【協同の歴史の瞬間】〔第79回〕1929(昭和4)年8月2日監修/堀越芳昭 山梨学院大学 元教授

監修

堀越芳昭
山梨学院大学 元教授

堀越芳昭 山梨学院大学 元教授

協同組合や農協界にとって重要なターニングポイントとなった記録をひもとく。

左子清道『産業組合理事者の修養』を出す(下) ~学ぶべき原点を明示~

前回は左子清道『産業組合理事者の修養』が出版されるまでの経過を中心に見たが、今回は彼が最も強調したかったと思われる「第88話 理事者の守るべき信條」を見ていく。その全文を紹介したい。

産業組合の理事者、就中(なかんずく)經營の主腦者たるものは、堅き信念の下に、守るべき信條を有し、それに依(よつ)て職務を行ふて行くやうにせねばならぬ。而(しか)してその守るべき信條は、人々に依て選むところを異にするであらうが、少くとも次の六つのことは職務上の信條として守つて欲しいのである。

  
  1. 至純の誠意、組合の事業に對(たい)しては、一點(いってん)の私心を挟まず、組合員の利益幸福の増進を思ふの外、また他念あるべからざること。
  2. 至大の同情、組合員の經濟上その他位置境遇等に對し、常に滿腔(まんこう)の同情を寄せ、組合員の憂を觀てはそれを除かんことを欲し、組合員の喜びを觀てはそれを增(ふや)さんことを希(こいねが)ひ、組合員の一喜一憂を以て直ちに己の一喜一憂と爲(な)すこと。
  3. 渾身の努力、組合の業務に對しては、倦(う)まず撓(たゆ)まず、粉骨碎身の勞を捧げ、死して後(の)ち止むの覺悟(かくご)あるべきこと。
  4. 時代に適應(てきおう)、時代は變遷(へんせん)して極り無し。昨時代適應の施設も、今は時代後れと爲り、折角の努力もその效(こう)を減ずること少しとせず。常に時代の推移を觀、時代適切の施設を爲すことを怠らざること。
  5. 法令の恪守、心に不正無きも、行ふところにして苟(いやし)くも法令規約等に背戾(はいれい)することあらば、终に組合を毀(こぼ)つに至るべく、又、組合員に規約の嚴守を强ふるの資格を失うに至るべし。自ら法令を守り規約勵行の範を示すべきこと。
  6. 忠實なる下僕、組合を以て、己が任意になし得るものと考ふること無く、その主人に仕ふる忠僕の如く、忠實と謹直と尊敬とを以て組合に仕ふべきこと。
  協同の歴史の瞬間

以上を以て日常の信條と爲し、これを實踐躬行(じっせんきゅうこう)する時は、學ばずして經營上の智と伎とを養ひ、求めずして組合員の心服を得、敎(おし)へずして組合員を感化し、導かずして職員の怠慢不正を防ぎ、斯くして内容充實し外觀整齊し、以て理想の組合を現出することが出來るのである。(8月12日)

この点に関し荷見武敬氏は「経営者の執務上の心構えとして、襟を正して学ぶべき原点を明示しているといえよう」と述べられているが、役職員とも左子から学ぶことは多い。

参考文献/左子清道『産業組合理事者の修養』(同栄社、1929年)
     荷見武敬『協同組合学ノート』(家の光協会、1992年)

公開日:2022/06/01 記事ジャンル: 配信月: タグ: /

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