【JA実践事例紹介】東京都JA東京むさし
職員の努力と創意を見える化する
ベストパフォーマンス表彰
JA東京むさしでは、指導経済部の職員を対象として、「ベストパフォーマンス表彰」と名付けた表彰に取り組んでいる。それは、数値では必ずしも表せない優れた取り組み、そしてそこに関わる職員の隠れた努力を表彰しようとするものである。
西井 賢悟
一般社団法人 日本協同組合連携機構 基礎研究部 主任研究員
「買って応援」で友好JAとの絆を深める
2021年度の最優秀賞を受賞したのは、本店指導経済部指導課の宇田川あき子さん。受賞テーマは、「『友好JA商品♡買って応援!キャンペーン』の実施」である。
同JAの女性組織は、東日本大震災以来、岩手県JAいわて花巻と宮城県JA仙台、さらに石川県JA小松市の女性組織と交流活動を続けてきた。2年に1度、いずれかのJAで一堂に会し、多くの思い出をつくり出してきた。宇田川さんは女性部とフレッシュミズ部会の本部事務局を担当しており、この交流活動を含め、JA女性組織の活動を支え続けてきた。
しかしコロナ禍で対面形式の活動は難しくなり、女性組織の活動はほぼストップした。2021年度は2年に1度の交流活動の年であったが、開催は見送られることとなり、多くの女性組織メンバーからは落胆の声が聞かれた。
こうした状況に際し、宇田川さんが提案したのが前述のキャンペーンであった。同キャンペーンは、友好JAそれぞれの地元農産物を使ったこだわりの加工品などを「買って応援」し、相手を思う気持ちを伝えることや、絆の再確認を企図したものである。
企画・実施に当たっては、本部女性部役員会等を通じて内容を検討し、女性組織の地区事務局職員等と連携して対応した。「買って応援」する商品の選定に苦労したが、友好JAの女性組織担当者と相談しながら決めていった。
女性組織役員等との協議を十分重ねて企画を練り上げたものの、実際にこのキャンペーンが女性組織メンバーにどれだけ支持されるかは不安であった。しかし蓋を開けてみれば、女性部として目標とした購入者数100人、購入金額100万円に対し、実績では112人、169万円、またフレミズ部会として目標とした購入金額20万円に対し、実績では35万円となり、それぞれ目標を上回った。
事務局に対しては、同JAの女性組織メンバーから「友好JAに行った気分になれた」「楽しい企画をありがとう」など多くの喜びの声が届いたそうである。宇田川さんは「女性組織同士の絆を深めることに役立つことができて嬉しい」と話してくれた。
ベストパフォーマンス表彰の目指すもの
JA東京むさしは、三鷹市・小平市・国分寺市・小金井市・武蔵野市の5市を管轄エリアとする。2020年度末における組合員数は28,387人で、その内訳は正組合員3,071人、准組合員25,316人となっている。
管内は東京23区のすぐ西に位置する人口密集地帯である。しかしその中でも、ウド、ナシ、ブルーベリー、キウイフルーツ、鶏卵、植木などの多様な農業を展開している。同JAでは地産地消に力を入れており、管内の5市それぞれに直売所を設置している。学校給食の取り組みも活発で、例えば小平市においては、学校給食で使用する農産物の地場産導入率が30%以上となっている。
こうした都市農業の展開を支えているのが指導経済部である。同部が担っているのは営農指導事業と販売事業、そして生産資材を中心とする購買事業であり、同部の職員数は154人(うち正職員は79人)、本店配属者と5つの地区配属者(5市それぞれの基幹支店や直売所など)がおよそ半数ずつとなっている。
さて、同JAでは地域農業振興の取り組みを一層強化するため、新たな人材育成策を模索していた。その中で、2020年度から導入したのがベストパフォーマンス表彰である。
周知の通り、信用・共済部門に比べて営農経済部門の実績は数値評価が難しい。その一方で、営農経済部門に対する組合員の期待は高く、同部門の多くの職員は、農家や組合員組織、地域のさまざまな主体に対して日々献身的に対応している。また、それぞれから求められるものは決して同じではなく、業務遂行の多くの場面で創意工夫を発揮している。
ベストパフォーマンス表彰は、これまで評価の俎上(そじょう)にあがることのなかった職員の地道な努力や創意に目を向け、それを表彰することによって後押ししようとするものである。同時に、コンテスト形式を採用することによって見える化し、横展開を促進することも狙いとしている。モチベーションアップと優れた取り組みの共有化、そしてこれらに基づく人材育成、それが同表彰のめざすものなのである。
応募と表彰の仕組み
2020年度からスタートしたベストパフォーマンス表彰は、前述の指導経済部の職員が対象で、「指導経済事業に対して貢献した行動をとったと自負する職員」が、その取り組み内容を自ら応募する形式をとっている。何をもって「貢献した」とするかの基準は設けておらず、職員個々の判断に委ねている。
表1がエントリーシートであるが、記入内容は目的、取り組み内容、効果・成果といった大枠だけであり、全て別紙での提出も可能にしている。こうした自由度の高い形にしているのは、応募しやすくすることを通じて、これまで組織の中で埋もれてきた優れた取り組みをできるだけ広く把握するためである。なお、実際の取り組みは複数の職員で対応している場合も多いことから、個人だけでなくグループでの応募も可能としている。
表1 令和3年度ベストパフォーマンス表彰エントリーシート[PDF]同表彰の事務局は、本店指導経済部指導課が務めている。募集に当たっては、地域振興事業本部長・指導経済部長・指導課長等の出席の下、5地区それぞれで四半期ごとに指導経済担当職員を集めて開催する地区報告会などを通じて応募を呼びかけている。また、募集の締切が近づくと、本店で開催する指導経済担当部課長会議等を通じて、それぞれの部署において応募を働きかけるよう促している。
審査は1次審査と2次審査の2段階となっている。1次審査は書類審査で、上位3名を選んでいる。審査員は同JAの総合企画部長と指導経済部長、そしてJA東京中央会、JA全農東京都本部、家の光協会から各1名の計5名である。それぞれの応募を10点満点で評価し、審査員合計の点数が高かった上位3名を選んでいる。
2次審査はプレゼン審査で、1次審査を突破した3名が10分を持ち時間として発表をおこなっている。審査員は、同JAの 事業本部長、金融共済部・企画推進課長、同・共済課長、支店の金融共済課・課長代理(1名)と、JA東京中央会1名を合わせた計5名である。金融共済部門の審査員を多くしているのは、指導経済部門自らでは気づかない視点から評価してもらうためであり、部門を越えた連携につなげていくことも意識している。
審査基準は、組合への貢献度30点、取り組み内容20点、取り組みのオリジナル性10点、発表態度30点、審査員特別評価10点の計100点となっており、審査員合計の点数が最も高かった1名を最優秀賞とし、他の2名を優秀賞としている。最優秀賞に選ばれた1名は、全職員研修の場において、他部門での各種の受賞者と同様に壇上で表彰されている。
応募の動向と応募の内容
さて、実際の応募状況であるが、2020年度(初年度)は23件、21年度(2年目)は28件でやや増加している。応募者は若い職員の場合が多く、中堅・ベテランからの応募はそれほどない。これは、本店からの呼びかけに応じて、各部署内では管理職や係長・主任等が応募の働きかけをおこなっており、自らの応募については控える傾向にあるためと考えられる。その一方で、同表彰の導入には「若手職員のアピールの場をつくりたい」という狙いもあり、この観点からすればうまくいっているといえる。
表2は、2021年度のエントリー内容の一覧を示したものである。その内容は、青壮年部や女性部の活性化、農産物のPR、学校給食への対応、購買事業の拡大、栽培技術指導、事務の効率化など実に多岐にわたる。各職員が日常業務の中で励んだ現状の改善や課題解決のための取り組みが、そのまま応募内容になっているといえるだろう。
表2 2021年度のエントリー内容[PDF]また、応募のスタイルは個人よりもグループのほうが多くなっている。前述の宇田川さんもグループでの応募であり、「各地区事務局の協力のおかげで成功したことを伝えたかったから応募した」と話してくれた。今後、同表彰がさらなる職員の連携強化、チームとしての取り組みの拡大に寄与することが期待される。
課題と展望
この取り組みを発案し、旗振り役を務めてきた窪田文一部長(指導経済部)と井上清課長(指導経済部指導課)は、応募を通じて現場で進められているさまざまな取り組みに触れ、職員に対して感謝の意を深めている。その一方で、まだまだ応募件数が少なく、「もっと自信を持って自分の取り組みをアピールしてほしい」と考えている。
また、今後の課題は応募内容の横展開を図ることであり、「現場への還元の旗振り役を務めたい」とも話してくれた。同JAのベストパフォーマンス表彰は、今後さらなる盛り上がりを見せ、同JAが地域農業や地域にもたらす価値を一層高めることとなるだろう。