【JA実践事例紹介】JAにおけるSDGsと女性の活躍(後編)――JAふくしま未来に学ぶ阿高あや一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 主任研究員

阿高あや
一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 主任研究員

JAグループは、「JAグループSDGs取組方針」を掲げ、それぞれの地域が置かれた環境を踏まえて、SDGsの達成に向けた活動を実践している。後編となる本稿では、JAグループのみならず世界の協同組合のSDGsを牽引してきたJAふくしま未来の女性の活躍と拠点再編の取り組みを中心に、持続可能な地域社会に対し農業協同組合は何ができるか考えたい。

1.JAふくしま未来とSDGs

JAふくしま未来は2016年に福島、伊達、安達、そうまの4地区のJAが合併して誕生した。管内には福島第一原子力発電所の事故による旧避難区域や旧特定避難勧奨地点があり、営農再開には至らない地区を未だ抱えている。組合員数は正組合員45,797人、准組合員48,010人、役職員数は1,429人である(2022年10月末現在)。

JAふくしま未来とSDGsの関わりは2016年の合併以前に同JA福島地区の前身JAを中心に、国連の国際協同組合年(2012年)、国際家族農業年(2014年)、国際土壌年(2015年)、国際協同組合デー(毎年7月第一土曜)などの国際指標に都度呼応し、役職員研修会、広報誌への掲載、直売所でのイベントなどに取り組んできたことに遡る。

(1)国際的評価――ICAとの関わり

同JAは国際協同組合同盟(ICA)との関わりも多い。2015年3月には「規制改革に関するICA連携・調査団」の視察を受け入れており、M.ローリー氏(ICA理事・米)、C.グールド氏(ICA前事務局長・米)らが来組。筆者は当時、地産地消ふくしまネットの特任研究員の立場で、この視察の現地コーディネートを担当した。

グールド前事務局長は「当初、福島で何が待ち受けているか心配したが、デイサービス、斎場、担い手育成農場、放射性物質モニタリングセンターと、全てにおいて素晴らしい取り組みを目の当たりにした。困難を抱えているなかで、国際協同組合年、国際家族農業年、国際土壌年と、国連のテーマに合わせて取り組んでいる。日本の農協改革に対しても、自己改革ではなく『再生』という言葉が非常にぴったりだと思った。ICA理事会でも報告しグローバルに共有したい」と高く評価した。

調査団の報告を受けた当時のICA会長のM.ルルー氏も、2016年5月に合併して間もないJAふくしま未来を視察し「現場を見て、震災復興に協同組合がとても尽力してきたことがわかった。ICAサミットの中で福島の復興に向けた取り組みを特集して取り上げたい」と述べている。そして約束通り、同年10月にカナダで開催された「第3回国際協同組合サミット」のプレサミット「自然災害からの復興のため行動する協同組合」において、日本の協同組合を代表してJAふくしま未来が報告を行った。プレゼンターであるM.ルルー会長は当時の菅野組合長を紹介する際「SDGsと協同組合を語る上で無くてはならない先例」と称賛した。

同JAはオンラインでもグローバルに発信を行った。2016年7月には、ICAが加盟国の協同組合がSDGsの達成にどのように貢献できるかを誓約し、進捗状況を報告することを目的に開設した宣言サイト「Co-ops for 2030」を立ち上げるや否や、JAふくしま未来が日本の協同組合として初めて、ICA加盟団体でも2、3番目に以下を宣言した。同宣言は合併直後のJAふくしま未来におけるSDGsの取り組みの核となった。

我々に命を与え、我々が超えることのできない豊かな自然を、守り、大切にし、仲良くしながら、私たちは、かつて放射能に汚染された農地を復活させ、人々に安全な農産物を継続的に供給することにより、管内の農業生産額を2020年までに、東日本大震災前の水準以上に増加させます。(原文は英語)

(2)国内の評価――ジャパンSDGsアワード特別賞受賞

2020年12月、JAふくしま未来は政府主催の第4回「ジャパンSDGsアワード」において、「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞した。これはJAグループとしては初の快挙であった。受賞に際し、同JAが達成に貢献したとされた目標は次の5つである。

画像挿入左から①~⑤

受賞理由については外務省サイトで公開されているが、そこでは「SDGs実施指針における実施原則(評価基準)」に応じ、次の点が評価されている。1つ目は普遍性で、企業との連携、直売所の活用等で農家の所得向上を支える取組が、国内外の農業振興モデルになること。2つ目は包摂性で、コロナ禍での学生への食料支援、地域見守り活動、障害者採用等の実施、女性職員の育休取得率及び復帰率が100%であること。3つ目は参画型で、生産力の高い担い手や法人から自給的農家まで多様な生産者の参画のもと、多様性に対応した支援や販路の提供を実施していること。4つ目は統合性で、農業生産を基盤とした地域社会への貢献を念頭に、経済・社会・環境のバランスに配慮した事業展開を重視していること。5つ目は透明性と説明責任で、組合員組織や店舗・施設、地域住民等の声を運営や事業に反映したことと、広報誌での報告、公式HP等による一般広報にも注力したことである。

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政府官邸での表彰式に参列する同JA代表理事組合長・数又清市氏(左から2番目)出典/首相官邸「総理の一日」令和2年12月21日ジャパンSDGsアワード表彰式

また同JAは、コロナ禍での学生支援や農業・食産業の担い手育成等が評価され、2020年8月に日本協同組合学会より学会賞(実践賞)も受賞している。同JAは、2013年にも旧JA新ふくしまが福島県生活協同組合連合会と協同組合間協同で行った「土壌スクリーニングプロジェクト」が評価され同賞を受賞しており、学会史上初の2度目の受賞となった。

以後、JAふくしま未来の直近の事例から、SDGs達成に向けいかに取り組みを継続しているか、紹介したい。

2.JAの拠点を「つくる責任、つかう責任」

本シリーズの前編でもお伝えした通り、日本はSDGsの17目標のうち「深刻な課題がある」と指摘された目標は6つある。そのうち目標5「ジェンダー平等を実現しよう」については毎年赤信号であるが、2022年に新たに赤信号が灯ったのは目標12の「つくる責任つかう責任」である。消費者サイドに課題の多いイメージの目標12であるが、実はもう1段階詳細な指標まで読むと「2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」や、「雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する」というように、JAにも大いに関連した目標であることがうかがえる。

ここからは、目標5と目標12に関連して、JAの拠点再編に伴う地域課題を、女性部員が店舗を自主運営することで克服しようとしている事例を紹介したい。

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「しらね里山のみせ」運営メンバー。右端が女性部白根支部長・齋藤近子さん、左から齋藤とし子さん、佐藤浩子さん、齋藤ミドリさん、霜山せつ子さん(筆者撮影)

(1)「しらね里山のみせ」の概況

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JAふくしま未来白根支店は伊達市梁川町にあり、宮城県との県境に位置した山間地である。過疎化・高齢化が進んでおり、独居世帯や交通手段を持たない高齢者のみの世帯が急増し、社会的インフラの維持が困難になっている。白根支店はそんな地区において唯一のコミュニティ施設であったが、JAの拠点再編計画によって2021年9月に隔日営業に移行。2023年2月末をもって金融店舗の営業を終了し、移転することになっている。

同地区は旧来より女性部、農事組合、生産部会、年金友の会、自治会など地縁組織の結びつきの強い地区である。現在、女性部白根支部には40人程度のメンバーがいるが、統廃合の決定を受け白根支部の女性部は三役を中心に話し合いを進め、店舗活用を提案することを決意した。三役のうち1名はJAの元生活担当職員(現在は理事)である。この3名の他、更に女性部の中から生活協同組合の店舗事業を経験した部員と、コンビニエンスストアで小売経験のある部員を誘って、5人組が結成された。

JAとしても廃止した支店の有効活用と拠点の再構築はかねてからの懸案事項であったことから、支援が決定。2021年4月からJA職員伴走の下、試験運用として支店の一角に「しらね里山のみせ」が開店。値段の付け方や接客など、店舗の自主運営に向け勉強を重ね、同年9月には5人での本格運営が開始した。立ち上げ時は、JAのチラシや行政の地区の広報誌に掲載し、地区内に周知した。

営業は金融店舗の営業に合わせ火曜・金曜の週2日。営業時間は出納を伴うので金融店舗の開店時間内におさまるよう9:30~14:30としている。営業スタッフは午前2人、午後1人体制で5人でローテーションしている。白根支店廃止後は、近隣の支店に開店前後に赴きお金を預ける予定だ。

来客数は1日約30~40人であるが、買い物が終わった後もメンバーとお話をしながら半日近く滞在する利用者もおり、地域のコミュニケーションの場にもなっている。高齢者の中には孫と歩いてきたり、自分でシニアカーを運転してきたりする方もいる。

店舗を自主運営する動機の一つに「子どもが自分でアイスクリームを買える店を残してあげたい」というものがあった。現状の営業時間では学齢期の児童が買い物に来ることはできないが、それでも休校日と開店日が重なった日などは、自転車で子どもたちがアイスを買いに来て(帰宅すると溶けてしまうので)、お店の前で食べる姿も見られる。また地区特産の「もろこし」を用いた焼酎やクッキーや餅などの6次化商品を、地元の加工グループと連携して仕入・販売しており地域活性に貢献している。

JAは店舗の提供、活動支援の他、管内の資材センターや農産物直売所から食料品や生活用品の仕入れ業務などで店舗運営を支えている。自立した経営を目指してもらうためにも、JAから賃金の支払いはしていないが、「手当」としてメンバーに報酬が支払われている。5人のメンバーは働き盛りではなく、いわゆるリタイア世代で構成される。彼女達は孫や親のケアや農作業の傍ら、家事の都合に合わせてシフトを融通し合って活動している。

(2)地域の見守り活動と拠り所の再編

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車両贈呈式に参加するJA役職員と白根地区の関係者(筆者撮影)

2022年11月には、地域見守りなどの目的のためJAから車輌が贈呈された。車輌は、女性部白根支部のメンバーが白根地区の高齢者世帯の見守りを目的にしながら週2回程度の巡回を行い、要望があれば食料品、生活用品、地元農産物などを届けることで高齢者の生活を安定させることを目的に、JA共済連の「地域・農業活性化積立金」の助成を受け購入された。

車両贈呈式では、数又清市代表理事組合長が「かつては白根地区にも2、3軒の商店があったが今は1軒も無くなってしまった。高齢者の方々にはこれまでJAに対し多大なご支援・ご協力を賜ってきた。その皆様にインフラを維持したいという観点から、女性部の5名の皆さんの開店を支援させて頂いた。まだ建物も充分活用できる。私たちJAは組織があることが最大の強み。今後組合員さんと力を合わせ、拠り所としてどのように活性化できるか――拠点再編と併せたモデルとして先進事例となれるよう、店舗にますます人が集うよう、皆様にもご協力賜りたい」と参列した地区の住民に継続的支援を要請した。

車輌を活用し見守り活動を本格始動するにあたっては、自治会役員などの協力も必要になる。また巡回に際し必要となる住民の個人情報については、民生委員にも協力を仰ぐ予定だ。本活動はJAや女性部のみならず地区内の他セクターの構成員との連携も非常に多く見られる。この点、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にも結びつく非常に重要な視点と感じた。

(3)今後の展開

拠点とは「いろいろな活動をするための重要な所」を指す言葉である。建物だけがあっても人がいなくては拠点には成りえない。筆者は「しらね里山のみせ」の調査を経て更なる可能性を感じた。

まず同JA管内の他の地区には、建物が老朽化していないが統廃合の対象となった支店が他にもある。まずはJA内で「しらね里山のみせ」の経験を共有し、廃止して間もない今、そこが人々の拠点として認識している間に、組合員組織で活用できることはないか、検討を再開すべきだろう。どうしても地元組合員による活用が難しい場合であっても、例えばショーケースや冷蔵庫をリユースすることはできないか、目標12の「つくる責任つかう責任」に照らして、統廃合した店舗の備品をリスト化して他の支店・支部と共有して新たなコストを減らすだけでもSDGsに大きく貢献することとなるだろう。

またインフラ整備に関しては、大手の通信業者に依頼したりJAとして包括的な契約を結んだりすることで無料のWi-Fiスポットを導入することはできないだろうか。そうすれば店舗撤退後の空間を活用し、高齢者向けのスマホ教室や、ネット通信が必要なゲーム機を持っている子どもたち、近くにあるボルダリング施設(伊達市ウエルネスサロン白根「弥平ふるさと館」)に訪れた若者のワーケーションなど、新たな利用者層の獲得も想定される。

また、店舗2階の和室の集会スペースもまだまだ活用が可能だ。現状、女性部の役員会の他、年金友の会や農事組合や生産部会などの継続利用が想定される。例えば、伊達地区の他の支部で展開している子ども食堂やフードパントリーなどの食料支援と連携することで、小学校の長期休暇に寺子屋のような学習の場を提供することはできないだろうか。もしくは青年部と連携して、単発でも構わないので、『ちゃぐりん』を活用した食農教育を実践するスクールなどを展開できないだろうか。特産品のもろこしを加工するカリキュラムなどを入れれば食文化の継承にもなる。地元・福島大学との連携も非常に密なJAふくしま未来であるから、学習や調理などのボランティアを学生から募ることで互いに良い効果も期待できる。

車輌の導入に伴う見守り活動に際しては、他の地域ではあるが、JAと行政とが包括的に連携協定を結んで、行政職員に連絡した上でJA職員が非常時に救急車を手配するなど、命を繋いだ事例もある。「しらね里山のみせ」には高齢の利用者からペットボトル飲料など重量のある品物の電話注文が入り、運営スタッフが自家用車で配達をしてきた経緯がある。利用者からは配達料の支払いを申出られることもあるが、辞退してきた。車輌は地域の見守り活動を目的に贈呈されたことを踏まえても、今後の可能性として、例えば配達手数料を徴収した上で、巡回が必要だと判断した高齢独居世帯については定期配達をすることは可能であろう。その際、高齢者の息子・娘やきょうだいなど当事者にとってキーパーソンとなる人物の了承を得たり、行政や自治会などと連携を図れれば、コミュニティとビジネスモデル、いずれの持続性も高まる優れた先進事例となり得るだろう。

参考文献
外務省HP「第4回ジャパンSDGsアワード受賞団体の取組」
ICA COOPS for 2030サイト

ご案内

『家の光』2023年3月号「みんなでできた! JA女性組織」にて「しらね里山のみせ」の取り組みを掲載しています。ぜひ、本記事とあわせてご覧ください(『家の光』のお申し込みはお近くのJAまで)。

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