【農業・食料ほんとうの話】〔第129回〕「食料危機」に「農業潰し」は、誤っている

鈴木宣弘 東京大学大学院 教授

鈴木宣弘 東京大学大学院 教授

東京大学大学院 教授 鈴木宣弘

すずき・のぶひろ/1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業後、農林水産省入省。農業総合研究所研究交流科長、九州大学教授などを経て、2006年より現職。専門は農業経済学、国際貿易論。『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書)、『協同組合と農業経済 共生システムの経済理論』(東京大学出版会)ほか著書多数。

ウクライナ紛争が勃発し、小麦をはじめとする穀物価格、原油価格、化学肥料の原料価格などの高騰が増幅され、最近、顕著になってきた食料やその生産資材の調達への不安に拍車をかけている。

2008年の「食料危機」を越えた小麦価格

ロシアとウクライナで世界の小麦輸出量の3割を占める。4月の小麦の播種ができないと、一気に事態は深刻化する。日本は米国、カナダ、オーストラリアから買っているが、代替国に需要が集中して争奪戦は激化する。そして、ついに3月8日、小麦のシカゴ先物相場は、2008年の食料危機の最高値を上回った。まさに、食料危機は現実のものとなっている。

ロシアとウクライナで小麦輸出の3割を占める

また、我が国は化学肥料原料のリン、カリウムが100%輸入依存で、その調達も中国の輸出抑制で困難になりつつあった矢先に、中国と並んで大生産国のロシアなどで紛争が起こり、今後の調達の見通しがますます暗くなっている。リン鉱石の生産は1位中国、4位ロシアで、カリウムは2位ベラルーシ、3位ロシア、4位中国である。

農家のふんばりこそが希望の光

食料危機が眼前に迫るなか、国内農業への期待は高まっている。筆者のツイッターにも、「ここまでがんばってきた農家さんも、新たに就農する方々も、日本の宝。感謝しかないです。ありがとう!」といった、国内の農家への感謝と期待の声が多く寄せられている。

世界一過保護と誤解され、ほんとうは世界一保護なしでふんばってきたのが日本の農家だ。そのがんばりで、今でも世界10位の農業生産額を達成している日本の農家のみなさんはまさに「精鋭」である。誇りと自信を持ち、これからも家族と国民を守る決意を新たにしてもらいたい。

今をふんばれば、農の価値がさらに評価される時代がかならず来る。いや、もう来ている。とくに輸入に依存せず国内資源で安全・高品質な食料供給ができる循環型農業をめざす方向性は子どもたちの未来を守る最大の希望である。

水田の転作作物への交付金カットで「農業潰し」

それなのにいま、水田の転作作物への交付金カットで、全国の農村現場が大混乱に陥っている。水田活用交付金について次のことが決まった。

①5年間水稲の作付け(水田の水張り)がなければ交付対象外とする。

②飼料用米の新規の複数年契約は交付対象外とする。

③多年生牧草が対象の助成は、種まきをせず収穫のみをおこなう年については現行の10a当たり3万5000円から1万円に減額する。

ウクライナ紛争も勃発し、大局的には国内の農業生産振興の強化が、主食用米も、飼料用米も、麦も、大豆も、野菜も、牧草もすべて含めて急務なことはだれの目にも明らかである。

そんなときに、主食用米を減らせと言い、さらに、転作は支援する言っていたのに、こんどは転作しても支援しないと言い出した。飼料米や麦や大豆、野菜やソバや牧草の作付の支援をカットすると言われたら、農家は立ち行かなくなる。離農が続出し、耕作放棄地がさらに広がる。自給率も急降下する。

海外からの食料と生産資材が高騰し、調達もままならない食料危機が始まっているときに、国内生産振興どころか、国内の農業を潰して、どうやって危機に対処するのか。国会でも「食料自給率」という言葉が、いまだに政府からほとんど出てこない異常さである。

苦しむ現場~コスト急騰なのに低迷する農産物価格、減らぬ在庫

そうでなくとも、すでに現場はさらに苦しんでいる。肥料、飼料、燃料などの生産資材コストは急騰しているのに、国産の農産物価格は低いままで、農家は悲鳴を上げている。こんなに輸入小麦がたいへんな事態になっているのに、国産小麦は在庫の山だという。

政府だけでなく、加工・流通・小売業界も消費者も、国産への想いを行動に移してほしい。いまこそ、みんなで支え合わなくては、有事は乗りきれない。

そして、国家戦略もなく、人としての心もなく、ただ、歳出削減しかみえない財政政策こそが、最大の国難といってもよかろう。

公開日:2022/05/02 記事ジャンル: 配信月: タグ: /

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