

2020年度末現在、登録マイスター数は216名で前年度よりも10名増えたが、新型コロナの影響により申請人数は54名、申請件数は228件に留まり、人数、件数ともに3分の2に減少したとされる。早期の回復を願っている。

マイスター同士が事例研究を行う「マイスター交流会」の記録をみると、子供たちだけではなくマイスターたちの笑顔がすばらしいことに気づいた。

囲み内に写真 食農教育(マイスター活動)入る

(取材日/2022年3月14、15日)

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