【提言】福祉防災に向けて“顔の見える”関係づくり奥村奈津美 防災アナウンサー・環境省アンバサダー

奥村奈津美 防災アナウンサー・環境省アンバサダー

奥村奈津美

おくむら・なつみ/テレビやラジオなどの各種メディアに「おうち防災」の専門家として出演。東日本大震災以降、全国の被災地を訪れ、取材や支援ボランティアに力を入れる。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、防災住宅研究所 理事、東京都防災コーディネーターとして防災啓発活動に携わるとともに、環境省「森里川海プロジェクトアンバサダー」としても活動する。

災害が発生すると、高齢者や障がい者は自力での避難が困難な場合が多くある。要配慮者の一人一人の事情を踏まえた災害時の対応を整備することが急務となっている。地域における福祉防災の重要性が高まるなかで、JAができることとは――。

災害時、もっとも犠牲となっているのは、高齢の方や障がいがある「要配慮者」の方々です。東日本大震災では犠牲者の約6割が高齢の方。障がいのある方が犠牲となった割合は、被災住民全体のそれと比較して2倍程度となっています。その後の避難生活で命を失う「災害関連死」も、東日本大震災、熊本地震、共にほとんどが60代以上。毎年のように起きている水害でも、高齢の方・障がいがある方が多く犠牲となっています。

自分では逃げることができない方の命を、どのようにして守り、繋げていくか。いつ起きてもおかしくない巨大地震、地球温暖化による気候危機の中、喫緊の課題となっています。

昨年、改正災害対策基本法が施行され、個別避難計画の作成が市区町村の努力義務になり、福祉避難所のガイドラインも見直されました。個別避難計画とは、避難行動要支援者(以下「要支援者」と称する)を、いつ、どこに、誰と一緒に(支援者)どのように避難するのかを決めることです。そして、避難先は、福祉避難所など、本人が希望する避難先に直接避難できることを目指しています。WEBサイト「JA CARE NET ~JAの高齢者福祉事業・活動~」にも「市町村から指定福祉避難所としての指定を希望する依頼があった場合などには、可能な限りでご協力いただけますよう、お願いいたします」という一文があり、すでに協定を結んでいるJAの福祉施設もあります。

全国に2万か所以上の福祉避難所がありますが、実効性のある避難所にするためにはさまざまな課題があり、指定福祉避難所のマニュアルを作っているのは15%ほど、必要な資材、水、トイレ、食料などを備蓄しているのは、3割弱となっています(避難所外避難者の支援体制に関する研究結果から)。

私が所属している福祉防災コミュニティ協会では、福祉事業者のBCP研修、福祉避難所マニュアル研修・訓練を行っています。福祉関係者が防災に取り組むようになると、平時から職場の人間関係や環境が良好になったり、利用者・地域や自治体などとの連携が進んだりすることを実感します。

入所者14人が亡くなった特別養護老人ホーム「千寿園」
令和2年7月豪雨で入所者14人が亡くなった特別養護老人ホーム「千寿園」(熊本県球摩村)

「みんなで逃げ、みんなで助かる」

福祉防災の要となる個別避難計画づくりも、地域共生社会づくりに役立ちます。行政だけでは計画を作成することはできず、実効性のある計画にするためには、福祉関係者や民生委員、地域住民など多くの方が支援者として関わることが求められています。そのため、計画を作る過程で「顔の見える関係」づくりに役立つことが確認されています。

また、初めてお会いしたときには「自分はここで死ぬからいい」と避難を拒んでいた要支援者の方も、この取り組みを通じて「あなたが死んだら悲しい」ということが伝わり、避難に前向きになり、生きる力に繋がっていく効果があるということです(令和3年度個別避難計画作成モデル事業報告書より)。

JAでは、地域の見守り活動を積極的に行っていますが、まずは地域のどこにどのような要支援者の方がいるのかを知ることが第一歩です。その普段の関わりの中で、防災訓練に参加したり、個別避難計画づくりに関わったりすることで、災害時にもその活動が生きていきます。支援者になったら24時間避難誘導しなくてはいけない、という訳ではなく、電話をする、玄関で声をかける、夜間で家にいるときなら避難誘導できるなど、無理のない範囲で関わっていくことが大切です。

普段からやっていないことは、災害時にできない――。これが過去の災害での教訓です。つまりは、災害時も役立つように、普段から関係性をつくっておこうということになります。この意識が、まさに、JA綱領にある「環境・文化・福祉への貢献を通じて、安心して暮らせる豊かな地域社会を築こう」ではないでしょうか。防災と福祉の連携によって”生きていてよかった”という社会づくりに繋がっていくことを願っています。

※取材協力/福祉防災コミュニティ協会代表理事・鍵屋一、内閣府政策統括官(防災担当)付参事官付参事官補佐・藤田亮

公開日:2022/08/01 記事ジャンル: 配信月: タグ: /

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