【トップ対談22】組合員・地域とともに(下)ゲスト/大坪輝夫 (宮城県 JA新みやぎ 代表理事組合長)

第22回ゲスト

大坪輝夫
宮城県 JA新みやぎ 代表理事組合長

インタビューとまとめ

石田正昭
三重大学 特任教授
京都大学 学術情報メディアセンター研究員

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JA新みやぎ(新みやぎ農業協同組合)〈下〉

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“共創”のJAづくり

営農と生活は車の両輪。この両輪の連動することがJA運動を正しい方向へ導く。JA運動の基礎は教育文化活動にあって、JA新みやぎに結集した5JAはその認識を共有していた。今回は家の光文化賞農協懇話会の会長としての考えを語ってもらった。

耕作放棄地を出してはいけない

石田:農業振興の柱は、米以外に考えられません。

大坪:おっしゃるとおり農業振興の柱は米です。JA全体で農地面積は約3万7000町歩、米集荷量は約6万トン。これらはちょうど宮城県全体の3分の1強を占めており、一大産地です。
 しかし、農業振興全体を考えると、米だけに頼ることはできません。米単作地帯だからこそ、米以外の畜産、園芸品目の振興を図ることが大切です。
 水田のフル活用という観点から、土地利用型の麦・大豆、飼料用トウモロコシの振興に取り組んでいますが、同時に、集約型の施設園芸を積極的にとり入れ、金額も面積もともに伸ばしていかなければなりません。

石田:「新みやぎブランド」の確立が急務です。品目構成はどうなっていますか。

大坪:基幹品目は「みやぎ米」と「仙台牛」。それを取り囲む周辺品目はいっぱいあって、地区ごとに異なります。代表的なものをあげれば、みどりの地区は「仙台小ねぎ」「みず菜」、栗っこ地区は「キュウリ」「ズッキーニ」、南三陸地区は「イチゴ」「春告げ野菜」、あさひな地区は「シイタケ」「曲がりネギ」、いわでやま地区は「セリ」「ナス」などです。
 残念ながら、そのいずれも先導的な農家が面積や金額を増やす段階に留まっています。「新みやぎブランド」というJAブランド名で、より多くの生産者を組織化し、面積を増やしていかなければなりません。そうしたなか地区横断的な振興作物として「ピーマン」を位置づけ、生産者の拡大を図っているところです。

石田:周知徹底が重要です。

大坪:そのとおりです。各地区の営農担当者が具体的な目標なり数字を掲げて、集落座談会等でていねいに説明することが重要です。「何アール・何万円を目標に頑張りましょう」「栽培指導や集荷、それにパッキングはJAが責任をもって行います」「この地区では何戸の生産者を確保したいと思います」などと明確なメッセージを伝えなければいけません。営農担当者の仕事のやり方をみていると、普及や指導において、基幹品目と周辺品目の区別ができていないように感じます。
 もう一つ重要なことは、農地面積3万7000町歩のなかで、とくに山間地において、これ以上耕作放棄地を出してはいけないということです。そういう心構えで組合員に接することが重要です。農業委員会も「人・農地プラン」の実質化に取り組んでいますし、中山間地域等直接支払でも2030年度を目標年度とする「集落戦略」を策定しようとしています。こうした行政の動きにJAも歩調を合わせる必要があります。

石田:行政だけでは、いまや手が回らなくなっています。

大坪:そのとおりです。行政の仕事、農業委員会の仕事、といっている場合ではありません。JA、土地改良区も加わって歯止めをかけなければいけない。せっかく恵まれた農地を受け継ぎながら、荒れるに任せるのは許されません。ご先祖様にも将来世代にも申し訳が立たない。JAは集落にもっと接近する必要があります。

昨年10月に開催されたJA全国大会で意見表明をする大坪組合長
昨年10月に開催されたJA全国大会で意見表明をする大坪組合長

組合員参加の方法を改める

石田:集落はJAの「基礎組織」です。しかし、そこがだいぶ痛んでいる。

大坪:JA新みやぎの総代は600人。端的にいうと、行政区から一人選ばれるか、選ばれないかという状況です。総代会や総代説明会に出席しても、その議論の内容を集落にフィードバックする力を失いつつあります。
 加えて、コロナ禍のため書面議決が続いています。本来ならば一堂に会し、丁々発止のやり取りを期待するのですが、それができていない。総代会は、ともすれば揚げ足取りの意見が出たり、ネガティブな議論に振り回されたりするのですが、以前がそうであったように、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を巻き起こしていかなければなりません。

石田:議論を活発にするには、女性部や青年部の代表を加えることが必要です。

大坪:そうです。役員のためのJAでもないし、職員のためのJAでもありません。組合員が主役のJAですから、よくするのも、そうでなくするのも組合員次第です。組合員を代表するのが総代や理事の役割ですから、多様な組合員組織から候補者を出すようにしたいと思います。

石田:組合員活動という点では、各地区で特色のある活動を行っていますね。

大坪:コロナ禍で大幅に活動が制限されていますが、特色のある活動を行うという点では以前と何ら変わりません。
 例えば、女性部でいうと、みどりの地区では子育てママを対象とした「PIKAPIKAママくらぶ」を続けていますし、栗っこ地区では「か・き・く・け・こ」活動と称して、(か)活性化、(き)共同参画、(く)くらしと環境、(け)健康、(こ)高齢者・子ども、の活動を続けています。また、あさひな地区では、従来の全戸参加型の生活部会を解消し、メンバー数は変わらずに、新たに女性部を立ち上げました。

石田:あさひな地区も女性部を立ち上げたというわけですね。

大坪:そうです。各地区の女性部活動は地域性なり地域の独自色をもっています。そうした特色ある各地区の女性部が、JA新みやぎのもとで一つになったわけですから、役職員も、組合員も貪欲になって他地区の特色をとり入れていってもらいたいと思います。
 あの地区ではこういう特色のある活動をしている。じゃあそれを見習おうとか、現場を見に行こうとか、資料を取り寄せようとかのアクションを起こしてもらいたい。そういう活気や熱意が出ることを期待しています。なかなか思いどおりにはいきませんが、立ち止まってはいけないと職員にはつねづね伝えています。

石田:自主性、主体性をもって活動する組合員を一人でも多く育てる。これが職員の役割です。組合員とふつうに会話できるだけでは十分ではありません。自ら考え、行動する組合員を育てる。このことを可能にするような職員になることが必要です。

大坪:他地区の活動を貪欲に吸収せよといいましたが、「あの地区だからできた。でも、この地区では無理」というような議論が見受けられます。しかしこれは言い逃れにすぎません。

コロナ禍で女性部は花を贈る運動を展開(写真は築館警察署)
コロナ禍で女性部は花を贈る運動を展開(写真は築館警察署)

営農と生活は車の両輪

石田:私が編者の『JA女性組織の未来』(家の光協会刊)では、女性組織メンバーの意識・行動にかかるアンケート調査を行いました。そこで明らかになったことは、女性組織のなかにもコアのメンバーと、そうではないマスのメンバーがいるということでした。その比率は、コアが2割、マスが8割。2割のコアが、8割の活動を担っています。

大坪:販売農家2割で8割の事業量を占めるとよくいいますね。

石田:そうです、それです。「二八の法則」といいます。

大坪:それは厳然たる事実です。この事実をふまえれば、組合員を通り一遍に、平等に扱ってはいけないということになります。平等性も大切ですが、全部の声を聞こうとしているうちに、ともすればコアからの大切な声を聞き逃してしまうことになります。
 先ほどの「言い逃れ」も、そのあたりに原因があると思います。これまでやってきた事業のやり方や呼びかけの方法をとっていれば、いちばん無難でいいわけです。しかし、その帰結は「組合員がそういうから、今回は改革しない」ということになりかねない。そういうことを繰り返しているうちに、その裏側では静かに「組合員のJA離れ」が起こっている。気がついたら、取り返しのつかないことになっている。これは本当に怖いことです。
 私は今期で任期満了となりますが、組合員の声を聞くにしてもメリハリをつけなければいけない、そのことを次の役員たちにしっかり伝えたいと思います。

石田:現在、家の光文化賞農協懇話会の会長をお務めです。JA運動の基礎は教育文化活動にあって、その成果を顕彰するのが家の光文化賞です。農協懇話会なり、家の光協会について、どのようなご感想をおもちでしょうか。

大坪:全国には地域に根ざした特色のある生活文化活動に取り組んでいるJAがいっぱいあります。農協懇話会としても、毎年、毎年、たいへん新鮮な気持ちで新しい受賞JAをお迎えしています。JAのためにも、また私自身のためにも、自らを高められる、すばらしい機会を与えていただき、深く感謝しております。
 農協懇話会の活動は、後輩の皆さんに続けていってもらいたいと思います。農協は営農経済、これに光が当たりがちですが、決してそうではありません。教育文化活動なり、生活に根ざした活動と連動させながら、車の両輪としなければなりません。片方だけが回っても車は変な方向へ曲がってしまいますので、二つを一緒に回してもらいたい。

石田:JA新みやぎは、志波姫(しわひめ)村(第15回)、小牛田町(第27回)、鹿島台町(第42回)、みどりの(第49回)、あさひな(第50回)、栗っこ(第53回)と、家の光文化賞を6回受賞された経験をおもちです。この点からも教育文化活動をJA運動の中心に据えられていることが分かります。

大坪:よいところは貪欲に吸収しようという旧5JAの認識がそうさせました。そんな背景があって受賞経験のある福岡県のJA筑前あさくら、愛媛県のJAえひめ南、岩手県のJAいわて中央と2020年11月に姉妹提携を結びました。かつてJA栗っことJAあさひなが独自に行っていた姉妹提携を、JA新みやぎが引き継いだ形になります。災害や不測の事態が起きた時の助け合いや、相互交流の促進をめざしています。

石田:合併を契機に姉妹提携の輪が広がった形ですね。より一層の深化と拡大を期待します。役職員だけではなく、組合員組織や特産品の交流も積極的に進めていただきたいと思います。

(終)

女性部連絡協議会と常勤役員との懇談会
女性部連絡協議会と常勤役員との懇談会

(取材/令和4年3月7日)

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コラム

コアとマス

「二八の法則」は経営学、経済学の用語である。「パレートの法則」とも呼ばれ、例えば上位2割の顧客によって、売上の8割が占められるような現象をいう。物理学でいう法則ではなく、経験則に近いものである。
 上位2割をコア、それ以外の8割をマスと呼ぶ。本対談では、女性組織のメンバーにもコアとマスのいることが話題となった。女性組織活動を例にとると、子ども食堂の企画・運営を行うコアと、そこに食材を提供するマスがいる、ということになる。
「二八の法則」のもとで多数決ルールや全員一致ルールを適用すると、アクティブな企画は採択されない。仮に少数の2割であってもやる気のあるメンバーがいれば、その企画を実行するような組合員組織になってほしいと思う。

公開日:2022/06/01 記事ジャンル: 配信月: タグ: / / /

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