【提言】持続可能な地域が求めるJAの文化活動木村 務 長崎県立大学 学長

木村 務 長崎県立大学 学長

木村 務 長崎県立大学 学長

きむら・つとむ/1949年生まれ。1978年九州大学大学院博士課程単位取得満期退学、博士(農学)。西九州大学講師・助教授・教授を経て、2001年長崎県立大学経済学部教授、2005年から13年まで同副学長、2015年同名誉教授。2019年から現職。専門は農業経済論と協同組合論で、共著に『産地再編が示唆するもの』(日本農業経営年報No.10、農林統計協会、2016年)など。2014年から18年まで家の光文化賞審査委員を務めた。

JAの文化事業は「参加者に夢や希望を与え、やる気を促す」。確かに、生活文化活動を担った女性組合員は自ら成長しJA改革の担い手となった。今や多様な属性の組合員が文化事業を享受する時代が到来している。

文化的ニーズを満たすことの重要性

2年半続いたコロナ禍のもと、大学は、スポーツ・文化のサークル活動などの学生の自主的活動を禁止し、授業はすべてオンラインとしました。しかし、自宅やアパートの中で過ごす日々が続き、中には不安や無気力を訴えるなど、最も活発な青年期に覇気がなくなっていく学生の姿を目の当たりにし、大学運営の責任者として胸が痛みました。そして学生の自主的活動は、苦しい学業に耐えるための息抜きや気分転換の手段ではなく、青年期の人生そのものであり、学業と並列し一体化したものだとの認識に至りました。

同様に、総合農協においては販売・信用・共済・利用等の事業が相乗し合って結果的に農業者の所得増大をもたらすのであり、ICAの協同組合の定義にいう「共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願望を満たす」ことにおいて、経済・社会・文化に事業上の軽重や序列はないということに思いが及びました。

文化的なニーズを事業に取り入れた農協運動としては、高品質の農産物加工品やレストランなど多様なJA事業を展開している大分県の大分大山町農協が有名です。当農協は、1960年代、貧しかった農家に、「梅・栗を植えてハワイに行こう」と呼びかけ、果実栽培による所得確保に取り組みました。当時を振り返って矢羽田正豪組合長は「外国で初めての食べ物や料理を味わうだけでなく、有名な絵画や音楽の鑑賞などが、大きな刺激となり、参加者にとって大きなカルチャーショックでした。海外旅行は、梅・栗の種をまくだけでなく、知識の種もまき、参加者一人ひとりに夢や希望を与え、やる気を促すという、大きな果実をもたらしました。」(「特集:今こそ我らJAの出番」JAcom、JAの活動:2021持続可能な社会を目指して、2021年1月13日)と言われ、旅行費用は農協が貸し付けて準備したということです。初めに文化活動があったのです。

地域に夢や希望をもたらすために

JAの生活文化活動は、石田正昭編著『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』(家の光協会、2021年)において詳細に分析されているように、当初は女性部の班・集落組織を基盤に取り組まれ、集落変容のもとで目的別組織に進化し、さらに県単一農協が進む中で支店を単位とした協同活動が展開し、女性グループが担ってきました。

その内容の多くは文化活動ですが、女性自身が文化活動を享受し豊かな生活を築くということだけでなく、女性グループは、次世代育成や高齢者施設の慰問などの地域貢献活動や組合員組織の活性化などの役割を担い、さらに、高齢者介護事業や農産加工あるいは農産物直売所等のJA事業に進化してきました。こうした活動を経て多くの女性組合員がJA改革の担い手となってきました。一方、歌謡ショーや演芸などのエンターテインメントは文化事業としてではなく、組合員大会の余興や組合員結集の手段として実施されてきました。

JAは今や、質の高い生産・生活資材の供給をはじめ、高品質のJAブランド農産物、そして『家の光』誌もSDGs時代に対応した質の高いコンテンツを提供しています。加えて、女性だけでなく多様な属性の組合員や地域住民は、マスメディアやネットが供給する「文化」では満足できずJAに質の高い文化事業を求めていると思います。この事業は、矢羽田組合長が言われるように、地域に夢や希望をもたらし、JAは持続可能な地域の核となることでしょう。

公開日:2022/11/01 記事ジャンル: 配信月: タグ: / /

この記事をシェアする

twitter
facebook
line
ページトップへ