【JA実践事例紹介】JAにおけるSDGsと女性の活躍 ――JAうつのみや「みどり会」に学ぶ持続性の高い地域活動(前編~栃木県JAうつのみや) 阿高あや一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部 主任研究員

阿高あや
一般社団法人日本協同組合連携機構 基礎研究部  主任研究員

JAグループは、SDGs取り組み宣言を掲げ、それぞれの地域の実情を踏まえて、SDGsの達成に向けた活動を実践している。その背景や現状、成果、課題はどのようなものか。2つのJAの取り組みをとおして、JAグループが目指す先のヒントを探る。

はじめに――SDGsの深刻な課題

やる気ある農家支援事業 審査の様子
出所:「SDG Index and Dashboards Report」2022年版

達成年限まであと8年を切った国連「持続可能な開発目標(SDGs)」は、国民理解の醸成に向け、大手メディアを中心に関連企画の放送が増加している。しかし、異様なほどの盛り上がりに反し、日本のSDGsは達成から遠のいている実態がある。国連加盟国のSDGsの達成度が定点観測できる国際レポート※1では、日本は2017年が最高の11位であったのを最後に、2018-19年が15位、2020年が17位、2021年は18位、そして2022年は過去最低の19位までランクを落としている。図中の赤色のロゴは「大きな課題が残っている」と判断された目標である。

日本政府はSDGsを推進するための具体的な施策として「SDGsアクションプラン」をとりまとめ、毎年更新を続けている。「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」は各省庁から提出された140余の施策を仕分けし、目標と紐付けている。しかし、赤信号が灯っている目標はどれも、既存の施策を結び付けただけでは改善しない深刻な課題ばかりである。JAグループも、2020年度に「JAグループSDGs推進にかかる対応の手引き」の中でJAの事業と活動をSDGsに結び付けるためのツールとして、紐付けシートや星取表を公開している。しかし、十分に活用されているとは言えない状況だ。また、苦労して紐付け作業をしても、それだけでSDGsは解決されない。どんなに小さくてもアクションを起こすこと—これがSDGsの最適解だ。

また「JAは従来通りで十分SDGsだ」という発言もよく耳にする。しかし、この考え方は要注意だ。守破離(しゅはり)という概念があるが、SDGsも同じだと筆者は考える。一度は国際尺度でしっかりわがJAを総点検し、組合員・役職員がともに結果を見つめた上で、SDGsに囚われすぎない独創的な対応策を講じることも、大切だ。

本稿では、日本が例年赤信号である目標5のジェンダー平等を軸に、JAと女性・女性組織に関し示唆的な取り組みを行っている2つのJAを事例に報告を行う。前編では、栃木県・JAうつのみやの女性組織「みどり会」による長く続く活動の秘訣が沢山詰まった取り組みを報告する。

1.JAうつのみやの管内と女性組織の概況

(上図い入る)

JAうつのみやは1998年3月に栃木県宇河地区の5JA(JA宇都宮・JA上河内・JA栃木かわち・JA南河内・JAかみのかわ)が合併して発足した。栃木県のほぼ中央に位置し、人口50万人超の県都・宇都宮市を中心に、上三川町、下野市の一部の2市1町を管内とする。利根川水系の鬼怒川・田川・姿川の各河川流域の平地で稲作、平地間にある台地では畑作地帯が形成されており、米麦を中心に、イチゴ・トマト・ニラなどの園芸作物や、梨・リンゴなどの果樹、牛などの畜産物が複合経営で生産されている※2

JAうつのみやには「みどり会」「あじさい会」「なの花会」の3つの女性組織がある。同JAの基幹的な女性組織である「みどり会」は、JAの合併翌月の1998年4月に設立され、60~70代を中心に活動する。「あじさい会」はみどり会の上の世代、「なの花会」はみどり会の下の世代で構成される。現在みどり会には、中央、平石、横川、雀宮、城山、国本、富屋、篠井、豊郷、清原、瑞穂野、姿川、上河内、河内、上三川の計15の支部がある。

2022年11月21日現在、みどり会は会員485名で、うち正組合員とその家族が302名、准組合員が43名、員外が140名所属している。

JAが合併する以前から、みどり会には行政の生活改善運動に呼応した会員が多く加入していた。みどり会の現会長の所洋子さんは、2021年度に会長に就任した。所さんは、宇都宮市・戸祭地区の非農家の出身である。40年前に入籍し上河内地区に移り住み、現在は米とイチゴを生産している。所さんは上河内に嫁いだ際に「子育てやりながら外に勤めに出るか、家で農家をやるか」の二択で迷い、「土地があるなら農家をやってみよう」と農業を選択した。女性組織への加入は、役場職員である夫から「生活改善グループに入って友達作ったら?」と勧められたのがきっかけであった。

2.目標3に関わる取り組み

(上図い入る)

(1)ほほえみサロン

SDGsの目標3では「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことが提唱されている。2017年からみどり会は、高齢化の対応に伴う介護予防の一環として65歳以上の地域住民を対象に「ほほえみサロン」を開始した。各支部は年1~2回の頻度でサロンを開催。内容は、公民館などを借用し、『家の光』の記事活用、昼ご飯の提供、脳を活性化させる体操などで元気高齢者との地域交流を深めてきた。参加費は無料で、費用はJAが担った。支部によっては送迎も行った。

ようやく軌道に乗ってきたところでコロナの感染拡大に見舞われ、高齢者を集める活動は断念せざるを得ない状況となった。地域社会への貢献活動に手応えを感じ始めていたみどり会の会員は、ほほえみサロンの代わりに自分たちができることを模索し始めた。

(2)ポリオワクチン寄付

SDGsの目標3では、感染症の蔓延を2030年までに食い止めることも宣言されている。その具体策の一つとして、すべての人が安全で効果的なワクチン接種を可能にすることが求められている。しかし、コロナ感染拡大によってワクチンの接種率は世界的に悪化し、日本でも日本脳炎ワクチンが然るべきタイミングで接種できなくなるなど影響を受けていた。撲滅まであと一歩というところで再流行のリスクが極めて高くなった疾病が、ポリオウイルスである。アフリカの各国では、ポリオワクチンの接種率が最低水準となったり、下水からポリオウイルスが検出されたりしており、今、適切なワクチン接種の重要性が高まっている。

JAうつのみや女性組織みどり会は、2020年度よりペットボトルキャップを回収する運動に取り組んでいる。会員が自宅から最寄りの営農経済センターにキャップを持ち込み、それをJA職員が巡回して回収する仕組みだ。そのほか、JA管内の商業施設等に回収ボックスを設置することで、地域住民からの協力も得ている。2021年からは青壮年部との合同事業として回収運動に取り組んだところ、全3回の回収で総量約1485kgのキャップが集荷され、業者を介してポリオワクチン約742本と交換された。

3.こども食堂への支援

(1)昭和こども食堂

一般社団法人栃木県若年者支援機構は、宇都宮市の昭和地区で「子どもの貧困が大きな社会問題となる中、子どもたちを支援する場がもっと地域の中にあれば、子どもはもっと社会とつながり、社会を知って、元気よく成長できるのではないか」との思いから、2016年に「昭和こども食堂」を立ち上げた。JAうつのみやは、2019年度より協力サポーターとして協賛等を行ってきた。

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みどり会の所会長(中央)と同姿川支部の柴田支部長(左)と粒良会員(右)

「昭和こども食堂」は2018年に同市内の戸祭地区に移転し「子どもたちの食べる・学ぶ・遊ぶ・安心を支えるワンストップ支援拠点」として、「キッズハウス・いろどり」を開設。毎週月曜夕方に、予約不要で子どもから大人まで誰でも利用可能な地域食堂を継続している。利用料は大人500円、子ども(小学生~中学生)は300円で、未就学児は無料である。また、各家庭の事情に合わせ支払いが免除されるチケットもある。

(2)食材支援

現在、昭和こども食堂で使われる食材の多くは、JAうつのみやから提供されている。こども食堂のスタッフは、JAうつのみやの農産物直売所・グリーンインターパークで食材を購入すると、月一で全額がキャッシュバックされるシステムとなっている。キャッシュバックの上限は年間20万円であるが昭和こども食堂の荻野友香里代表によると、「年間の食材費としては十分賄える金額」とのことだ。他にも、JAからは米や果物、青壮年部からスイカ割り用のスイカなど、季節に合わせ管内農産物が贈呈されている。

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昭和こども食堂の荻野友香里代表

(3)調理支援

現在、昭和こども食堂には、JAうつのみやの女性組織「みどり会」15支部と「なの花会」1グループ(中央グループ)の計16支部・グループが参加している。各支部・グループからは毎回2名ずつが、毎月第4月曜の午後に2時間程度、ボランティアで調理を行っている。

きっかけは、同JAが支援を通じて、こども食堂で調理ボランティアが不足している実情を知り、JAの女性組織に協力を要請したことだ。みどり会は、コロナの感染拡大によって「ほほえみサロン」の開催を断念していたタイミングでもあり、所さんはみどり会の役員に対し「月一回くらいであればどうですか?」と調理支援を打診したところ快諾。役員は支部の皆さんと協議し、全体の合意が得られた。代表の荻野さんは20代で昭和こども食堂を立ち上げており、料理のレパートリーも今時のものが多く、宇都宮の郷土料理もあまりなかった。そのため、荻野さんとの懇談からは調理支援とともに「昔ながらの家庭料理や郷土料理や行事食を味わったことのない子どもたちに食べさせたい」と所さんは感じたそうだ。

こども食堂の利用者は毎回20人前後。あらかじめ支部ごとに話し合ってレシピを決め、それをJAの生活福祉課の担当職員が規定のフォーマットに入力し、印刷。レシピは、調理中は台所の冷蔵庫に掲示され、調理後は子ども食堂にレシピ集としてストックされる。これにより、当初の代表同士の願いであった煮物などの家庭料理や宇都宮の郷土食も、女性組織の調理支援のない時でも再現可能となる。

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調理ボランティアが家庭料理を提供

みどり会の調理支援の日(毎月第4月曜日)は、SNSや口コミで認知している来場者が多い。昭和こども食堂からの謝意は、日々のやりとりの他、色紙となって届けられることもある。色紙には、木製の飯台に盛られたちらし寿司の見た目が華やかであったこと、野菜がふんだんな天ぷらはカラッと揚がっていて母子で大喜びしたこと、すいとんを知らない子どもがいたことなど様子がわかるコメントが書かれており、両代表の思いが伝わったことが窺える。

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JAうつのみや本所には昭和こども食堂からの感謝の色紙が掲示されている

会長の所さんは「食は大事。孤食やインスタント食や朝ごはんを抜いているなどよく耳にするが、脳と心の発達が心配。支部ごとに献立も考えるのが一仕事ではあるが、手作りの料理を食べさせてあげたいという思いで、和食を中心に継続している。今後もこのくらいであれば負担にならずに継続できる」と語った。

おわりに

新しい取り組みを企てる際に、SDGsを念頭に考えるあまり大掛かりになってしまって、JAや女性組織が息切れしてしまい、結果、単発で終わってしまったということがよくある。その点みどり会は、企画段階から「このくらいだったら支部の皆も負担なく続けられるかな?」という配慮がある。たとえ1支部年1回の活動だったとしても、JA全体で考えれば地区ごとに支部の数だけ取り組みが遂行されたことになる。これは非常に持続性が高い仕組みだと感じる。

また、組織内においても「このくらいだったら青壮年部の力を借りられるかな?」という連携のコツも学ばせて頂いた。女性だけでなく男性、組合員だけでなく職員、JAだけでなく商店、行政、市民団体……とどんどん巻き込んでいくことで、SDGsの芽を楽しく大きく育てている事例だ。これからSDGsの活動を女性組織で考えているJAにとって、参考となれば幸いである。

米の庭先集荷の様子
本稿で紹介したJAうつのみやと女性組織「みどり会」の取り組み

取材日/10月24日

参考文献
※1 持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)・ベルテルスマン財団(独)「Sustainable Development Report 2022(持続可能な開発レポート)」
※2 宇都宮農業協同組合「 JAうつのみやガイドブック2021」

公開日:2023/01/04 記事ジャンル: 配信月: タグ: / / / /

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