【JA実践事例紹介】多様化する組合員とのつながりづくり (後編~群馬県JA邑楽館林)岩﨑真之介一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 副主任研究員

岩﨑真之介
一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 副主任研究員

でんえんまる
でんえんまる

正組合員の世代交代や准組合員比率の上昇、女性組合員の増加、一部の農業経営体の大規模化と、その一方で進む農との関わりが薄れた組合員の増加。JAの組合員の多様化を表すキーワードは例に事欠かない。それぞれのJAが、多様化する組合員の実状を把握し(注)、それを踏まえた組合員との(あるいは組合員同士の)つながりづくりに取り組んでいく必要がある。 本シリーズでは、2回に分けて、組合員とのつながりづくりにかかるJAの実践事例を取り上げる。2回目の本稿では、農村的地域に位置する群馬県JA邑楽館林の取り組みを紹介する。

一大農業地帯における正准逆転

JA邑楽館林は、群馬県館林市と邑楽郡板倉町・明和町・千代田町・大泉町・邑楽町の1市5町をエリアとしている。同JAは、2009年3月に旧3JAの合併によって設立された。管内は関東平野に位置する農業地帯で、JAの販売事業取扱高は155億円に上る。なかでも米麦作と園芸が盛んで、生産量全国トップクラスのキュウリに、ニガウリ、ハクサイ、ナス、トマト、イチゴ、シュンギクを加えた7品目が野菜の主要品目と位置付けられている。

農業地帯である同JAでは、合併当時、正組合員が組合員数のおよそ3分の2を占めていた。だが、組合員加入を進めたことで准組合員数が増加し、2018年度に正准が逆転、2021年度末の組合員数は正組合員7,954人、准組合員が8,970人となっている。そうしたなかで、農業者の所得増大とともに、多様化した組合員との対話活動に取り組むことが課題となっていた。

営農意欲を尊重し多様な農業者を支援

農業者の所得増大に向けて、同JAは2014年に「新・農業ビジョン」を臨時総代会で決議し、農畜産物販売金額1,500万円以上の主業的な農家や新規就農者を中心に支援を行ってきた。支援に当たっては、営農指導員による農業者との対話を重視し、個別巡回指導や栽培講習会を精力的に実施した。取り組み開始以降、1,500万円以上の農家も増加傾向で推移した。

その一方で、販売金額1,500万円には届かないながらも、意欲的に営農を行う農業者は少なくなかったが、必ずしも十分に対応できているとはいえない状況であった。とりわけ営農資金面に関しては、大規模農家は国や県の補助事業を利用できるのに対し、そうした事業の対象となっていない農家も少なくなかった。

そこで同JAは、2021年度から、新しい農家支援策として「やる気ある農家支援事業」を開始した。

やる気ある農家支援事業 審査の様子
やる気ある農家支援事業 申請者との面接の様子

同事業は、その名の通り高い意欲を有する農家を対象とし、ハウスの建設費や農業機械の購入費などの一部をJAが助成するものであり、助成対象の選定において経営規模の大小は問われない。同年度は51戸の農家が同事業を利用し、総額970万円の助成金がJAから支払われている。利用者の中には、規模拡大や新しい農機具の購入を検討しながらも、なかなか踏み切れないでいた農家も多かった。同事業によって「背中を押してもらえた」という声がJAに寄せられるなど、かなり好評であったようである。同事業がなければ、近いうちに経営規模を縮小していた農家も少なくないものとみられ、JAでは助成を行った金額に十分に見合った効果が得られたと実感している。

やる気ある農家支援事業 募集案内[PDF]

また、同JAは園芸だけでなく米麦の生産も盛んであるが、同JAでは数十年前から今日まで、職員による米の庭先集荷を継続している。稲刈りの時期になると、男性職員は毎日のように米農家を訪問し、30kgの米袋を抱えて農家の倉庫とトラックとの間を何度も往復する。農家からすれば、労力的にありがたいのはもちろんのこと、自分たちが丹精込めて作った米を責任を持って引き取って販売してくれる、という頼もしさを感じるのではないだろうか。こうした米の庭先集荷を本格的に実施しているJAは、少なくとも県内ではかなり珍しいという。おそらくは全国的にもかなり限られるものとみられる。こうした取り組みからも、かねてより同JAが、組合員のもとへ出向き対話の機会を得る姿勢を大切にし続けてきたことが読み取れるだろう。

米の庭先集荷の様子
米の庭先集荷の様子

「組合員課」の新設によるつながりづくりの本格的展開

こうした農業振興の取り組みの一方で、同JAは今年3月に、「組合員に関する事項や広報活動に関する業務等を包括する専任部署」として「組合員課」を新設し、多様な組合員とのつながりづくりの取り組みを本格化させている。

同課は総務部に設置されており、正職員5人、パート職員1人が、各支所における組合員との対話活動やイベントの支援、広報活動などに従事している。支所再編にかかる対応についても、「組合員に向き合った再編整備を推進」するねらいから同課の業務として位置付けられている。

同課がまず取り組んだのは、各支所における組合員とのつながりづくりの取り組みを軌道に乗せるためのサポートであった。同JAでは、支所をつながりづくりの拠点とするため、組合員の参画により支所運営委員会を立ち上げることが構想されていたが、実行には移されていなかった。それが、今年度からすべての支所で立ち上げられることとなった。この支所運営委員会では、地区の農業組織や女性部、青年部から組合員が参画し、年2回、支所の事業・活動の報告や意見交換が行われている。

また、各支所では「1支所1イベント」として、田植え体験やマルシェ、フードドライブなどが実施されている。各支所は、どのような組合員を対象にどういったねらいでイベントを行うかを検討し、イベント開催の40日前までに組合員課へ企画を提出する。そのうえで、組合員課が各支所に対し、企画について助言を行っている。また、組合員課はあくまでサポートに徹し、次年度以降に各支所が自立的に実施していけるような体制を築くことを心掛けているという。こうした仕組みとすることで、組合員課に各支所のイベントの情報が集約され、優れたアイデアや取り組みのコツが横展開されやすくなるだろう。

このような支所のバックアップに加えて、組合員課自身も、組合員との対話活動を実践している。その一つが、2021年度から開始された准組合員モニター制度である。同制度は、准組合員との対話活動の中核をなすもので、2021年度は23人の准組合員をモニターとして委嘱し、アンケート調査や対面での意見交換会を行った。モニターは、広く公募を行ったほか、各支所で適任と考えられる准組合員1~2人ずつに個別に依頼した。アンケートは同JAの准組合員向け広報誌およびコミュニティ誌に関する内容で行われた。また意見交換会では活発に意見が出された。「JAの経営状況を知る機会が少ないと感じる」や、最近の投資への関心の高まりを反映し「投資信託についての相談に対応してほしい」といった意見が出された一方で、意外にも「若い農家を支援してほしい」といった農業に関する意見も多くみられた。准組合員モニターの農業への関心は予想以上に高く、担当職員も驚いたという。

准組合員モニターアンケート調査結果[PDF]

広報誌のブラッシュアップと進取性に富んだウェブ広報

組合員課が対話活動とともに力を入れるのが広報活動である。広報誌はそのメインツールであり、同課は組合員へのアンケート調査を実施し、広報誌の改善に役立ててきた。アンケート結果では、正組合員の半数が広報誌の営農情報を読んでいないと回答しており、正組合員においても農業との関わりに濃淡が生じていることがうかがわれた。そこで、くらしに関する内容、例えば旬の野菜を使った料理のレシピなどの充実を図るとともに、営農情報についても家庭菜園向けの豆知識など、ライトな内容を新たに掲載することとした。一方で、販売農家向けの専門性の高い営農情報についても、時期に合わせた内容とするなどブラッシュアップが図られた。

また、従来、広報誌の各世帯への配布は集落組織の役員に依頼していたが、役員にとっては負担が大きく、支所運営委員会やアンケート結果では配布方法の見直しの要望が多く寄せられた。そこで、配布を配送に切り替えることとし、これを機に広報誌を、正組合員向け広報誌(毎月)、准組合員向け広報誌(年2回)、コミュニティ誌(年2回)の3種類にリニューアルした。コミュニティ誌は、意欲的に営農に取り組む組合員への取材に基づく特集記事が最初の見開き2ページを飾っており、デザインもスタイリッシュで、思わず文章を目で追ってしまうものとなっている。また、次の2ページでは「SDGsについて考えよう!!」という特集が組まれ、イラストや写真中心のわかりやすい誌面のなかで、JAのフードドライブ活動などがさりげなくアピールされている。全8ページのコンパクトな冊子ながら、JAや農、食への興味をうまくひきつけうるものとなっていると感じられた。

組合員課では、各支所の支所だより発行の支援にも力を入れている。各支所から事前に原稿を提出してもらい、これに対しても都度助言を行っている。1支所1イベントへの支援と同じく、優れた実践の共有を促進しうる仕組みといえるだろう。

JA全体として力を入れている支所だより
JA全体として力を入れている支所だより

こうした紙媒体での広報活動に加えて、組合員課では多彩なメディアを駆使した広報活動にも取り組んでいる。例えば、地元ケーブルテレビでは、1日4回、「でんえんまる情報局」という15分番組を放送している。同番組では、ローカルアイドルとして高い知名度を有し、書道パフォーマンスが特徴的な女性アイドルグループ「Menkoiガールズ」が出演し、旬の農産物の話題や暮らしに役立つ情報などを発信している。同JAとMenkoiガールズとの協力関係は約10年続いており、2013年には同JA公認の派生ユニット「Menkoiガールズ・サラダ」も誕生している。

さらには、Menkoiガールズからの提案を受けて、3~4月にはライブ配信アプリ「SHOWROOM」で「JA邑楽館林 きゅうり王決定戦」と題したイベントも主催した。SHOWROOMは、アイドルやVチューバーをはじめとした配信者が映像をライブ配信するアプリで、チャット機能によるリアルタイムでの視聴者とのコミュニケーションが魅力の一つとなっている。イベント「きゅうり王決定戦」は、各配信者が自らJA邑楽館林やその農産物についてリサーチし、配信を通じて視聴者にJAの魅力を発信するという企画である。期間を通じて計24人の配信者が参加し、延べ11万人の視聴者が訪れるなど、イベントは大盛況となった。ちなみに、JAの魅力発信にもっとも貢献した配信者には、JAからキュウリ365本が贈呈された。

SHOWROOMで開催ニガウリ王決定戦
SHOWROOMで開催「ニガウリ王決定戦」

キュウリ王に続く企画として、「なす王決定戦」「ニガウリ王決定戦」も既に開催されている。筆者は、「ニガウリ王決定戦」で初めてSHOWROOMを利用し配信を視聴してみたが、チャット機能で配信者と視聴者とが双方向のやりとりを繰り返す、一体感を感じさせる配信が行われていた。筆者が視聴したある配信では、配信者が自宅のキッチンでニガウリを使った多彩な料理を調理しつつも、続々と寄せられる視聴者からのチャットメッセージを見落とさずそれぞれにコメントしており、その気配りに驚かされた。これだけの盛り上がりを見せる配信がJA(単協)主催のイベントとして行われており、またそのメインテーマがニガウリという野菜であるということからは、インターネットで配信される映像コンテンツにおける「JA」や「農業」という題材のポテンシャルが示唆されたように感じられた。「きゅうり王決定戦」の際には、配信者がコラボを行った飲食店からJAへ、野菜の取引の依頼があったという。それについては残念ながら商談成立とならなかったとのことだが、JAの広報活動や農産物のプロモーションの手法として、可能性を感じさせられるものであった。

おわりに

ここまで、JA邑楽館林の取り組みを紹介してきた。同JAは、多様な農業者への支援に取り組む一方で、組合員との対話活動や広報活動にも精力的に取り組んでいた。

同JAの取り組みの特徴の一つは、いうまでもなく組合員課を新設したことである。専任部署を設置することのインパクトは大きく、3月の設置以降、(同課が設置される前から継続されている取り組みも一部含まれるが)多彩な活動が実践されている。職務規定をみると、同課の担当業務は決して少なくはない。それでも、対話活動や広報活動の専任と位置付けられることによって、担当者は良い意味で「逃げられない」状況となり、そうした活動に多くのエネルギーが投入されやすくなるようである。これは、9月配信の拙稿で紹介したJA兵庫南の「ふれあい広報課」においても共通する点である。

もう一つの特徴は、組合員課の、特に広報活動における進取的な活動内容である。その典型は配信アプリSHOWROOMの活用で、特に若い世代への訴求力は相当に高いものであるだろう。一般論として、そうした、いわば挑戦的な取り組みの実施に当たっては、組織内部で慎重論が根強く実施に踏み切れないような事態も往々にして起こりうると考えられる。その点、JA邑楽館林においては、ローカルアイドルグループとのコラボの経験の蓄積があったことが、挑戦を後押ししたものと推測される。こうした同JAの広報活動は、今後、JAグループの一つのモデルケースとなっていくことも考えられよう。組合員との対話活動という協同組合の原点を大切にしながらも、進取の気性を併せ持つ同JAの今後の展開に注目したい。

注)組合員の多様化の実状については、下記の文献にて、JAに対する意識や、事業利用の状況、活動・組合員組織への参加状況などの切り口から、大ぐくりにグループ分けして把握する試みが行われており、参考になる。

参考文献
小林元『次のステージに向かうJA自己改革 短期的・長期的戦略で危機を乗り越える』P59、家の光協会、2017年
増田佳昭編著『つながり志向のJA経営 組合員政策のすすめ』西井賢悟「組合員の意識と行動―アクティブ・メンバーシップからの接近―」P44~71、家の光協会、2020年

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