【開催報告】第17回あぐりスクール全国サミット
9月9日にオンラインで開催された、第17回「あぐりスクール全国サミット」。今回は『「あぐりスクールのこれからを語ろう!」~コロナ禍でもできたこと、今後めざすこと~』をテーマにしました。全国の67JA・中央会から担当者ら約220名が参加しました。
主 催/あぐりスクール全国サミット実行委員会
事務局/一般社団法人 家の光協会
情勢報告①
第29回JA全国大会決議におけるJAくらしの活動と食農教育
JA全中 JA改革・組織基盤対策部くらし・高齢者対策課 課長
熊田 妙 氏
第29回JA全国大会では、柱の一つに組合員の拡大と「アクティブ・メンバーシップ」の確立を掲げており、この中であぐりスクールはJAくらしの活動による組織活性化に位置づけられます。
あぐりスクールでJAへの共感をはぐくむ
具体的には、JAまつりなどで地域の多様な人にJAを知ってもらい、あぐりスクールなどの特定・少数の活動に参加してもらって“JAっていいね”と共感してもらうことや、組合員にはスクールの先生役として、地域の食と農を伝えてもらい地域に還元することをめざしています。
また「連携強化による地域活性化」の中で、幅広い食農教育の展開をめざし、多様な組織と連携した食農教育で、次世代と農業、地域との接点を強化していきます。
コロナ禍を契機に食に対する興味が高まっています。今後も地域のみなさんとあぐりスクールに取り組んでいただきたいと思います。
情勢報告②
JAファンのすそ野を広げる あぐりスクール
家の光協会 常務理事
木下春雄
あぐりスクール登録JAは、2018年度をピークに減少しています。2020、2021年度のあぐりスクール開催報告数の減少は顕著ですが、開催JAからは、充分な感染対策の徹底と開催方法の見直し・工夫が報告されています。中止の際には収穫できなかった作物の畑をSNSで伝える、実施時は保護者にも参加してもらうなど、安全管理を進めたところもあります。防災やSDGs、食品ロスをテーマに活動をしたり、地元の高校生や女性組織、青年組織など地域住民も巻き込んだりしたイベントで、JAファンのすそ野を広げている点が特徴です。
あぐりスクールの継続発展へ
『家の光』では、国消国産の企画を展開。『地上』では青年部組織の食農教育活動を紹介しています。7月には単行本「小学生のお料理ブック」を発刊。『ちゃぐりん』では、食農だけではなく環境や生き物にも関心をもってもらう企画が満載です。動画と連動した企画も多数掲載し、あぐりスクールにも活用してもらっています。
テーマ解題
あぐりスクールのこれからを語ろう!~コロナ禍でもできたこと、今後めざすこと~
東京農業大学 副学長
上岡美保 氏
昨年度のあぐりスクール全国サミットでは、コロナ禍においてもデジタルを活用した事例など、食農教育継続の重要性を学びました。他方、コロナ禍の収束の兆しが見えない中で、世代交代やマンネリ化なども相まって、活動への意欲が減退するJAもあるかもしれません。
今年度の全国サミットでは「あぐりスクールのこれからを語ろう」をテーマに、取り組み事例からさらなる食農教育の継続と深化をめざします。
“五感で学ぶ”食農教育を継続する工夫を
事例発表の3JAの共通項は「THE 対面」です。
JA愛知東では、小学校の感染防止対策を基準に実施し、2022年度は募集人員を上回る78名の応募がありました。JAからつでは、親子での参加を条件に女性部が中心に活動し、2021年度は45名が参加。JAあいらでは、入組年月の若い職員の協力を得て開催し、他部署と連携しながら、実開催が難しいときは通信教育を導入しています。
食農教育におけるデジタルの活用なども進展していますが、実際に土に触れたり、地域の人々とふれあったりと、五感で学び、思いを共有する食農教育に勝るものはありません。今回は改めて、そんな思いを強くするのではないでしょうか。
実践報告①
こども農学校の取り組みについて~地域と連携。様々な工夫でコロナに負けないメニューづくり~
愛知県JA愛知東 総合企画部組合員課 課長
小山幸浩 氏
JA愛知東では、2005年度にあぐりスクール「こども農学校」を開校しました。小学3~6年生に年10回のプログラムを実施。地元の高校生や、青壮年部会や女性部員、保護者や組合員・地域住民など、多様な組織と協力しています。
“密”を避ける授業へ転換、デジタル活用も
以前は、1泊2日の修学旅行や収穫した野菜を売る「こども八百屋さん」などがとくに人気でしたが、コロナ禍で2020、2021年度はこれらの取り組みを中止に。授業を半日に短縮して、雨天は中止にするなど、継続に向けた対応を進めました。
一方で、新たに地元プロバスケットボールチームの元選手と田植えや稲刈りなどのコラボを実施したり、子どもが自分でお弁当を作り調理を通じて感謝の心や生きる力を身につける「弁当の日」を企画し、密を避けるために各家庭で調理をお願いしたりと工夫しました。
今年度から人気プログラムを復活させたほか、二次元コードでの申し込みを開始したところ、申し込み全体の3分の2の方が利用されました。参加者や関係者への連絡もSNSの活用に変更しました。
今後も次世代を担うこどもたちに「食」と「農」に対する理解を深めてもらいながら、将来就農したり、JAに入組し、職員となる人材を育てたりすることも見据え、次世代へつなげていけるように取り組んでいきます。
実践報告②
~保護者参加必須の訳は? 女性部主導のあぐりスクール~ あぐり親子スクール
佐賀県JAからつ 総務部総務課 課長代理 江里幸子 氏
JAからつでは2009年度より、親世代にも農業体験を通して農業への関心や食のたいせつさ、JAへの理解を深めてもらうため、管内の小学生と保護者がいっしょに参加する「あぐり親子スクール」を行っています。
女性部・青年部が連携した野菜の収穫や、バス旅行などを行ったほか、2019年度からは女性部がスクールの進行を担当しています
活動継続に力、SNSで情報発信も
コロナ禍を経験し、改めて食のたいせつさや地元の農畜産物のありがたさを感じました。こんなときだからこそ、農業体験を通じて、農業のたいせつさや収穫の喜び、また自ら調理しおいしく食べることで食のたいせつさを学んでいます。
コロナ禍の2020年度は人気のバス旅行は中止したものの、感染予防対策を徹底して時間を短縮しながら開校しました。
2021年度は、8月に管内で感染が拡大したため、リンゴ狩りが中止に。職員が収穫して子どもたちにリンゴを届けました。
あぐり親子スクール活動の様子は、毎回JA広報誌やFacebookで発信して、参加者はもちろん、地域に農業やJAのファンづくり、地産地消・食のたいせつさを広めていくために今後も継続していきます。若い親世代といっしょに子どもたちが学び、また次世代へとつながっていくことを願っています。
実践報告③
~集まれないときは通信教育。ピンチをチャンスに 歩みを止めない開催方法~ コロナ禍でのちゃぐりんスクール
鹿児島県JAあいら 総務部くらし広報課 課長
安留 孝 氏
2009年度から開始したJAあいらのちゃぐりんスクールは、小学3~6年生が対象です。コロナ禍で密を避けるため募集人数を30名から20名へと減らしました。
地元の高校や農家にも協力いただき、植え付けや育成、観察・収穫を実践。また、農産物を食べたり、Aコープ店舗に協力いただいて販売体験を行ったりしています。
通信教育で柔軟に対応、生産者と協力も
2020年は募集をかけたもののスクールは開催中止になり、このままで良いのか葛藤がありました。そこで、コロナが落ち着いたら収穫体験につなぐことを第一に考え、通信教育に切り替えました。
地元の高校にも協力いただき、撮影した動画をSNSで配信。また、各家庭でミニトマトの苗を観察してもらったり、特産品の霧島茶を自宅で楽しんでもらったりしながら、感想や写真をSNSに投稿してもらいコミュニケーションを図りました。
2021年度はサツマイモ基腐病の流行で収穫・販売体験ができなくなりましたが、2022年に県内で全国和牛能力共進会が開催されることもあり、PRを兼ねて鹿児島黒牛を育てる女性農業者グループ「姶♡LOVE(あいらぶ)和牛女子」に勉強会を依頼しました。
今年度は新たな取り組みとして、調理室と開催会場をライブ配信で中継しながら、郷土菓子作りを行いました。
パネルディスカッション
コーディネーター:東京農業大学 副学長 上岡美保 氏
パネリスト:愛知県JA愛知東 小山幸浩 氏
佐賀県JAからつ 江里幸子 氏
鹿児島県JAあいら 安留 孝 氏
家の光協会 常務理事 木下春雄
上岡 ウィズコロナでもふれあう場づくりを諦めないためには?
小山 アルコール消毒や検温を行い“三密”を避けるよう意識しています。
江里 調理実習では試食や食事は一切行わず、持ち帰ってもらいます。
安留 作業は広い場所を選定。以前は大型バスで移動していましたが、現在は現地集合・現地解散で開催しています。
上岡 マンネリ化しないプログラムの立案は?
小山 稲作などの活動は共通ですが、畑の作物を変えたり、『ちゃぐりん』や『家の光』を活用したりして内容を立案しています。アイスキャンディー作りなど、子どもが喜ぶ体験を取り入れました。
江里 当JAでも『家の光』や『ちゃぐりん』を活用しています。他のJAのプログラムで、まず自分がやってみたいと思うものも取り入れます。
安留 毎回親子にアンケートを書いてもらい、意見は可能なものからすぐに実践・改善しながら次につないでいます。
木下 JAの食農教育は現場のみなさんの熱意で支えられていると改めて感じました。今回の発表は、他のJAのみなさんにとっておおいに力になるでしょう。
まとめ講演
東京農業大学 副学長
上岡美保 氏
食と農の理解を深めるには対面が一番だと改めて感じました。一方で、対面の実施が困難なときは、デジタルなどを活用しながら代替案を準備することも必要でしょう。
今回の3JAの事例も参考に、①宿題や通信教育、②動画などの情報発信、③ウェブ会議システムなどを利用した双方向でのオンラインの活用、などを取り入れると良いですね。
活動の継続で地域の魅力を次世代につなぐ
大人がいっしょに取り組めない家庭では難しい面もありますが、①宿題や通信教育は、感染状況に応じて対応しやすく、②動画などの情報発信は、動きで伝えることができ、③双方向のオンライン活用は、即時的・相互にやり取りができるメリットがあります。受講者に合わせて活用してください。
感想や写真の共有、連絡などは、LINEやInstagramなどの誰でも使えるSNSの活用が効果的です。若手職員に活用を依頼すれば業務の自信にもつながるでしょう。
また、JA愛知東のように、申し込みに二次元コードを活用するのも良いでしょう。Google Formsなどを使えば、申込者が入力したデータが申し込み順にExcelへ記録されるため、担当者の労力削減にもなります。
発表された3JAでは多様な組織と連携していました。部署内外や地域の方と協力し、積極的な情報発信を行うことで様々なアイデアも生まれます。また、JA職員全体の食農教育への理解醸成にもつながるでしょう。
対面とデジタルを組み合わせた多様性は新たな発想やこれまでできなかったことを補う武器になり、これまで関わりの薄かった人を巻き込むきっかけにもなります。
次世代に地域の魅力をつなぐためには食農教育が不可欠です。ぜひ活動を継続してください。
公開日:2022/11/01 記事ジャンル:開催報告 配信月:2022年11月配信 タグ:あぐりスクール・ちゃぐりんフェスタ / コロナ禍の取組み / 食農教育