【JA実践事例紹介】 JAが発信する学び・活動の場の重要性(前編~静岡県JAみっかび)
JA組合員や地域住民が仲間と共に協同組合の特性や意義を学び、さまざまな生活文化活動を体験して交流することの意義は大きい。JAを拠点にした学びの場は、どのような可能性があるのか――。2回シリーズの1回目は、静岡県JAみっかびが実施する「フレッシュミズカレッジ」から、その可能性を探る。
小川理恵
一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 主席研究員
自主性を育む段階的な「学び」と、その先の展望を描くプログラムを
2021年秋に開催された「第29回JA全国大会」では、中長期を見通し、2022~2024年度の3年間に重点的に取り組む「5つの柱」の1つに「協同組合としての役割発揮を支える人づくり」が決議された。その具体的な方策では「組合員大学などを通じて、次世代のリーダー育成を実現させる」ことが掲げられている。JA全中の調べでは、2020年度現在で90のJAが組合員大学を設置しており、同決議を受けて、対象を地域住民に広げながら、今後さらに数を増やしていくものと思われる。
協同組合の目的を踏まえれば、所有者であり、利用者であり、運営者である組合員が、自ら協同組合の目的や意義を学ぶことは、協同意識の水準を高めるために必要不可欠である。さらに「この地域で心豊かに暮らしたい」という、老若男女を問わずすべての人々の願いを叶えるためには、地域の真ん中にいる協同組合が拠り所となって、組合員だけでなく、あらゆる地域住民が、よりよい地域づくりを目指して共に学び合うことが有効であり、協同組合が学びの場を設けることの意義は大きい。
一方で、組合員や地域住民の立場で考えると、上から目線の押し付けやレベル感を無視した「教育」に終始すれば、その効果は限定的となる。夏休みの宿題で、ドリルは退屈で長続きしなかったが、セミの抜け殻を集める自由研究には没頭したといった思い出がないだろうか。自ら取り組む学びは楽しい。楽しければもっと知りたいと思うし、知ったことを役立てたいという気持ちが芽生える。
肝心なのは、自主性を育むような段階を踏んだ学びの場の提供と、一時の学びで終わらぬようその先の展望を描くことである。学びをさらなる深化の「きっかけづくり」ととらえて、点ではなく面でプログラムすることが望まれる。
卒業後のグループ化を視野に入れた学びの場づくり~JAみっかび「フレッシュミズカレッジ」
静岡県JAみっかびでは、JAが未来を切り開くためには、①若い世代のJA運動への参加・参画、②女性パワーの活用、③地域住民・消費者の応援、の3つが欠かせないとして、すべてのキーワードが交錯する「若い地域女性」をターゲットとした「フレッシュミズカレッジ」(以降、フレミズカレッジと表記)を、2014年度にスタートさせた。
フレッシュミズカレッジ募集チラシ[PDF]フレミズカレッジは、組合員やその家族だけでなく、三ヶ日町に暮らす43歳までの女性であれば誰でも参加できる。1期2年で、毎期20人前後が定員であるが、現在2年目となる第4期は、コロナ禍のため若干少なめの16人が受講している。筆者が取材におじゃました、5月19日の「フルーツサンド作り」には11人の女性が集まり、会場のJA調理室は、終始元気な笑い声に包まれていた。
フレミズカレッジの特徴は、受講生たちが、学びを通じて仲間づくりを進めながらJAや農業への理解を深め、さらにその結びつきを一時的なものに終わらせることなく、新たにフレミズグループを立ち上げ活動を深めていることである。そうしたプロセスが実現しているのは、JA事務局だけでなくJA女性部が、学びを活動へと展開させる仕掛けづくりを行っているからである。
まず1つ目が、カリキュラムの工夫である。受講者には、農家の女性だけでなく、普段JAや農業と関わりのない一般女性も多い。そのため講座は、若いお母さんなら誰もが興味を持つ、料理やお菓子作りなどを中心に組み立てられている。しかしそのなかにも、「三ヶ日みかん」や「みっかび牛」などを材料に取り入れて地場産の農畜産物への理解を高めたり、講座の前にみかんの選果場見学を組み込み、材料のみかんがどのようにして集出荷され、食卓に並ぶのかを実際に見てからお菓子づくりに取りかかったりするなど、JAや農業を身近に感じてもらうためのエッセンスが散りばめられている。こうしたアイデアは、非農家だけでなく農家の女性からも好評で、受講生のなかには「わが家のみかんがこのように選果されることを初めて知り、嬉しくなりました」と話す女性もいた。
2つ目が、仲間の輪を広げる仕組みである。フレミズカレッジでは、同じ地区の者同士でかたまることなく、毎回違うメンバーがチームになるよう、事前に事務局がグループ分けを行っている。地域を越えた人間関係を学びの段階で結ぶことで「全員が同じ講座の仲間」という意識が高まり、その後のフレミズグループ立ち上げの道筋をつくっている。加えて、2期連続の受講を認めていないことも、副次的にグループ化を促している。ある非農家の女性は「フレミズカレッジに参加しなければ知り合うことのなかった、農家や隣の地区の女性と仲良くなることができました。毎回誰と知り合えるのかが楽しみです」と話し、今日初めて組んだメンバーと、早くも「子育て悩み相談会」と称したおしゃべりに花を咲かせていた。
3つ目が、積極的な発信である。フレミズカレッジには毎回JAの広報担当者が取材に訪れ、広報誌『くみあいだより』などで講義の様子を詳細に紹介している。じつはJAの広報誌で、フレミズカレッジの存在を知り、受講を決めた農家の女性も多い。「これまでは家に届く『くみあいだより』を手に取ることはありませんでしたが、自分たちの活動が載るのが楽しみで、今では毎号必ず読んでいます。他のページにも目を通し、フレミズカレッジ以外の活動のことも知るようになりました」。こう話すみかん農家の女性は、『くみあいだより』でJAまつりにおける販売活動を知り、参加を決めたそうだ。
JA事務局による仕掛けづくりに加えて、JA女性部がフレミズ世代の学びと仲間づくりを全面的にバックアップしていることも特筆すべき点だ。じつはこのことが、新たなフレミズグループの誕生や、フレミズ世代と女性部とのつながりづくりに大きく貢献している。それが4つ目である。
フレミズカレッジの受講生には、子育て真っただ中の若いお母さんが多い。そこで、お母さんたちに講座に集中してもらおうと、JA女性部の有志が託児ボランティア「はっぴいまむ」を立ち上げ、フレミズカレッジの開催中、就園前の幼児を預かっている。
「はっぴいまむでは、“子どもを預かることは命を預かること”という高い意識を持ち、浜松市の託児支援センターから講師を招いて本格的な託児講座を実施しています。預かるところから返すところまで、プロセスを追って徹底して学び、それをマイナーチェンジしながら、はっぴいまむならではの“託児ボランティア”の形を組み立てました」(はっぴいまむ代表・女性部前部長の渡邊とも江さん)。
託児講座でしっかり学んだメンバーのみが、ボランティアに参加することができる。託児を行う場合は、子どもの数+1名のボランティアメンバーが必ず現場に入り、不測の事態に備えている。講座が終わり子どもをお母さんに返すときには、託児中のお子さんの様子をお母さんに詳しく報告するほか、連絡ノートを作り、グループ内でも情報を共有している。フレミズ世代を応援する過程において、JA女性部のなかでも、学びと活動のよいスパイラルが発生しているといえる。
こうして、JAとJA女性部が、若い女性の学びと仲間づくりを後押しした結果、フレミズカレッジの受講生に「この仲間で活動していきたい」という自主的な意思が生まれた。そして第1期・第2期のフレミズカレッジ卒業生からは「みかんちゃん」(参加者11人)、第3期からは「サン3オレンジ」(参加者11人)という2つのフレミズグループが立ち上がったのである。「みかんちゃん」では、マスクづくりやJAまつりでの加工品の販売のほか、近隣小学校における、さつまいも栽培や大豆栽培からの豆腐づくりといった食農教育など、積極的な活動を展開している。
JAみっかびで女性部事務局を務める総務部組織広報課の若松沙矢佳さんは「フレミズカレッジで一緒に学ぶなかで仲間意識が高まり、このつながりを2年間で終わらせたくない、という声が受講生から挙がりました。JA女性部による託児ボランティアも、若い世代の仲間づくりを促しました」と話す。JA女性部は、託児ボランティアの経験から、JAまつりにおける授乳室の設置をJAに呼びかけて実現させるなど、若い女性が学びや活動に参加しやすい環境づくりに力を入れている。そうした姿勢が、フレミズ世代とJA女性部との信頼関係を強固にし、その結果としてフレミズメンバーがJA女性部にも加入して、各支部における班長を担うなど、フレミズとJA女性部との連携もスムーズだ。フレミズカレッジ第4期においても、新たにフレミズグループを立ち上げることとして、着々と準備が進められているということだ。
女性の「学び」はJAと地域の元気の源
彩り豊かなJAみっかび「ふれあい講座」[PDF]JAみっかびでは、この他にも彩り豊かな女性の学びの機会を設けている。全JA女性部員を対象とした「女性部カレッジ」は、やる気のある女性が様々なことに挑戦し、学びを通して楽しくステップアップしていく、リーダー養成のための講座である。60歳以上の女性限定の「キラキラ俱楽部」は、楽しく学びながら仲間づくりを行うグループだ。その他、先に紹介した「託児ボランティア」や「読み聞かせサークル」などの福祉活動、料理教室や食農活動、アレンジフラワーやパッチワークといった趣味の活動など、様々な年齢の女性が、それぞれの目的に応じて学びながら活動できる「ふれあい講座」は26を数える。
今や「女性が元気なところは地域も元気」は、誰も否定しない事実になったといっていい。女性の段階的な学びを促すことは、そのままJAと地域の力になる。トップがそうした理念を持ち、実践することが望まれる。
※後編(8月配信)では、長野県JAあづみの取り組みを紹介します。